ご挨拶

　令和３年１２月１日付で、中村栄男先生の後任として医学系研究科臓器病態診断学 教授および病理部長を拝命しました加留部謙之輔と申します。私は2000年に九州大学医学部医学科を卒業し、九州大学第一内科に入局後、２年間の初期臨床研修(九州大学病院および松山赤十字病院）を行いました。そこで造血器疾患の症例に触れる機会を多く得ることができましたが、それらの診療における病理診断の重要性を認識し、また同時にリンパ腫病理診断学のあまりの「わからなさ」に不思議な魅力を感じたのを覚えています。

　そこで2002年から九州大学第一内科の大学院(原田実根(はらだみね)教授)に所属しながら、当時血液病理学研究の一大拠点であった福岡大学病理学講座(菊池昌弘(きくちまさひろ)教授)に通って一般診断病理の研修とリンパ腫病理の研究を始めました。病理専門医および学位を取得後は日本学術振興会特別研究員(PD)として久留米大学病理学講座(大島孝一(おおしまこういち)教授)のもとで臨床病理学的研究を継続しました。

　一方で病変組織をより深く解析する手法、また普段免疫染色で観察している各分子の機能的側面を知りたい気持ちも芽生え、2008年からは愛知県がんセンター研究所遺伝子医療研究部(瀬戸加大(せとまさお)部長)の元で基礎研究、ゲノム解析を軸にした研究を行い、５年間みっちり鍛えていただきました。その後はスペイン バルセロナ大学のElias Campo教授の元でリンパ腫の網羅的ゲノム解析と臨床病理学的研究の統合的解析を行いました。このような背景を持って、2015年より琉球大学医学部細胞病理学講座でPIとしてラボを持たせていただきました。

　琉球大学のラボは決して大規模なものではなかったですが、それゆえに共同研究の形で多くの施設と協力しながら研究するノウハウを学ぶことができました。特に沖縄県に症例が集積している成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)に関して、新しい診断法の確立および新規病態を同定できたことは大きな成果と考えております。これらの経験を通して固まってきた今後の私の研究のテーマは「より良い疾患分類の構築と日常診療に貢献する診断技術の開発」です。日常診断に従事していますと典型的な症例というのはむしろ少なく、非典型的な例が多いことは臨床医の方々なら実感していることと思います。それらの非典型例を病理学的に詳細に解析することによる既存の概念の明確化および新規疾患概念の確立を目指した研究を行っていきたいと思います。また、近年は治療のコンパニオン診断としての病理診断、免疫染色が重要視されてきていますが、治療効果を最も反映する正確な基準が整備されている状況とはいえません。このように診断病理における日常的な課題を克服するような研究も行っていきたいと思います。

　私の専門は血液病理であり、研究面では今後も同分野を切り開いていきたいと思っておりますが、診療面では他の臓器の診断ももちろん重要と考えます。琉球大学では病理部長などを兼任させていただき、病院病理部のあり方について考える機会を得ました。私としては、臨床と病理の「対話」が正確な診断のみならず研究のシーズの発見のためにも重要と考えております。名古屋大学医学部附属病院におきましても、さまざまな分野、臓器で活発な議論がなされるよう、環境を整えていきたいと思っております。皆様には、今後とも一層のご指導ご鞭撻を賜りますよう謹んでお願い申し上げます。

略歴

2000年　　　　　　九州大学医学部医学科　卒業
2000年-2001年　　九州大学医学部附属病院　臨床研修医
2001年-2002年　　松山赤十字病院　臨床研修医
2002年-2006年　　九州大学医学部大学院医学研究科博士課程　修了（指導教官：原田実根教授）、福岡大学医学部大学院医学研究科研究生（指導教官：菊池昌弘教授）
2006年-2008年　　久留米大学　病理学講座（大島孝一教授）、日本学術振興会特別研究員（PD）
2008年-2012年　　愛知県がんセンター研究所　遺伝子医療研究部（瀬戸加大部長）主任研究員
2013年-2014年　　バルセロナ大学IDIBAPS研究所（Elias Campo研究室）、上原財団海外留学助成　リサーチフェロー
2015年-2021年　　琉球大学大学院医学研究科細胞病理学講座教授
2021年12月　　　名古屋大学大学院医学系研究科臓器病態診断学教授、名古屋大学医学部附属病院病理部長