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神経生化学(連携)神経生化学(愛知県心身障害者コロニー)

研究室概要

 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所に設置されている本講座は、研究所の目的でもある発達障害の病態解明と新規治療法の探求に向けた研究を推進しています。現在研究所は遺伝学部、発生障害学部、週生期学部、神経制御学部、病理学部、機能発達学部、教育福祉学部の7学部で構成されており、全ての学部で神経生化学講座大学院生を受け入れることが可能です。発達障害研究所では、自閉症スペクトラム障害や様々な先天的および後天的な知的障害のモデル動物、モデル細胞等を用いた実験的病態解明を中心に、同じ愛知県心身障害者コロニー内の中央病院を受診されている原因不明の知的障害患者さまの原因遺伝子同定や、自閉症スペクトラム障害のかたのより良い療育を目指した研究などの臨床的研究も行っています。このため神経生化学講座では基礎的な実験的研究に加え、発達障害に関してのより臨床的な研究を行うことも可能です。

研究プロジェクト

  1. 知的障害原因遺伝子のマウス神経細胞における病態機能解析

     知的障害の原因には、1)脳形成は正常に行われるが、シナプスあるいは神経細胞内のシグナル伝達異常が背景にあるもの、2)発生過程における脳形成そのものの異常が原因となるもの、があり、病態形成の背景となっている。知的障害の原因遺伝子がコードする蛋白質は極めて多彩である。したがって、胎児の脳形成と機能獲得には多彩な機能を持つ蛋白質が関与すると考えられており、それらの異常に基づく知的障害にも多様な病態メカニズムが存在しうる。私共は、連携する臨床研究者によって見出された遺伝子異常に基づく知的障害の病態を蛋白質レベルで解明することを目的として研究を行なっている。

     対象遺伝子の病態機能に当たり私共は、独自に構築した“発達障害関連分子の解析バッテリー(図1)”を用いている。このバッテリーはin vivoとin vitroの実験から成り立っている。各項目の実験は共通の基本戦略に基づいて遂行する。すなわち、対象遺伝子のノックダウン(RNAi)とレスキュー実験を行うことで生理機能の解析を、また、発現を抑制した状態で変異遺伝子の強制発現(変異体レスキュー)を行うことで病態機能の解析を行う。In vivo実験は子宮内エレクトロポレーション法(マウス胎仔や新生仔の脳室に遺伝子を注入し、電圧をかけて神経幹細胞に導入する方法)がベースとなる。具体的には、脳発達期(胎生期)の大脳皮質神経の、①細胞移動、②軸索伸長、③樹状突起の発達、④細胞周期、⑤海馬歯状回顆粒細胞の形態解析を行なう。さらに、⑥エレクトロポレーション法で一過性に遺伝子発現を変化させたマウスを用いた行動解析も行う。一方、in vitro解析は初代培養マウスの海馬神経細胞を用いて、⑦海馬神経細胞のシナプス形態解析、⑧生化学実験、⑨分子細胞生物学実験、必要に応じて⑩電気生理学的実験(慈恵医大薬理学講座との共同研究)を行う。

    project01.jpg

    i) 知的障害原因遺伝子MED13Lの病態機能解析
     MED13L(mediator complex subunit 13-like)はメディエーター複合体のサブユニットの一つで31のサブユニットのうち13をコードする。その複合体は、遺伝子発現において、DNA転写因子とRNAポリメラーゼⅡと結合し、転写開始点で転写開始複合体となり、転写制御に働く役割を持っている。これまで、MED13Lは先天性心疾患の発症機序に関連する一つの原因遺伝子であることが知られている。MED13Lは2013年に知的障害の原因遺伝子の一つとして報告され、2015年に原因不明の知的障害者1133人の遺伝子解析から6番目に多い変異であることが判明し、MED13Lヘテロ接合変異は知的障害の原因遺伝子として注目されるようになった。メディエーター複合体と知的障害との関連では、MED12はFG症候群やLujan-Fryns症候群に関与しており、MED23とMED25は知的障害児の原因遺伝子であると解析されている。コロニー中央病院でも特徴的な身体的所見と知的障害を伴う女児において、全エクソーム解析からMED13Lのde novoのミスセンス変異(c.6485C>T; p.T2162M)が認められた。そこで、大脳皮質形成過程に対するMED13Lの機能を解析する目的として、子宮内胎仔脳遺伝子導入による標的遺伝子発現のノックダウンとレスキュー実験を行った。MED13Lの発現を抑制した結果、大脳皮質形成の過程で神経細胞の移動が遅れることがわかった。これにRNAi抵抗型の野生型MED13Lを発現させると移動障害は回復したが、変異型MED13Lでは回復しなかった。以上の結果から、知的障害の原因遺伝子と考えられるMED13Lは大脳皮質形成過程の細胞移動において、重要な役割を持つ可能性があることを見いだした。

    ii)知的障害の病態形成におけるGタンパク質Giの関与
     神経系では、多くの神経伝達物質やホルモンなどで細胞機能を調節しているが、この調節機能の多くは、細胞内のGTP結合タンパク質(Gタンパク質)を介した経路で行われている。Gタンパク質は、大別すると、三量体Gタンパク質と低分子量Gタンパク質の2つがある。三量体Gタンパク質は、α、β、γの3つのヘテロ複合体で、αサブユニットは、機能等により4グループ(Gs、Gi、Gq、G12)に分けられ、Giαの作用は、アデニル酸シクラーゼの抑制である。名古屋市立大学において、発達遅滞が見られる女児でアミノ酸置換を伴うGi2αのde novo変異が同定された。そこで、大脳皮質形成過程に対するGi2αの機能を解析する目的として、子宮内胎仔脳遺伝子導入による標的遺伝子発現のノックダウンとレスキュー実験を行った。Gi2αの発現を抑制した結果、大脳皮質形成の過程で神経細胞の移動が遅れることがわかった。これにRNAi抵抗型の野生型Gi2αを発現させると移動障害は回復したが、変異型Gi2αでは回復しなかった。次に、発達後の行動解析を行った。Gi2αの発現を抑制したマウスでは、自発運動量は変化が認められなかったが、社会性行動に変化を示し、シャトル回避学習が障害されていた。以上の結果から、Gi2αが大脳皮質形成過程の細胞移動および成長後の学習機能において、重要な役割を持つ可能性があることを見いだした。

  2. 自閉性障害原因遺伝子の神経系細胞における病態機能解析

    i) 自閉性障害(ASD)におけるハブ遺伝子RBFOX1/A2BP1の解析
     RBFOX1/A2BP1はRNAに結合してmRNA-splicingを制御する蛋白質である。近年の研究で、ASDの病態形成におけるhub遺伝子であることが報告されると共に、知的障害、ADHD、統合失調症でも遺伝子レベルの異常(遺伝子破壊、ハプロ不全、mRNA量の変化)が報告されている。そこで、RBFOX1/A2BP1の病態機能を明らかにすることを目的として、この分子が大脳皮質発生と機能獲得に果たす役割の解析を行なった。project02.jpg具体的には図1に示す発達障害解析バッテリーを用いて、大脳皮質神経細胞の、1)発生期の移動(ライブイメージ観察)、2)アクソン伸長、3)樹状突起発達(図2)、4)細胞周期、5)海馬歯状回顆粒神経細胞形態、6)海馬神経細胞スパイン形成、8)電気生理学的解析を遂行し、RBFOX1/A2BP1の機能不全が大脳皮質の構造的・機能的発達に及ぼす影響を検証した。その結果、RBFOX1/A2BP1は中枢神経系の発生・機能獲得を広範に制御していることが判明した。特に発生期の皮質神経細胞の移動障害のメカニズムについては詳細な知見が得られた。これらの結果より、RBFOX1/A2BP1の機能障害が、ASDや他の発達障害の多彩な臨床症状と関連する可能性が示された。

    ii) NR1D1遺伝子の発達期における大脳皮質形成への関与
     NR1D1(Nuclear receptor subfamily1, group D, member1)は核内受容体の一つである。核内受容体とは、細胞内蛋白質の一種であり、リガンドが結合することで核内に移行し、DNAに直接結合して、細胞核内でのDNA転写を調節する受容体である。核内受容体は遺伝子スーパーファミリーを形成しており、発生、発達や代謝などに関与している。NR1D1は時計遺伝子として機能することが知られており、遺伝子欠損マウスでは、恒常条件で短い活動周期を示し、光への反応が変化し、概日行動リズムに関与することが示されている。
     自治医大小児科において、典型的なASD症状を示し、重度の知的障害がある成人女性において、NR1D1に父性遺伝の変異が認められた。この女性は睡眠障害、攻撃性を示し、発語はなかった。そこで、大脳皮質形成過程に対するNR1D1の機能を解析する目的として、子宮内胎仔脳遺伝子導入による標的遺伝子発現のノックダウンとレスキュー実験を行った。NR1D1の発現を抑制した結果、大脳皮質形成の過程で神経細胞の移動が遅れることがわかった。これにRNAi抵抗型の野生型NR1D1を発現させると移動障害は回復したが、変異型NR1D1では回復しなかった。以上の結果から、ASD病態に関与するNR1D1は、大脳皮質形成過程の細胞移動において、重要な役割を持つ可能性があることが示唆された。

    iii)ニューロリギン(NLGN)4X遺伝子の発現および発現制御解析と機能の解析
     非症候性自閉症原因遺伝子として初めて同定されたNLGN4X遺伝子はシナプス形成・維持に必要なシナプス後膜タンパクニューロリギン4をコードする。project03.jpgニューロリギン4に対する抗体でヒト脳での発現分布を解析し、この遺伝子が特に社会性ホルモンとも言われるオキシトシン、バゾプレシンを産生する視床下核群のニューロンで高発現していることが明らかになった(図:視索上核のニューロリギン陽性神経細胞)。ニューロリギンファミリーは上記シナプス伝達以外にも分泌ベジクルでの役割が示唆されており、ニューロリギン4の機能喪失で自閉症状を引き起こす機序が神経回路網の異常によるのか、ホルモン分泌の異常によるのかを明らかにする研究を進めている。またNLGN4X遺伝子の発現はRett症候群の主な原因遺伝子MECP2がコードするメチルCpG結合タンパク2の制御下にあり、Rett症候群での自閉症状発症におけるニューロリギン4発現変調の可能性を検討している。

  3. 周産期脳障害モデル動物の作製と幹細胞治療法
  4. 新規知的障害原因遺伝子の同定
  5. 白質形成不全モデルマウスを用いた病態解析
  6. 自閉症での脳波による側方抑制異常機構の解析

教員

構成員名役職所属
中山敦雄 発生障害学部長 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
永田浩一 発生障害学部長 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所

研究実績

  • 2017年
    1. Inoue M, Iwai R, Tabata H, Konno D, Komabayashi-Suzuki M, Watanabe C, Iwanari H, Mochizuki Y, Hamakubo T, Matsuzaki F, Nagata K, Mizutani K. Prdm16 is critical for progression of the multipolar phase during neural differentiation of the developing neocortex. Development, in press
    2. Goto M, Mizuno M, Matsumoto A, Yang Z, Jimbo FE, Tabata H, Yamagata T, Nagata K. Role of a circadian-relevant gene, NR1D1, in the brain development: possible involvement in the pathophysiology of autism spectrum disorders. Sci. Rep., 2017; 7: 43945.
    3. Hamada N, Negishi Y, Mizuno M, Miya F, Hattori A, Okamoto N, Kato M, Tsunoda T, Yamasaki M, Kanemura Y, Kosaki K, Tabata H, Saitoh S, Nagata K. Role of a heterotrimeric G-protein, Gi2, in the corticogenesis: Possible involvement in periventricular nodular heterotopia and intellectual disability. J. Neurochem., 2017; 140: 82-95.
  • 2016年
    1. Inaguma Y, Matsumoto A, Noda M, Tabata H, Maeda A, Goto M, Usui D, Jimbo FE, Kikkawa K, Ohtsuki M, Momoi YM, Osaka H, Yamagata T, Nagata K. Role of Class III phosphoinositide 3-kinase in the brain development: possible involvement in specific learning disorders. J. Neurochem., 2016; 139: 245-255.
    2. Ito H, Morishita R, Nagata K. Schizophrenia susceptibility gene product dysbindin-1 regulates the homeostasis of cyclin D1. BBA-Molecular Basis of Disease, 2016; 1862: 1383-1391.
    3. Hamada N, Ito H, Nishijo T, Iwamoto I, Morishita R, Tabata H, Momiyama T, Nagata K. Essential role of the nuclear isoform of RBFOX1, a candidate gene for autism spectrum disorders, in the brain development. Sci. Rep., 2016; 6: 30805.
    4. Yang Z, Matsumoto A, Nakayama K, Jimbo FE, Kojima K, Nagata K, Iwamoto S, Yamagata T. Circadian-relevant genes are highly polymorphic in autism spectrum disorder patients. Brain & Dev., 2016; 38: 91-99.
    5. Yuan Q, Yang F, Xiao Y, Tan S, Husain N, Ren M, Hu Z, Martinowich K, Ng JS, Kim PJ, Han W, Nagata K, Weinberger DR, H. Je S. Regulation of BDNF exocytosis and GABAergic interneuron synapse by the schizophrenia susceptibility gene dysbindin-1. Biol. Psychiatry, 2016; 80: 312–322.
    6. Inaguma Y, Ito H, Iwamoto I, Matsumoto A, Yamagata T, Tabata H, Nagata K. Morphological characterization of Class III phosphoinositide 3-kinase during mouse brain development. Med. Mol. Morphol., 2016; 49(1): 28-33.
  • 2015年
    1. Hamada N, Ito H, Iwamoto I, Morishita R, Tabata H, Nagata K. Role of the cytoplasmic isoform of RBFOX1/A2BP1 in establishing the architecture of the developing cerebral cortex. Mol. Autism, 2015; 6: 56.
    2. Lee SA, Kim SM, Suh BK, Sun HY, Park YU, Hong JH, Park C, Nguyen MD, Nagata K, Yoo JY, Park SK. Disrupted-in-schizophrenia 1 (DISC1) regulates dysbindin function by enhancing its stability. J. Biol. Chem., 2015; 290: 7087-7096.
    3. Inaguma Y, Ito H, Hara A, Iwamoto I, Matsumoto A, Yamagata T, Tabata H, Nagata K. Morphological characterization of mammalian Timeless in the mouse brain development. Neurosci. Res., 2015; 92: 21-28.
    4. Mizuno M, Matsumoto A, Hamada N, Ito H, Miyauchi A, Jimbo FE, Momoi YM, Tabata H, Yamagata T, Nagata K. Role of an adaptor protein Lin-7B in brain development: possible involvement in autism spectrum disorders. J. Neurochem., 2015; 132: 61-69.
  • 2014年
    1. Ito H, Morishita R, Iwamoto I, Nagata K. Establishment of an in vivo electroporation method into postnatal newborn neurons in the dentate gyrus. Hippocampus, 2014; 24:1449-1457.
    2. Nishimura YV, Shikanai M, Hoshino M, Ohshima T, Nabeshima Y, Mizutani K, Nagata K, Nakajima K, Kawauchi T. Cdk5 and its substrates, Dcx and p27kip1, regulate cytoplasmic dilation formation and nuclear elongation in migrating neurons.Development, 2014; 141: 3540-3550.
    3. Matsumoto A, Mizuno M, Hamada N, Nozaki Y, Jimbo F E, Momoi Y M, Nagata K, Yamagata T. LIN7A depletion disrupts cerebral cortex development, contributing to intellectual disability in 12q21-deletion syndrome. PLOS ONE, 2014; 9(3): e92695.
    4. Tanabe K, Yamazaki H, Inaguma Y, Asada A, Kimura T, Takahashi J, Taoka M, Ohshima T, Furuichi T, Isobe T, Nagata K, Shirao T, Hisanaga S. Phosphorylation of Drebrin by cyclin-dependent kinase 5 and its role in neuronal migration. PLOS ONE, 2014; 9(3): e92291.
    5. Inaguma Y, Hamada N, Tabata H, Iwamoto I, Mizuno M, Nishimura VY, Ito H, Morishita R, Suzuki M, Ohno K, Kumagai T, Nagata K. SIL1, a causative cochaperone gene of Marinesco-Sjögren syndrome, plays an essential role in establishing the architecture of the developing cerebral cortex. EMBO Mol. Med., 2014; 6: 414–429.
    6. Mizutani Y, Iwamoto I, Kanoh H, Seishima M and Nagata K. Expression of Drebrin, an actin binding protein, in basal cell carcinoma, trichoblastoma and trichoepithelioma. Histol Histopathol., 2014; 29: 757-766.

研究キーワード

知的障害、自閉スペクトラム障害、大脳皮質発生