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病態外科学腫瘍外科学(外科学第一)

研究室概要

教室では、特に高難度手術である胆道癌に対する肝切除術の安全性向上に取り組んできました。肝胆膵外科、特に肝門部胆管癌を中心とする胆道癌外科治療のパイオニアであり、最近では、門脈+肝動脈の切除再建、肝膵同時切除など他施設ではほとんど行われないような超高難度手術にも積極的に取り組んでいます。当科の胆道癌肝切除症例数、手術の難易度、手術成績は他施設を圧倒しており、今や間違いなく世界一のHigh volume centerになったと思われます。また、その優れた治療成績を多数の一流英文誌に報告しており、“胆道癌外科治療の名大”として拡く世界に知られています。  胆道癌以外にも、食道癌・胃癌、大腸癌、乳癌の外科治療も積極的に進めています。胸部食道癌には3領域リンパ節郭清を伴う切除を標準術式とし、他臓器浸潤を伴った高度進行食道癌に対する術前化学放射線療法後の根治切除や胸腔鏡下食道切除術も積極的に行っています。進行結腸癌や直腸癌にも積極的に腹腔鏡下手術を導入しています。侵襲の大きな手術のため一般施設ではあまり行われませんが、骨盤内局所再発や進行多発肝転移に対しても積極的な外科治療を行い、この領域でも世界に先駆ける外科治療を推進しています。 しかし、メスの力にも限界があるのは明らかで、予後を改善するにはTranslational researchに基づいた新しい診断・治療法の開発が必要です。われわれはsiRNAを用いた胆道癌・膵癌治療の研究を精力的に行っており、癌性腹膜炎患者に対する臨床応用の目処が立ちつつあります。

研究プロジェクト

(1) 遠位胆管癌の病態解明に向けた多施設共同研究

遠位(中・下部)胆管に発生する胆管癌はその病態が明らかではありません。専門施設でも総計100例程度の経験しかないことが主な理由です。遠位胆管癌の今後の臨床研究を考えるにあたり、病態解明が最優先事項と考えました。多施設共同(後方視)研究とし、データの質にこだわり症例集積を継続しています。われわれの目標は、本研究を通じて、有益な臨床知見を世界に届けることです。
具体的な研究内容とその臨床展開をまとめます。①リンパ節転移の至適分類法:N分類の修正につながりました。②術前減黄の手技と長期予後に影響:術前減黄手技に一石を投じました。③治癒切除後の再発様式と再発の危険因子:術後補助化学療法の選択に有用です。これらはすでに完了し、次の検討課題として、④遠位胆管癌における門脈切除再建、⑤深部浸潤長に基づく新たなT分類の可能性、⑥縮小手術の胆管切除の意義、などに取り組む予定です。

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図1:リンパ節転移個数別の長期予後 (左)
リンパ節転移は転移個数で1-3個と4個以上に分けると予後の層別化に有用である。
図2:術前胆道ドレナージの方法と長期予後と関係 (右)
経皮的ドレナージ(PTBD)は内視鏡的ドレナージ(EBD)よりも長期予後を悪化させる。その理由は、腹膜播種(含瘻孔再発)を増加させることによる。 

(2) 肝虚血再灌流に伴う肝障害抑制に関する研究

肝臓は血液の流れが非常に豊富な臓器です。したがって肝臓を切除する場合には、出血をできるだけ抑えるために肝臓への血流を完全に遮断する必要があります。しかしこの手技は術後に肝障害をもたらします。われわれはこの肝虚血再灌流後肝障害をできるだけ軽減する方法について研究を行っています。下図はその一例ですが、肝臓への血流を遮断する前に栄養素として重要な分岐鎖アミノ酸(BCAA)を投与すると、肝臓の血流が改善されて肝障害が抑制されることが生体顕微鏡で確認されました(下図)。またそのメカニズムとしてBCAAのクッパー細胞活性化抑制作用が関与していることを解明しました。これ以外にも様々な薬剤で肝障害を抑制する可能性を模索しております。

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上図左;ラット肝虚血再灌流後の類洞血流。 蛍光で標識した赤血球を追跡することにより類洞内の血流速を測定することができる。
上図右;肝虚血再灌流前にBCAAを投与したラットでの類洞血流 類洞径がより太く、BCAA非投与群よりも良好な血流が維持されていることが確認された。これに伴い、術後の肝酵素上昇も有意に抑制されていた。

われわれの研究室では上記以外にも大量肝切除モデル、胆管結紮モデル、胆管炎モデル、敗血症モデルなどの様々な動物モデルを用いて肝臓に関する生理学的研究を行い、臨床の現場に少しでも役立つ成果を上げるよう努力しています。 

(3) 胆道再建を伴う肝切除術後の周術期抗菌薬投与に関する前向き検討  

胆道再建を伴う肝切除は手術侵襲が大きく,術後感染性合併症発症率が高いが,抗菌薬予防投与の至適投与期間についての報告はなく,各施設で経験に頼った投与を行っているのが現状です.術前胆道ドレナージ後に胆道再建を伴う肝切除を施行した86例を対象として,無作為に,術後2日間抗菌薬を投与する群と術後4日間投与する群に振り分け,患者背景,術後感染性合併症発症や術後炎症反応を前向きに,比較検討した.End Pointは術後5日目のSIRS反応,副次項目は術後30日以内のSSIや感染性合併症発症としました.結果は患者背景,術後感染性合併症発症や術後炎症反応(SIRS),そして術後に抗菌薬を追加投与した症例数も有意差は認めませんでした.胆道再建を伴う肝切除術後に対する抗菌薬予防投与期間は術後2日投与でもSIRS反応,感染性合併症増加を認めず,術後2日投与で問題ないと考えました.今後はこの結果を当科で施行している他の手術にも応用できないか検討していく予定です.  

表 術後感染性合併症(2日投与群vs4日投与群)

      2-day
(n=43)
4-day
(n=43)
P
感染性合併症総数 13 (30.2%) 14 (32.6%) 0.816
  Surgical site infections (SSI) 8 (18.6%) 10 (23.3%) 0.596
    Superficial / deep incisional SSI 2 (4.7%) 0 0.152
    Organ / space SSI 7 (16.3%) 10 (23.3%) 0.417
  Remote infections (RI) 7 (16.3%) 6 (14.0%) 0.763
    胆管炎 6 (14.0%) 3 (7.0%) 0.291
    腸炎 1 (2.3%) 3 (7.0%) 0.306
    肺炎 0 0 -
  敗血症 2 (4.7%) 1 (2.3%) 0.557
           
  Clavien grade ≧3a以上の合併症 23 (53.5%) 29 (67.4%) 0.186
  死亡率 0 0 -
       
術後在院日数 25 (13-46)* 27 (13-83)* 0.089

(4) 局所進行・再発直腸癌に対する集学的治療の臨床及び基礎研究

現在、欧米における局所進行直腸癌に対する標準治療は、術前化学放射線療法+TME(total mesorectal excision)であり、優れた局所制御率が報告されているものの、生存率の向上には至っていない。
生存率の向上には局所制御のみならず遠隔転移のコントロールが課題である。当科では、再発リスクの高い局所進行直腸癌に対して、全身の微小転移の制御目的に放射線療法を併用しない術前化学療法に取り組み、それに関連した臨床的および基礎的研究を行っている。また、最大の局所療法である手術においては、難易度および侵襲性の高い他臓器合併骨盤内臓全摘術を要するような、局所再発病巣を含めた高度局所進行直腸癌に対しても積極的に切除を行い、症例を蓄積中である。局所療法としての拡大手術、遠隔転移制御としての術前化学療法により、局所進行直腸癌の生存率向上の可能性を探っている。

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左:当教室における原発下部直腸癌に対する術前化学療法施行46例の無再発生存率
右:同術前化学療法施行42例の病理学的奏功別無再発生存率

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左:骨盤内拡大手術(仙骨合併骨盤内臓全摘術)
右:当教室における再発直腸癌に対する骨盤内臓全摘術施行例の全生存率

※高位仙骨合併切除を伴う骨盤内臓全摘術   ※5年生存率は51.6%であった 
(5) 食道切除後胃管再建における再建経路の比較試験(後縦隔経路再建 VS 胸骨後経路再建)の研究

現在、食道切除後の再建経路について、海外では後縦隔経路が主流である一方、日本では胸骨後経路が主流です。しかし、日本国内でも施設によりまちまちです。これまで後縦隔経路再建と胸骨後再建を詳細に比較した研究はありません。
我々は両群を術後合併症(縫合不全、誤嚥)機能的な評価(嚥下機能、食事の流れ、胃酸、胆汁の逆流の程度の比較、食道炎、胃炎の比較)術後のQOL(体重、食事摂取量、栄養状態 逆流症状)を詳細に比較検討することにより、おのおの再建経路の問題点が明らかになり、もっとも適した再建経路が決定できると考え、研究しています。

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図 左:後縦隔経路   右 胸骨後経路

(6) 肝切除におけるNavigation surgeryの開発

【方法】術前CT画像から肝臓の外観、肝内脈管の走行、主病変を可視化した仮想肝臓を、名古屋大学大学院・情報科学研究科、森教室で開発された、New-VESシステムを用いて作成し、それを腹腔鏡手術、開腹手術にそれぞれ応用する。
<腹腔鏡手術:2次元バーチャルナビゲーション>
手術台に磁場発生装置を取り付け、磁気式センサーを腹腔鏡に装着することで磁気式ナビゲーションを行う。カーナビゲーションのごとく、腹腔鏡画像にリアルタイムで追従するように仮想肝臓を表示して、直感的な脈管認識の補助を行う。あらかじめ重要となる脈管を識別できるように色分けし、ナビゲーション画像にも連動して表示可能なポインタを使用して、腹腔鏡で表示しているポインタがナビゲーション画像のどの部位にあるかを認識可能にする。

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<開腹手術:3次元モデルナビゲーション>
開腹手術では術者、助手それぞれの立ち位置や目線が異なるため、腹腔鏡のように視野を共有することが難しい。そこで、高精細3Dプリンタで肝内脈管の透見できる肝模型を作製する。この肝模型を滅菌袋で密着被覆し、術野で自由に閲覧し、手に取って解剖を確認することで、直感的な解剖認識の共有を可能にする。

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腹腔鏡下肝切除、開腹肝切除の安全性を高めるために、navigation surgeryの開発を継続しています。

(7) 肝胆膵悪性腫瘍における癌抑制遺伝子TFF (Trefoil Factor Family)の役割についての研究

TFFは障害を受けた胃粘膜の修復に必要な遺伝子ですが、最近では胃癌抑制遺伝子としての役割が注目されています。一方、このTFFは膵前癌病変であるpanIN (Pancreatic Intraepithelial Neoplasms)やIPMN (Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)に豊富に発現しており、膵発癌に密接にも関与していることが示唆されています。われわれは遺伝子改変マウスモデルを用いることで、TFFが膵の発癌を抑制していることを発見しました。今後はこのマウスモデルを用いて膵癌の発癌機構を解明し、またTFFを用いた新たな進行膵癌治療戦略の開発や、TFF1による膵癌発生予防(chemoprevention)の可能性を探ることを目的とし、研究を続けています。

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図① KC (Pdx1-Cre/LSL-KRASG12D)マウスおよびKC/TFF1KOマウスの膵像組織像
A,B: KCに発生したPanIN、C,D: KC/TFF1KOに発生した膵癌

(8) 癌に対する核酸医薬開発

Nek2 (NIMA related kinase 2)はセリンスレオニンキナーゼであり、細胞分裂や染色体の分配との関

連が報告されている。われわれはNek2を標的にしたsiRNAによる核酸医薬の開発を行っており、胆管癌、膵癌、乳癌、大腸癌など様々な癌でのNek2の発現亢進を報告している。Nek2 siRNAはこれらの癌細胞株において増殖を抑制し、細胞死を誘導した。またNek2 siRNAはマウス皮下発癌モデルにおいて腫瘍増殖を抑制し、マウス腹膜播種モデルにおいて生存期間を延長した。2013年6月よりfirst in humanであるNek2 siRNA 臨床試験「膵癌切除不能患者に対するNek2 siRNA局注療法の安全性及び有効性に関する研究」を実施している。Nek2 siRNAの有効性に関しては更なる検討が必要ではあるが、Nek2 siRNAが癌に対する新規治療法になると考えている。

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(9) α-ビサボロールによる新規癌治療法の開発

α-ビサボロールは天然に存在する単環式セスキテルペノイドの一種であり,カモミールやサルビアなどにおける精油成分である.抗炎症作用,抗菌作用,胃保護作用,抗酸化作用などを有している。われわれは,α-ビサボロールの抗腫瘍効果についての研究を行なっている。α-ビサボロール膵癌細胞株において増殖を抑制させ、細胞死を誘導させるだけでなく、浸潤および運動能も抑制させることを報告している。またα-ビサボロールはマウス皮下発癌モデルにおいて腫瘍の増殖抑制効果を示し、癌抑制遺伝子の一つであるEGR1(early growth response-1)の関与を明らかにしている。膵癌に対する新規治療法として、臨床応用するためには更なる作用機序が必要ではあるが、α-ビサボロールは膵癌に対する新規抗癌剤となる可能性があると考えている。

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(10) 脂肪幹細胞シートを用いた周術期合併症に対する予防治療法の開発

脂肪幹細胞は脂肪組織由来の多機能細胞であり、分化能と再性能を有している。これまで、われわれは脂肪幹細胞が肝切除術後の肝再生に有効であることを報告している。現在、磁気による組織工学技術を用いた脂肪幹細胞シートを作製し、膵液瘻治療への応用を研究している。ラットの膵液瘻モデルにおいて、脂肪幹細胞シートの膵切除後の貼付は未治療の場合と比較して、腹腔内の鹸化や癒着を減弱させ、アミラーゼおよびリパーゼも減少させた。脂肪幹細胞シートは膵液瘻の予防に有効であり、膵液瘻を含めた周術期合併症への臨床応用が可能と考えている。

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教員

構成員名役職所属
梛野 正人 教授 腫瘍外科学
江畑 智希 准教授 腫瘍外科学
横山 幸浩 講師 腫瘍外科学
國料 俊男 講師 腫瘍外科学
角田 伸行 講師 腫瘍外科学
伊神 剛 講師 腫瘍外科学
深谷 昌秀 講師 腫瘍外科学
上原 圭介 講師 腫瘍外科学
水野 隆史 助教 腫瘍外科学
山口 淳平 助教 腫瘍外科学
宮田 一志 助教 腫瘍外科学
相場 利貞 助教 腫瘍外科学
尾上 俊介 助教 腫瘍外科学

研究キーワード

肝門部胆管癌、遠位胆管癌、肝虚血再灌流、navigation surgery、周術期抗菌薬、局所進行再発直腸癌、食道再建経路、trefoil factor family、膵癌マウスモデル、核酸医薬、Nek2、ビサボロール、脂肪幹細胞シート

医学生・研修医の先生方へ

最近、外科を希望する学生の減少が問題となっています。“人間、安易な道に進むと堕落する”と言います。確かに外科医の生活は不規則で大変ですが、人の体にメスを入れると言う行為は厳粛なもので、やりがいは極めて大なるものがあります。私はもう一度生まれ変わっても外科医になりたいと思っています。“気概のある諸君、来たれ腫瘍外科へ!”