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分子・細胞適応学(協力)発生・遺伝学

研究室概要

私たちの研究室では「ゲノムの不安定化と疾患」をキーワードに研究を行っています。ゲノムの不安定化により発症する「ゲノム不安定疾患」とは、DNAの傷を回復する経路、DNAの傷を認識する経路が正常に働かないときに誘発される難治性疾患です。
各疾患の病態は、がん、免疫不全、神経変性、早期老化、成長・発育異常など多岐に渡ります。病態解明のために、次世代ゲノム解析や次世代プロテオーム解析(精密質量分析)などの技術を用いて、病気の原因となる新しい疾患責任遺伝子変異を同定し、さらにその機能解析を最先端の研究手法を用いて分子レベルから個体レベルまで行っています。現在までに、基礎研究者のみならず臨床医や企業との共同研究により、多くのゲノム不安定疾患の原因となる遺伝子を同定することに成功し、機能解析を行ってきました。これらの知見を活かし、将来の難治性疾患の治療に結びつけるべく日々研究を行っています。

研究プロジェクト

1.DNA修復システムの異常とゲノム不安定性疾患

生物のゲノムDNAは、各種代謝産物・酸化ストレス・放射線・化学物質 など様々な要因で常に損傷を受けています。このため、ゲノムを安定に維持・伝達するには「DNA 損傷応答・ DNA修復システム」による DNA 損傷の速やかな修復が必要です。
DNA修復機能の異常により、出生時よりゲノム不安定性を示し、その多くで好発がん性、精神遅滞、小頭症・低身長・各種奇形などの発育異常(子宮内・出生後)、早期老化、その他複雑な病態を示すヒトの遺伝性疾患が知られています。
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これらの症例解析から、多くのDNA 損傷応答・修復に関与する遺伝子が同定され、それらの分子機能が明らかにされてきました。しかしながら、いまだに疾患の発症メカニズムと分子病態が不明な「ゲノム不安定性疾患」が数多く存在し、患者とその家族を苦しめています。これらの疾患は病態がオーバーラップしていることが多く、確定診断にも難渋することがしばしばです。ゲノム不安定性疾患群を遺伝子・分子レベルで理解することは、新たな確定診断技術の開発につながると共に、各患者への適切な対応からQOLを向上させ、将来的には疾患緩和薬 / 治療薬開発へも貢献すると期待されています。 また、「ゲノムの不安定化」は、がん発症と悪性化の主因の一つであり、ゲノムを安定に維持する種々の分子メカニズムを詳細に理解することは、がんそのものの理解にも大きく寄与します。特に近年では、DNA修復機構をターゲットとする抗がん剤の開発が注目を集めており、大きな成果が得られつつある先端研究領域です。


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2.ゲノム不安定性疾患の臨床診断

ゲノム不安定性疾患群の臨床診断では、個々の疾患の有病率が低いこと、疾患間で病態がオーバーラップすること、診断基準が確立されていない疾患があることなどの理由で、確定診断が難しいケースが多く見られます。DNA修復の異常による小頭症とその他の疾患のケース、あるいは、皮膚がんや神経症状を発症する色素性乾皮症と軽微な皮膚症状にとどまる紫外線感受性症候群では、予後や治療方針が異なるために早期の鑑別診断が重要になります。
我々は、個々のゲノム不安定性疾患に固有のDNA修復経路について、それぞれのDNA修復活性をエンドポイントとした細胞スクリーニング法を確立しました。あわせて、ウイルスベクターによる欠損遺伝子のadd-back相補性試験と次世代ゲノム解析(next generation sequencing: NGS)法を併用することで、効率的に遺伝子診断が可能なシステムを構築しました。現在このシステムを運用し、国内外のゲノム不安定性疾患群の遺伝子診断(ヒトゲノム・遺伝子解析研究)を無償で受託しています。

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3.新規疾患責任遺伝子の同定

我々のグループでは、ゲノム不安定性が疑われ確定診断が得られていない症例を、過去6年間で約800例収集し、これらを分類・解析することでヒトで新規となる10個(うち3遺伝子は現在解析中)の疾患責任遺伝子・変異を同定しました。
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一例として、小頭症・早期老化を示し、当初CSと診断されていたイギリスの症例では、長期にわたり疾患責任変異が見つからず確定診断がなされていませんでしたが、DNA修復試験とNGS解析により、新規の疾患責任変異をXRCC4遺伝子に同定しました。XRCC4蛋白質は放射線による二重鎖DNA損傷を修復するDSBR機構のうち、切断された二重鎖DNAの末端をつなぐ、非相同末端結合(non-homologous end joining: NHEJ)経路に関与し、DNA鎖の再結合に必要なDNAリガーゼIV(LIG4症候群の責任因子)とLIG4/XRCC4複合体を形成します。NHEJはDNA修復以外にも、免疫グロブリンの再構成(VDJ組換え反応)に必須のため、ヒトでこれまでに報告されているNHEJ遺伝子の異常の多くは重篤な免疫不全を示します。  
今回同定されたXRCC4遺伝子変異は蛋白質が発現しないnull変異でしたが、患者は免疫異常を伴う所見はありませんでした。しかしながら患者由来の細胞は、DSBR欠損から予想された通り強い放射線感受性を示し、医療被ばくを含めた放射線防護(あるいは一部抗がん剤禁忌)が必要であることが明らかにされました。過去には、急性リンパ性白血病の放射線治療の結果、重篤な放射線障害を示した症例から、事後にLIG4遺伝子欠損が判明したケースもあります。ゲノム不安定性疾患は治療が困難ですが、このように、遺伝子診断により責任遺伝子が確定することは臨床上有益であると考えられます。

教員

構成員名役職所属
荻 朋男 教授 発生遺伝分野
林 良敬 准教授 発生遺伝分野

研究実績

  • 2015年
    1. Guo C, Nakazawa Y, Woodbine L, Björkman A, Shimada M, Fawcett H, Jia N, Ohyama K, Li TS, Nagayama Y, Mitsutake N, Pan-Hammarström Q, Gennery AR, Lehmann AR, Jeggo PA, Ogi T. XRCC4 deficiency in human subjects causes a marked neurological phenotype but no overt immunodeficiency. J Allergy Clin Immunol, 2015; 136: 1007-17.
  • 2013年
    1. Kashiyama K, Nakazawa Y, Pilz DT, Guo C, Shimada M, Sasaki K, Fawcett H, Wing JF, Lewin SO, Carr L, Li TS, Yoshiura K, Utani A, Hirano A, Yamashita S, Greenblatt D, Nardo T, Stefanini M, McGibbon D, Sarkany R, Fassihi H, Takahashi Y, Nagayama Y, Mitsutake N, Lehmann AR, Ogi T. Malfunction of nuclease ERCC1-XPF results in diverse clinical manifestations and causes Cockayne syndrome, xeroderma pigmentosum, and Fanconi anemia. Am J Hum Genet. 2013; 92: 807-19.
  • 2013年
    1. Nakazawa Y, Sasaki K, Mitsutake N, Matsuse M, Shimada M, Nardo T, Takahashi Y, Ohyama K, Ito K, Mishima H, Nomura M, Kinoshita A, Ono S, Takenaka K, Masuyama R, Kudo T, Slor H, Utani A, Tateishi S, Yamashita S, Stefanini M, Lehmann AR, Yoshiura K, Ogi T. Mutations in UVSSA cause UV-sensitive syndrome and impair RNA polymerase IIo processing in transcription-coupled nucleotide-excision repair. Nat Genet. 2012; 44: 586-92.

研究キーワード

DNA修復、ゲノム不安定性、遺伝性疾患、がん、次世代ゲノム解析、プロテオーム解析、分子生物学、人類遺伝学

その他

大学院生としての参加を希望のかたは荻までメールでご相談下さい。
荻朋男: togi_a_riem.nagoya-u.ac.jp (Please exchange "_a_" to @)