研究室紹介Laboratories

Back
Top > 研究室紹介 > 分子医薬学(協力) > 分子機能薬学(協力)

分子医薬学(協力)分子機能薬学(協力)

研究室概要

ゲノムDNAは、環境中の紫外線や種々の化合物、あるいは細胞自身の代謝産物などにより、絶えず損傷を受け続けています。DNA損傷は転写や複製などの正常なDNA代謝を妨げて、細胞死の原因となり、また、染色体異常や突然変異を誘発して、癌化や老化の原因となると考えられます。しかし、健常人の細胞は、細胞周期チェックポイントやDNA修復機構、さらには、損傷乗り越えDNA複製機構など、多重のゲノム動態制御機構を備えており、DNA損傷による弊害は未然に防がれています。一方で、某かのゲノム動態制御機構に異常があるためにゲノムの安定性が損なわれ、高頻度発癌や早期老化、その他の様々な生理機能の異常を呈する遺伝疾患が多数知られています。

当研究室では、ゲノム不安定性遺伝疾患の原因機構の解明を通じて、ヒト細胞のゲノム動態制御機構を包括的に明らかにし、癌を始めとするゲノムの不安定性を伴う疾患や老化の理解に資することを目的として研究を行っています。

研究プロジェクト

これまでの研究

遺伝情報物質であるDNAは、決して安定不変の化合物ではなく、容易に損傷を受けてしまいます。DNA損傷に対して高い感受性を示し、高頻度で癌を発症し、また、早期老化や成長阻害、神経系や免疫系の異常など、様々な病態を示す疾患が多数知られています。これらの疾患では、某かのDNA損傷対応機構に異常があるために、ゲノムが不安定化し、様々な病態を呈していると考えられます。

色素性乾皮症(XP: xeroderma pigmentosum)は、紫外線に高い感受性を示し、高頻度で癌を発症する遺伝疾患です。XPはA~G群とバリアント(V)群の8つの遺伝学的な相補性群に分類され、それらのうち、XP-A~XP-G群は紫外線などによるDNA損傷を修復する機構であるヌクレオチド除去修復機構に異常があります。益谷は、XP-C群の責任遺伝子産物複合体を同定し(Masutani et al., EMBO J. 1994)、紫外線損傷の修復機構を明らかにしてきました。一方で、XP-V群は、他のXPとは異なり、ヌクレオチド除去修復は正常で、その原因機構はなかなか明らかにされませんでした。益谷は、DNA損傷を複製する機構に着目してXP-V群の責任遺伝子産物を同定し、これが紫外線損傷を鋳型として、損傷を乗り越えてDNA複製を行えるDNAポリメラーゼであることを発見しました(Masutani eta al., EMBO J. 1999; Masutani et al., Nature 1999)。以来、様々な生物種で一群の類似のDNAポリメラーゼ(Yファミリー)が同定され、損傷乗り越えDNA複製(TLS: translesion synthesis)研究は大きく発展してきました。我々は、ヒトDNAポリメラーゼ・イータ(Polη)が、紫外線損傷の正確な乗り越え複製を担う機能構造基盤を明らかにし(Masutani et al., EMBO J. 2000; McCulloch et al., Nature 2004; Biertumpfel et al., Nature 2010)、一方で、誤りがちなDNA合成酵素としてゲノムの多様化に寄与すること(Matsuda et al., Nature 2000)などを明らかにしてきました。また、Polηは紫外線損傷に対する正確な損傷乗り越えDNA複製を担う一方で、誤りがちなDNAポリメラーゼでもあります。この諸刃の剣を、どのようにして使いこなしているのかということは、たいへん重要な研究課題です。また、ヒト細胞は、複数の損傷乗り越えDNAポリメラーゼを備えています。それらを使い分ける機構もまだほとんど明らかになっていません。私たちは、Polηを中心としたタンパク質間相互作用(Yuasa et al., Genes Cells 2006; Akagi et al., DNA Repair 2009; Kanao et al., BBRC 2009)からTLSの制御機構の研究も進めてきました。

  1. 損傷乗り越えDNA複製(TLS)の分子機構及びその制御機構
    TLSの制御機構は無用な突然変異の発生を防ぐ意味で大変重要な研究課題ですが、人の細胞ではまだ不明な点が多くあります。近年我々は 、スライディング・クランプPCNAのユビキチン化修飾とTLSポリメラーゼの相互作用に着目して解析を進めています(Masuda e tal., Nucleic Acids Res. 2015)。
  2. 未解明のDNA損傷トレランス機構
    細胞は、DNA損傷に応答して細胞周期を停止する細胞周期チェックポイント機構、DNA修復機構、DNA損傷トレランス機構など、多重のDNA損傷対応機構を備えています。それらの相互の連携機構を明らかにしたいと考えています。特にTLSは、複製と修復をカップリングする機構と位置付けられます。また、TLSはチェックポイントのON/OFFと連携しているはずです。さらに、それらの連携様式は、細胞の種類や組織の違いなどにより異なる可能性が考えられます。それらの時空間的な多様性を明らかにしていくことで、様々なゲノム不安定性疾患における多様な臨床症状の理解に繋がると考えています。
  3. DNA損傷対応機構間の時空間的連携機構
    細胞は、DNA損傷に応答して細胞周期を停止する細胞周期チェックポイント機構、DNA修復機構、DNA損傷トレランス機構など、多重のDNA損傷対応機構を備えています。それらの相互の連携機構を明らかにしたいと考えています。特にTLSは、複製と修復をカップリングする機構と位置付けられます。また、TLSはチェックポイントのON/OFFと連携しているはずです。さらに、それらの連携様式は、細胞の種類や組織の違いなどにより異なる可能性が考えられます。それらの時空間的な多様性を明らかにしていくことで、様々なゲノム不安定性疾患における多様な臨床症状の理解に繋がると考えています。
  4. DNA損傷トレランスの生物学的意義
    DNA損傷トレランスとは、DNA損傷を寛容する機構です。生物は、なぜ、ゲノム上のDNA損傷を複製の前に根こそぎ修復する完璧な修復機構ではなく、ゲノム上にDNA損傷を残したまま複製する寛容機構を獲得したのでしょうか? DNA損傷をゲノム上に残しておくことに何か意味がある可能性はないのか、、、たまには、そういうことも考えてみたいと思います。
  5. ゲノム動態制御機構をターゲットとした創薬研究
    Polhが抗癌剤であるシスプラチンで生じるDNA損傷を乗り越える性質を持つ(Masutani et al., EMBO J. 2000)ことに着目し、癌細胞のシスプラチン耐性を緩和する薬剤のスクリーニングを行っています。基礎研究の成果を創薬に生かすことを常に念頭においています。

教員

構成員名役職所属
益谷 央豪 教授 環境医学研究所 ゲノム動態制御分野
増田 雄司 准教授 環境医学研究所 ゲノム動態制御分野
金尾 梨絵 助教 環境医学研究所 ゲノム動態制御分野

研究実績

  • 2015年
    1. Suppressor of PCNA Ubiquitination and Oxidative-Stress-Induced Mutagenesis in Human Cells. Cell Reports, 2015; 13: 2072-2080.
    2. Masuda Y, Kanao R, Kaji K, Ohmori H, Hanaoka F, Masutani C. Different types of interaction between PCNA and PIP boxes contribute to distinct cellular functions of Y-family DNA polymerases. Nucleic Acids Research, 2015; 43: 7898-7910.
    3. Niimi A, Hopkins SR, Downs JA, Masutani C. The BAH domain of BAF180 is required for PCNA ubiquitination. Mutation Research-Fundamental and Molecular Mechanisms of Mutagenesis, 2015; 779: 16-23.
    4. Kanao R, Yokoi M, Ohkumo T, Sakurai Y, Dotsu K, Kura S, Nakatsu Y, Tsuzuki T, Masutani C, Hanaoka F. UV-induced mutations in epidermal cells of mice defective in DNA polymerase eta and/or iota. DNA Repair, 2015; 29: 139-146.
    5. Kanao R, Masuda Y, Deguchi S, Yumoto-Sugimoto M, Hanaoka F, Masutani C. Relevance of Simultaneous Mono-Ubiquitinations of Multiple Units of PCNA Homo-Trimers in DNA Damage Tolerance. Plos One, 2015; 10.
  • 2012年
    1. Masuda Y, Suzuki M, Kawai H, Hishiki A, Hashimoto H, Masutani C, Hishida T, Suzuki F, Kamiya K. En bloc transfer of polyubiquitin chains to PCNA in vitro is mediated by two different human E2-E3 pairs. Nucleic Acids Research, 2012; 40: 10394-10407.

研究キーワード

DNA損傷、DNA損傷トレランス、損傷乗り越え複製、DNA修復、DNA複製、色素性乾皮症

大学院生募集

当研究室では大学院生(≒博士号取得を目指す方)を募集しています。
当研究室の研究内容に興味のある方やもっと詳しい内容を知りたい方はお気軽にお問い合わせください。研究室見学も随時受け付けております。