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交換留学経験者からのメッセージ 2009年

留学体験記

井汲 一尋(UNC)

私はアメリカの東海岸に位置するノースカロライナ州のチャペルヒルという市にあるノースカロライナ大学という州立大学に2ヶ月間留学しました。
ノースカロライナ大学医学部付属病院はPrimary Careが全米でトップクラスであるということで広く知られている病院です。コースの定員の関係上、Primary Careに主眼をおく家庭医学や救急医学を履修することができなかったので、日本では見るチャンスの少ない科を履修しようと考え、代わりに感染症科と小児神経内科で実習をすることとなりました。
現地で体験した実習について時系列に沿って以下に体験記を書いていきます。
まず、最初の一ヶ月は感染症科での実習でした。病棟チーム、外来クリニックなどもありましたが、基本的にほとんどコンサルトチームに所属していました。感染症科での実習は以下の通りです。
朝9時に全員が感染症科の詰所に集合し、新しい患者のコンサルトがあるかどうかを確認します。新しい患者がいる場合、Resident、Intern、学生がそれぞれFellowにコンタクトをとり、患者を受け持つことになります。初めの2週間ほどは患者を電子カルテから自分で選び、病歴を聴きに行き、身体所見をとらせてもらいFellowにレポートとしてまとめて提出していました。まずは慣れることが目標でしたので、この時は一人の患者に計1時間半ほど長い時は2時間ほどかけ、もれなく必要かつ十分な情報を聞き出すことに集中していました。午後は1時半から毎日カンファレンスルームで各々がAttendingに症例プレゼンテーションをし、患者情報を共有したのち回診をしていました。感染症科のチームは人数が多くAttending1人、Fellow2人、ResidentやInternは1人、Med student3人、Pharmacy1人、Pharmacy resident1人、Pharmacy student2人という構成でした。薬剤師の先生方は特に学生教育に熱心で、私にも講義をしてくれ、電子教科書もくれました。また4年生の学生が一緒に実習をしていたので、知らないこと、わからないことはしばしば彼に尋ね、それを元にUptodateを調べて学習していました。もちろんAdvancedなことは他の上級医の先生に質問しながら理解するよう努めていました。初めは感染症、抗菌薬でも親しみのないものが多かったのでカンファレンスを集中して聴くことに大きな労力が必要でしたが、初めの2週間が過ぎたころには大抵の内容は理解できるようになりました。その後の2週間は新しくコンサルトされた患者さんがいたら自分に回してくださいとお願いをしていましたが、コンサルトの件数がとても少なくほとんど患者さんを直接診ることはできませんでした。代わりに朝の10時から毎日行われているケースカンファレンスやM&Mに顔を出していることが多かった気がします。
症例プレゼンテーションをするチャンスがなかったので、最終日にプレゼンテーションをさせてくださいとお願いをすると、快く承諾してくれました。テーマはHTLV-1という日本の感染症でしたが、AttendingもFellowも熱心に聞いてくださって、活発的な議論ができて貴重な経験となりました。感染症科の一ヶ月を通して得られたことは、こちらが必死になにかを伝えようと努力すれば必ず相手は理解してくれるということが実感できたことです。初めは英語がうまく伝わるか不安でしたが、ジェスチャーを交えながら言いたいことをはっきりと伝えれば通じることがわかり、大きな自信につながりました。そして職種を問わず何気ない会話を交わすことでパラメディカルの方や患者とも良好な関係を築くことができました。アメリカの病院はいかなるものか、ノースカロライナの土地柄・人柄はいかなるものかということを人とのコミュニケーションを通して理解でき、自然に馴染んでいくことができたので、スタートダッシュとしてはとても満足のいく1か月間でした。
2か月目は小児神経内科で実習をしました。履修するタイミングが良く現地の3年生とともに実習ができるという絶好のチャンスに恵まれました。科を変えた直後でわからないことが満載だった私は、ここでも一緒に実習をする学生に質問をして、わからないことを随時埋め合わせしていました。上級医よりも気軽に質問ができ、また相手は学生の視点に立って答えてくれるので大きな理解の助けとなりました。小児神経内科での実習は以下の通りです。
まず朝7時半に講義室へ行き、朝一の講義を一時間受けます。朝早いにも関わらず、眠い目をこすっている学生はおらず、それぞれが内容を充分理解できるよう貪欲に講義を受けていました。講義のスタイルは先生が一通りの基本事項を臨床的な側面を踏まえて説明し、その後学生同士でそれを実践するあるいは、学生に質問し答えさせるなど学生中心のスタイルでした。
その後は病棟に向かい、自分の受け持つ患者に会ってお話をし、カルテの記載も元にプレゼンテーションの準備を30分弱で仕上げます。もともとマイペースなところがある私はここで時間的な制約を求められることで、集中力を培い、プレッシャーに打ち勝つことを学んだ気がします。9時にプレゼンテーションをし、その後は病棟回診をします。
それが終了すると、また12時から昼食を食べながらの講義が1時間ありました。その後、新しく入院した患者がいる場合は、病歴・身体所見を一からとっていきカルテに記載するというトレーニングを繰り返しました。1か月目とは比べものにならない難しい内容を要求され、また濃密なスケジュールでしたので初めは混乱してしまうことも多かったのですが、周りの学生、優しい上級医の先生の手助けを受けながら次第に順応していくことができました。何よりも小児神経内科で実習できてよかったと思ったのは、皆がKazという愛称で呼んでくれて私と仲良くしてくれたことです。留学生相手にここまで親切にしてくれるのかと思ってしまうほど、皆はフレンドリーで忙しい実習は難なく思えるようになりました。小児神経内科での実習最終日には神経内科のAttendingがPizza Partyを開いてくれて、一緒に実習をしてきた学生・上級医の先生方と食事を楽しみました。日本の料理を作って持って行き、チェロを演奏するなど感謝の意味も込めて自分なりに異文化交流を試みてみました。実習で最も仲良くしてくれた3年生やFellowは「Kazがいて特別な1か月間を過ごすことができたよ。」と言ってくれて、このとき実習の達成感とともにアメリカに留学できて本当によかったという思いがこみ上げてきました。
2か月間という短い期間ではありましたが、一日一日が発見の連続であり、自分自身へのチャレンジであり、それを乗り越えたことによって自分が少し成長できたと思います。このような機会をくださった坂本先生、粕谷先生をはじめ、国際交流室の皆様、学務科の皆様、その他留学関係者様に深く感謝の意を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

Johns Hopkins大学での実習を終えて

山本健太郎

私は2009年3月末より13週間、Johns Hopkins大学での臨床実習をさせていただきました。Johns Hopkins大学はMaryland州Baltimoreにあり、その病院は全米で18年連続Best Hospitalに選ばれていました。このような素晴らしい病院で臨床実習がきちんと出来るのか不安に思うこともありましたが、今年度からは留学前研修などの機会に恵まれ、出発前に十分な準備をして臨むことができました。実習科はCardiology5週間, Endocrinology4週間, Emergency Meidicine4週間でローテートしました。
まずCardiologyではコンサルトチームに所属しました。コンサルトチームはAttendingがDr. Jones, フェローが一人、レジデントが二人と学生という構成が基本で、たまにフェローが増えたり、レジデントが減ったり、途中からシンガポールからの留学生と一緒になったりしました。学生の役割は他科から寄せられるconsultのうちいくつかを受け持ち、問診と診察をしてfellowと治療方針について話し合った後、attendingの回診時にプレゼンする、といった内容でした。皆EBMを意識して働くということが徹底されており、discussionの途中分からないことや気になることがあると、UpToDateや原著論文を参照していました。アテンディングも論文を提示しながら、こういう時はこういう論文があるからこういう風にしたほうがいい、という話し方が印象的でした。無保険の患者さんも何人か居ましたが、それについてDr. Jonesに尋ねたら「コスト的な側面で患者にとって最適な医療を避けないのが我々の倫理だ。例えボランティアになろうとも、ちゃんと治す気がある人には無保険でMRIだって撮る。」と言われたのには、あらかじめ聞いていたアメリカの医療経済主義なイメージとのギャップに驚かされました。
続いてEndocrinologyで実習しました。午前中は外来見学、午後はコンサルトチームでの回診を行いました。外来では下垂体疾患、甲状腺疾患、糖尿病を始め、種々の内分泌疾患の患者さんのフォローアップが中心でした。アテンディング、フェローともに教育的な方が多く、初歩的なことから実際の臨床診断基準に至るまで、移動中などいつも何かしら質問をされ、答えられないと丁寧に教えていただけました。UpToDateの編纂をしている先生にも直接教えていただけて、とても気さくな先生で、立ち話もなんだからとスムージーを奢ってもらえました。
Emergency Medicineでの実習は現地の学生にとっても必修であり、初日に学生10数人と共にShiftを組みました。4週間で8時間のShiftを16回、週末勤と夜勤を3回ずつ含むように求められ、現地の学生は週末勤務より夜勤を好んでいました。ERのシステムは基本的にresident一人がベッド5-6床を持ち、resident 4-5人をattendingがsuperviseするという仕組みでした。Critical Careが必要な患者さんが運び込まれると皆そのときしている仕事を止めて駆けつけます。普段の学生の役割はResidentを手伝うことで、彼らが患者さんを診る前に問診と診察をしてプレゼンし、鑑別診断や治療方針についてdiscussionした後一緒に患者さんを見るという流れで、Critical careが必要な時は処置を手伝うか見学でした。他にも、救急車やヘリコプターに同乗したり、模型と模擬薬剤を使っての救急処置シミュレーションや、夜中に麻酔と縫合をいきなり任されてホプキンスの四年生にこっそり教えてもらって処置したり、とても貴重な体験で目白押しであっという間に四週間が過ぎました。
以上のような実習だけでなく、普段の生活も楽しむことができました。休日はアナポリスやD.C.やNew Yorkに出かけ、ミュージカルや美術館、博物館を見たり、桜祭りに行ったり、大リーグの試合を見たり、国立公園に行ったり、充実していない日がありませんでした。また、寮の中でも医学部三年生Leeさん、公衆衛生の大学院生のKatherineさんなどと知り合い、誕生日祝いにアイスクリームケーキでパーティーを開いてくれたのはとても嬉しい思い出になりました。普段とは全く違う環境の中、試験に追われずに自由に過ごせた時間は、医学生というより人間として自分を成長させてくれたのではないかと思います。
このような素晴らしい機会を与えてくださった国際交流室の坂本先生、粕谷先生、長縄さん、事務の西尾さん、快く迎えてくださったJohns Hopkins大学の先生方、各科の先生方、留学に役立つ情報を教えてくださった先輩方、特に衣食住だけなんとかすれば留学しても生きていけるよと勇気づけてくれた伊藤先輩、そして同級生のみなさんはじめ、多くの方々に心から感謝したいと思います。本当に有り難うございました。