研究室紹介Laboratories

Back
Top > 研究室紹介 > 機能形態学 > 機能組織学(解剖学第二)

機能形態学機能組織学(解剖学第二)

研究室概要

運動神経損傷モデルを用いて、軸索損傷後に見られる、細胞死防御機構や軸索伸展の分子基盤の解明をめざしています。私たちは過去約20年にわたり、神経損傷モデルの確立から、トランスクリプトームやプロテオーム解析を行い、軸索損傷後細胞死に至る過程や生存して軸索再生に至る過程で機能する分子を多数同定してきました。これらの分子の機能はノックアウト動物やウイルスベクターを用いて、動物レベルで機能解析を行い、生体での役割を解明しています。また、このようなスクリーニングで得られた分子が、中枢神経系の損傷や神経疾患モデルにおいて神経保護や再生機能を発揮できるかを検討しています。神経が損傷してから再生や死に至る過程では多くの遺伝子発現が同時にONになり、別の一群の遺伝子発現は同時にOFFになります。このような統合的な遺伝子発現の制御機構についても研究を進めています。その過程で、神経損傷特異的にCreを発現するトランスジェニックマウスを作成し、損傷神経細胞特異的に遺伝子発現を変化制御し同時に標識することが可能になりました。また、遺伝子や分子のみならず、損傷神経細胞内でのオルガネラの動態や分解機構についても研究しています。最新の3D電顕システムであるFIB/SEMを用いて3次元微細構造を描出し詳細な形態解析を行なっています。この他、損傷神経が再生するには周辺の非神経系細胞(グリアやマクロファージ)との相互作用が大切で、神経—グリア相互作用の研究も進めています。特に、ミクログリアや脳常在性のマクロファージに焦点をあて、それらの機能についても研究しています。以上の神経再生の研究とは別に、慢性ストレス等により発症する機能性身体症候群(慢性疲労症候群や線維筋痛症など)における疼痛や自律神経系・内分泌系の異常についてもその原因解明の研究を行なっています。

研究プロジェクト

(1)神経再生メカニズムの解析

(i)神経再生関連遺伝子探索
神経再生のメカニズムを解明し、損傷神経の再生や神経変性疾患の進行抑制への応用を目指しています。末梢神経は再生しますが、中枢神経は再生しにくいとされています。そこで、再生可能な末梢神経の損傷モデル動物を用いて、その再生現象の全貌の解明を目指します。各種のゲノミクスやプロテオミクスのスクリーニングの手法を用い、今までに既知・未知の数多くの分子が神経損傷後に発現し、様々な機能を発揮していることを明らかにしました。これらのスクリーニングで得られたパーツ(分子)を組み合わせてゆくことで、神経再生の様子が徐々に浮かび上がってきつつあります。

anatomy2_1.jpg

本遺伝子スクリーニングで得られた分子の一つを、私たちはDINE(ECEL1)と命名し(Kiryu-Seo, PNAS 2000)、その機能解析を精力的に進めています。この遺伝子はプロテアーゼということが分っていますがその基質は分っていません。この遺伝子を欠損させると、骨格筋内で運動神経が分岐できず、神経筋接合部の形成不全が生じます。最近このプロテアーゼは、先天性関節拘縮症の原因遺伝子あることがわかりました。この他、多くのG蛋白共役型受容体(GPCR)が得られており、これらの神経損傷における機能解析も行なっています。

anatomy2_2.jpg

(ii)遺伝子発現の統御機構
実際に損傷を受けた神経細胞が再生する過程では、実に多くの分子が複雑な相互作用をして再生へ向かいます。損傷刺激に応答して多くの遺伝子が同期して発現を開始します。したがって、このような複数の神経再生関連遺伝子の発現をまとめて制御しているメカニズムが生体にあると思われます。いわば、神経再生の最初のスイッチを入れる遺伝子です。また、これとは別に神経再生に必要な複数の発現を通常OFFにする逆のスイッチ(mi-RNAなど)の存在も分ってきています。このような神経再生に関わる起動スイッチやOFFスイッチ分子の発現を制御できれば、効率よく神経を再生へ向かわせることができます。現在までに、いくつかの神経損傷特異的な転写因子(スイッチ)や、それらのスイッチをOFFにしているmi-RNAを同定しており、この辺りのメカニズムを応用し治療へとつなげて行きたいと考えています。特に、神経再生の最初のスイッチを入れる遺伝子として私達はATF3という転写因子に長年注目しており、これが神経再生スイッチの一つの鍵と考えています。このスイッチ遺伝子の発現特性を活かし、私達は損傷を受けた神経細胞のみが蛍光標識されるマウスや損傷神経細胞特異的にCreリコンビナーゼが発現するマウスを作製しました。このマウスは個体レベルでの神経再生研究を進めるための強力なツールとして有益です。

anatomy2_3.jpg

(iii)神経−グリア相互作用
最近、神経細胞に異常がなくともその周辺のグリア細胞に異常が生じることにより神経細胞が変性に至ることが知られ、神経細胞非自律的な、周辺の環境に依存する神経細胞死が起こることが明らかになりました。神経損傷後の修復過程においてもミクログリアやシュワン細胞など多くのグリアとの相互作用がダイナミックに展開されます。特にミクログリアは形態変化をしながら脳内を移動し、多くの免疫系のメディエータ分子を発現していることから、その機能の解明が急がれます。このようにグリア−神経の相互作用を分子レベルで理解することをめざしています。これらは、損傷神経の修復のみならず、孤発性の神経変性疾患の原因解明や治療法につながる研究であると位置づけています。

anatomy2_4.jpg

(iv)損傷神経細胞内での細胞内小器官(オルガネラ)動態の解析

損傷神経細胞の中では様々なオルガネラがダイナミックに動き回り細胞の恒常性を維持し、損傷神経細胞の再生に大きく作用すると考えられます。こうしたオルガネラの形態変化はこれまで詳細には観察することができませんでしたが、3次元構築が可能なFIB-SEMという最新の電子顕微鏡技術を用いて、損傷神経細胞内のオルガネラの立体形態や他のオルガネラとのインターラクション、さらには品質低下したオルガネラの処理機構についても詳細に解析しています。

anatomy2_5.jpg

(2)異常疼痛発症メカニズムの解析

神経障害性疼痛モデルマウスを用い、異常疼痛発生のメカニズムを研究しています。これらのモデル動物では、感覚伝導路である脊髄後角でミクログリアやアストロサイトが活性化することが分かっており、前述の神経-グリア間の相互作用が、この場合でも重要であると考えられます。それらのグリア細胞が活性化するメカニズムと活性化したグリア細胞が疼痛を引き起こすメカニズムについて分子レベルで解析しています。最近、ミクログリアの活性化に関わる分子であるTREM2/DAP12が神経因性疼痛に関わることを見つけました。このメカニズムを詳細に解析することで神経障害性疼痛におけるミクログリアの機能がより鮮明になってくると期待しています。この他、先の遺伝子探索でいられた多くのGPCR遺伝子と疼痛の関連についても研究しています。

(3)慢性ストレスや疲労を科学する

機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)には慢性疲労症候群や線維筋痛症など多くの症候群が含まれますが、それらの原因はまだ分っていません。しかし、過度の疲労やストレスがこれらの疾患となんらかの関連が有ると考えられています。特にFSSでは睡眠障害、過度の疲労感、疼痛が共通した症状として現れます。このような症状は生体内のいかなる変化により起こっているかを研究しています。ラットの慢性ストレスモデルを用い、神経系(脳と脊髄)、内分泌系(下垂体や副腎など)、免疫系(胸腺や脾臓など)、循環器系(心臓など)の臓器において、慢性ストレス時の遺伝子発現変化を解析し、生体に及ぼす影響を研究しています。最近、下垂体の一部で細胞が崩壊していることをはじめ免疫系や内分泌系の器質的変化が生じていることを発見し、これらが脳を起点として生じていることが見えてきました。また、このモデルでは末梢の炎症や損傷がないにも関わらず疼痛がみられ、この原因に脊髄でのミクログリアの活性化が関わっていることを明らかにしました。ストレスの慢性化はまず脳に影響を及ぼし、脳の変調に由来して自律神経・免疫・内分泌系の恒常性維持機構を崩壊させているのではないかと考えています。これらの原因から症状に至る過程を分子の言葉で説明できるように研究を進めています。

anatomy2_6.jpg

教員

構成員名役職所属
木山 博資 教授 機能組織分野学
桐生 寿美子 准教授 機能組織分野学
西尾 康二 助教 機能組織分野学
小西 博之 助教 機能組織分野学

研究実績

  • 2017年
    1. Nagata K*, Takahashi M, Kiryu-Seo S, Kiyama H*, Saido TC*. Distinct functional consequences of ECEL1/DINE missense mutations in the pathogenesis of congenital contracture disorders. Acta Neuropathol Commun. 2017; 5(1):83. *Corresponding authors
    2. Wei L, Tokizane K, Konishi H, Yu HR, Kiyama H. Agonists for G-protein-coupled receptor 84 (GPR84) alter cellular morphology and motility but do not induce pro-inflammatory responses in microglia. J Neuroinflammation. 2017; 14(1):198.
    3. Konishi H, Kobayashi M, Kunisawa T, Imai K, Sayo A, Malissen B, Crocker PR, Sato K, Kiyama H. Siglec-H is a microglia-specific marker that discriminates microglia from CNS-associated macrophages and CNS-infiltrating monocytes. Glia. 2017; 65(12):1927-1943.
    4. Kaneko A, Kiryu-Seo S, Matsumoto S, Kiyama H. Damage-induced neuronal endopeptidase (DINE) enhances axonal regeneration potential of retinal ganglion cells after optic nerve injury. Cell Death Dis. 2017; 8(6):e2847.
    5. Konishi H, Ohgami N, Matsushita A, Kondo Y, Aoyama Y, Kobayashi M, Nagai T, Ugawa S, Yamada K, Kato M, Kiyama H. Exposure to diphtheria toxin during the juvenile period impairs both inner and outer hair cells in C57BL/6 mice. Neuroscience. 2017; 351:15-23.
    6. Tamada H, Kiryu-Seo S, Hosokawa H, Ohta K, Ishihara N, Nomura M, Mihara K, Nakamura KI, Kiyama H. Three-dimensional analysis of somatic mitochondrial dynamics in fission-deficient injured motor neurons using FIB/SEM. J Comp Neurol. 2017; 525(11):2535-2548.
    7. Tokizane K, Konishi H, Makide K, Kawana H, Nakamuta S, Kaibuchi K, Ohwada T, Aoki J, Kiyama H. Phospholipid localization implies microglial morphology and function via Cdc42 in vitro. Glia. 2017; 65(5):740-755.
  • 2016年
    1. Watanabe S, Ilieva H, Tamada H, Nomura H, Komine O, Endo F, Jin S, Mancias P, Kiyama H, Yamanaka K. Mitochondria-associated membrane collapse is a common pathomechanism in SIGMAR1- and SOD1-linked ALS. EMBO Mol Med. 2016; 8(12):1421-1437.
    2. Kobayashi M, Konishi H, Sayo A, Takai T, Kiyama H. TREM2/DAP12 signal elicits pro-inflammatory response in microglia and exacerbates neuropathic pain. J Neurosci. 2016; 36(43):11138-50
    3. Tamada H, Kiyama H. Suppression of c-Kit signaling induces adult neurogenesis in the mouse intestine after myenteric plexus ablation with benzalkonium chloride. Sci Rep. 2016; 6: 32100.
    4. Kiryu-Seo S, Tamada H, Kato Y, Yasuda K, Ishihara N, Nomura M, Mihara K, Kiyama H. Mitochondrial fission is an acute and adaptive response in injured motor neurons. Sci Rep. 2016; 6: 28331.
    5. Matsumoto S, Kiryu-Seo S, Kiyama H. Motor Nerve Arborization Requires Proteolytic Domain of Damage-Induced Neuronal Endopeptidase (DINE) during Development. J Neurosci. 2016; 36(17): 4744-57.
    6. Nagata K*, Kiryu-Seo S, Tamada H, Okuyama-Uchimura F, Kiyama H*, Saido TC*. ECEL1 mutation implicates impaired axonal arborization of motor nerves in the pathogenesis of distal arthrogryposis. Acta neuropathologica. 2016; 132(1): 111-26. *Corresponding authors
    7. Rashwan A, Konishi H, El-Sharaby A, Kiyama H. Ontogeny and innervation of taste buds in mouse palatal gustatory epithelium. J Chem Neuroanat. 2016; 71: 26-40.
    8. Jung J, Uesugi N, Jeong NY, Park BS, Konishi H, Kiyama H. Increase of transcription factor EB (TFEB) and lysosomes in rat DRG neurons and their transportation to the central nerve terminal in dorsal horn after nerve injury. Neuroscience. 2016; 313: 10-22.
  • 2015年
    1. Kobayashi M, Konishi H, Takai T, Kiyama H. A DAP12-dependent signal promotes pro-inflammatory polarization in microglia following nerve injury and exacerbates degeneration of injured neurons. Glia. 2015; 63(6): 1073-82.
    2. Tamada H, Kiyama H. Existence of c-Kit negative cells with ultrastructural features of interstitial cells of Cajal in the subserosal layer of the W/Wv mutant mouse colon. J Smooth Muscle Res. 2015; 51: 1-9.
  • 2014年
    1. Yasui M, Yoshimura T, Takeuchi S, Tokizane K, Tsuda M, Inoue K, Kiyama H. A chronic fatigue syndrome model demonstrates mechanical allodynia and muscular hyperalgesia via spinal microglial activation. Glia. 2014; 62(9): 1407-17.
    2. Nagata K, Hama I, Kiryu-Seo S, Kiyama H. microRNA-124 is down regulated in nerve-injured motor neurons and it potentially targets mRNAs for KLF6 and STAT3. Neuroscience. 2014; 256: 426-32.
  • 2011年
    1. Kiryu-Seo S, Kiyama H. The nuclear events guiding successful nerve regeneration. Front Mol Neurosci. 2011; 4:53. (Review article)
  • 2006年
    1. Kiryu-Seo S, Gamo K, Tachibana T, Tanaka K, Kiyama H. Unique anti-apoptotic activity of EAAC1 in injured motor neurons. EMBO J. 2006; 25(14): 3411-21.
  • 2003年
    1. Nakagomi S, Suzuki Y, Namikawa K, Kiryu-Seo S, Kiyama H. Expression of the Activating transcription factor 3 (ATF3) prevents JNK-induced neuronal death by promoting Hsp27 expression and Akt activation. J Neurosci. 2003; 23(12): 5187-96.
  • 2000年
    1. Kiryu-Seo S, Sasaki M, Yokohama H, Nakagomi S, Hirayama T, Aoki S, Wada K, Kiyama H. Damage induced neuronal endopeptidase (DINE) is a unique metallopeptidase expressed in response to neuronal damage and activates superoxide scavengers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000; 97(8):4345-50.
    2. Namikawa K, Honma M, Abe K, Takeda M, Mansur K, Obata t, Miwa A, Okado H, Kiyama H. Akt / Protein kinase B prevents injury-induced motor neuron death and accelerates axonal regeneration. J Neurosci. 2000; 20(8):2875-86.

研究キーワード

神経損傷、神経軸索再生、オルガネラダイナミクス、グリア細胞、シュワン細胞、ミクログリア、神経炎症、神経障害性疼痛、慢性ストレス、線維筋痛症、慢性疲労

大学院生募集

医学系や他理系など出身学部を問わず広い分野からの大学院生を募集しています。興味のある方は、kaibou2@med.nagoya-u.ac.jpにお問い合わせください。

人体解剖トレーニングセミナー

当教室は、「解剖学の教育」に携わる教員を対象にした人体解剖トレーニングセミナーを毎年8月に30年以上に渡って開催しております。この永年の解剖教育に対する貢献に対して、平成26年に日本篤献体協会/篤志解剖全国連合会より表彰をうけております。受講申込など詳しい内容は教室ホームページを御覧ください。