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交換留学経験者からのメッセージ 2008年

Duke大学留学体験記

伊藤 大輔


私はDuke大学に約2ヶ月間派遣留学させていただきました。実習に到るまで、到ってからとたくさんの方々に支えていただいて乗り越えた、私の留学生活を報告させていただこうと思います。
1.Consultative Cardiology
実習初日は朝八時に助教授のDr. Waughにオリエンテーションをしていただいた後、まずは回診につきなさいということでattendingを紹介されてよくわからないままに回診につきました。このチームがいったいどんな編制で業務内容は何なのかというところをつきとめるところから始まりました。幸いDuke大学の2年生も2週間前からローテートしていたので、彼に色々と聞きながらなんとか最初の1週目をこなすことができました。私の所属していたのはTeaching Serviceというチームでした。このチームは病棟のチームとコンサルトのチームの2種類にわかれていました。学生はコンサルトの方に配属され、学生の仕事はfellowがコンサルトにいく前にまず患者の情報、身体所見、検査所見等を聴取し、まとめて自分なりのアセスメント、プランを考えfellowにプレゼンし、attendingと今後の方針を決め、いっしょにフォローアップしていくといったことです。
最初の1週目は午前中も午後も基本的にattendingの回診についていましたが、fellowがコンサルトの患者を見に行くときは呼んでもらって、一緒に見るといった内容でした。2週目からは英語になれてきたので、Dukeの学生と一緒にコンサルトの患者を見に行ったり、自分一人で見に行ったりと、徐々に私にも任せてくれるようになってきました。3週目からはDukeの学生がいなくなってしまったので、fellowと行動をともにしていました。どの患者を診る時も、彼は必ず私に見解を聞いてきて、適切なフィードバックをくれます。自分のしたいことを訴えれば、それなりに応えてくれるので循環器でのローテーションはアメリカに慣れて勉強するのにはとても充実していたと思います。また、火曜と水曜の朝7時からはDr.Waughの身体診察の講義が2時間ほどあり、シミュレーターを使って胸部の触診、聴診の解釈のトレーニングがありました。これもとても勉強になりました。
2.Pulmonary Medicine
呼吸器のローテーションもコンサルトチームに配属されました。ここでも学生の役割は循環器内科のものと同じです。呼吸器のローテーションでは英語に慣れてきたこともあって、押し並べて数えるとだいたい一日一件のコンサルトをまかせてもらえました。(ということで、担当患者はどんどん増えていき、朝早くから回診していました。)もちろん、最終的にはattendingも治療方針を記入しますが、自分の書いた現病歴や所見、A/Pなども使われるので、その責任に対する怖さと同時にやりがいを感じ、自然と患者さんにあってお話をしたり、疾患について文献検索したりする機会が増えました。また私を担当してくれたfellowは必ずプレゼンテーションに対して適切なフィードバックをくれました。考えつかなかった鑑別はもちろん、プレゼンテーションの重要性、つまり、いかに自分の考えている鑑別疾患をロジカルに伝えるか、またそそのためにどのように現病歴を組み立てるか、どのようにサマライズするのが効果的に伝えられるのか、など、いかにプレゼンテーションを通して自分の考えを伝えて納得してもらえるかということを、時間をかけて丁寧に教えてくれました。毎日それを繰り返していくうちにかなり上達したのではないかと思います。呼吸器に所属していたものの、苦手だった一般的なプレゼンテーションのスキルを磨けたことは私にとって大きな収穫の一つです。
全体を通して一番印象的だったのは、アメリカの医師たちの臨床教育に対する姿勢です。Duke大学では、毎日、朝、昼、夕方にたくさんのカンファレンスが開かれていました。質問や意見が飛び交っていて、熱い議論が繰り広げられていました。そうやって切磋琢磨していく雰囲気はとても刺激的です。アメリカの医師達が学生や後進の医師たちの考えをよく聞き、ディスカッションしている光景はいたるところでみられました。そこに薬剤師や看護師も加わって、患者の治療方針から始まり、EBM、最新の臨床試験の話まで発展していくのはとても印象的でした。このようなアメリカ的な教育を受けられてとても勉強になり貴重な体験だったと思います。
あっという間の2ヶ月間でしたが、とても充実した期間となりました。この2カ月で様々な人と出会い、自分の将来、日本の医療について深く考えることができ、自分の医療に対する考えがかなり広がったのではないかと思います。このような貴重で素晴らしい機会を与えてくださった名古屋大学国際交流室の粕谷先生・長縄さん、学務の西尾さん、YLPの坂本先生、学部長の濱口先生、Duke大学の関係者の方々、一緒にに留学した黒田君、2008年度の留学生のみなさん、そしてお世話になった全ての方に感謝致します。どうも有難うございました。

Warwick Medical Schoolへの派遣留学を終えて

名古屋大学医学部6年 上田 一仁

1. はじめに
2008年4月から7月にかけ、私は英国Warwick Medical Schoolへ派遣留学させて頂く機会に恵まれた。英国での3ヶ月は新鮮かつ愉しさに満ち溢れる日々の連続であった。同時にそれは日本の家族・友人の支え、何よりかの地での素晴らしい人たちとの巡り合いがあってこそのものであった。彼らへの感謝とともに、ここにその足跡を残すこととしたい。

2. Warwick Medical Schoolの概要
Warwickは英国イングランド中西部、Warwickshire地方にある街である。観光名所として、中世の面影を残すWarwick Castleが有名な街でもある。付近には、第二次大戦の爆撃で知られるCoventry、教会や公園があるLeamington Spaといった街がある。


本学であるUniversity of Warwickは、Coventryから車で10分のところに位置する。本学にはWarwick Arts Centreというイングランド屈指のセンターがあり、そこでは映画やコンサート、演劇を愉しむことが出来る。
一方、医療はというと、2つの大きな病院、すなわちUniversity Hospital Coventry and Warwickshireと Warwick HospitalとがCoventryとWarwickの医療を支えている。


3. 実習の概要
私は主に大学病院であるUniversity Hospital Coventry and Warwickshire(以下UHCW)、緩和ケアを担うMyton Hospice、Guilsboroghという村のGPの診療所にて実習をさせて頂いた。
その内訳は以下の通りである。
[UHCWにて]

・Endocrine Department(内分泌内科)
・CCU/ICU
・Infection Control Team(感染症コントロールチーム)
・専門外来:高血圧、糖尿病、甲状腺
・PACES(研修医向けOSCE対策)
・Accident & Emergency Department(救急科)
・外科手術見学

[Myton Hospiceにて]
・Palliative Care(緩和ケア)

[GP surgeryにて]
・GP(英国家庭医の診療所にて実習)

その他、
・小児専門ホスピスであるHelen & Douglas Houseの見学
・International Conference for Paediatric Palliative Care(国際小児緩和ケア学会)参加
・小児病院 Great Ormond Street Hospital for Children の一部見学
・日本人小児科医へのインタヴュー
といった機会にも恵まれた。

以下、その実習内容について述べていきたい。

4. Endocrine Department(内分泌内科)
私がまず初めに配属され、UHCWでの実習方法に慣れたのが内分泌内科である。実習方法としては、病棟にて研修医に患者リストを見せてもらい、許可を取った上で問診、身体診察をするという形式が多かった。基本的に研修医、患者双方すんなり許可頂ける。

内分泌科で診させて頂いた患者さんとしては、
・CREST syndrome
・Phenochromacytoma(褐色細胞腫)
・Alcoholic cirrhosis(アルコール性肝硬変)
・Hepatic coma(肝性脳症)
・Diabetic ketoacidosis(糖尿病性ケトアシドーシス)
・AS(大動脈弁狭窄症)
・神経性食思不振症
・Acromegaly(末端肥大症)
・多発脳梗塞後
などが挙げられる。なお、英国では内科医であればGeneral Internal Medicine(一般内科)、外科医であればGeneral Surgery(一般外科)に精通していることを前提として専門科が置かれているので、内分泌内科の病棟であってもASの患者が入院していたりする。

問診、身体診察を行った後は研修医とディスカッションすることが多い。自分が取った所見の意味、機序、鑑別診断、今後必要な検査など、様々なことを質問される。私が見学したある学生の実習風景は非常に印象的であった。
OSCEの試験を間近に控えた彼女は、ある一人の患者を割り当てられた。まずは学生一人で問診と身体診察である。その後、傍で見ていた研修医が同じく問診と身体診察を行い、改善すべき点を示した。所見を取り終えた2人は患者のいない別室へと向かう。プレゼンテーションの始まりだ。患者の名前、年齢、主訴、病歴から始まり、陽性所見、陰性所見まできちんと述べなければならない。プレゼンテーションを無事終えたのもつかの間、すぐに研修医から質問が飛んでくる。
「患者のプロブレムは?」
「そのプロブレムを病態や機序を基に分類するとどうなる?」
「一番可能性の高い病態は?」
「そこから考えられる鑑別診断は?」
「検査など、今後の診断や治療の進め方は?」
ディスカッションが白熱する。その時間、30分以上。そして最後に検査所見や実際の診断名の種明かしがあり、ティーチングは終わっていく。問診の始まりから数えるとおそらく1時間は教えただろう。私も同じようなティーチングを受けたが、やはりマンツーマンの密度の濃いものであった。学生は問診や身体診察を基に病態を論理的に説明する、そして研修医が足りない点を教えるという教育体制がきちんと存在しているように感じられた。

5. CCU/ICU
CCU/ICUでは、ICU入院中患者の血ガス結果に関して考察する酸塩基平衡の演習をさせて頂いた。日本と単位が異なる数値については英国の医学書を参考にし、ディスカッションするというものであった。実習期間が短かったものの、どのように結果を考察するかの説明を求められる密度の濃い実習であった。

6. Infection Control Team
この科では2週間にわたって実習をさせて頂いた。ICTの役割は、コントロールが難しいと予測される感染症患者をフォローすることや抗菌薬使用のコンサルトに応じることである。
具体的には、午前中はLaboratoryでの検査業務に従事し、午後はICU/CCUと胸部外科術後患者の回診が主な業務となる。
Laboratoryでの検査業務はグラム染色や抗菌薬感受性試験など、感染症一般の検査が主である。
午後の回診は、毎日のカンファレンスから始まる。13時頃、ICTの上級医が集まり、新たなICU/CCU患者や他科からコンサルトを受けた患者の報告をし、ディスカッションをする。その後、その日当番の上級医と専門研修医とがペアを組んで回診を行うこととなる。その患者数は30名を超える。
回診の内容としては、ベッドサイドにて使用薬剤や投与量、投与方法を毎日チェックするというものだ。とりわけバンコマイシンやゲンタマイシンにはしっかりと注意を払っている印象を受けた。ICU/CCUの医師と今後の方針について話し合うこともある。やはり英国でもブロードスペクトラムの抗菌薬を多用する傾向があるそうで、そのためにICTがしっかりと抗菌薬の管理をしているということだった。
その他にも、院内での啓発活動や感染症関連の合同カンファレンスも彼らの仕事である。特に彼らが作成したカードには起因菌未同定の場合の経験的治療の院内ガイドラインが記されており、多くの医師が携帯していた。また、整形外科病棟で術後感染症の頻度が高いという報告を受け開催された合同カンファレンスも印象深い出来事であった。

7. 専門外来
英国では内科の指導医は専門科を持って診療にあたっている。例えば、私の担当教授の専門外来は高血圧と糖尿病であった。それらを見学すると同時に、甲状腺を専門とする指導医の外来も見学させて頂いた。
高血圧専門外来では、GP(家庭医)のもとでコントロール不良な高血圧の患者が紹介されてくることが多い。そこでは問診、身体診察を行った後、RAA系の精査などをオーダーすることとなる。ここでは同時に患者の予診や身体進達を行い、指導医にプレゼン後一緒に患者を診るということも数多くやらせて頂いた。なお、プレゼンテーションでは患者の名前や年齢、主訴は勿論、服薬歴やアレルギー歴、システムレヴューなど全てを網羅することが要求される。
糖尿病専門外来では、主に1型DM、特に小児科から内科へと移行する年齢層(10代後半)の患者を多く見学した。大学進学やパートナーの妊娠など社会的問題を抱えている患者もおり、そういった患者に関しては診療後看護師や他の医師を交えてのカンファレンスが開かれる。医学的問題と社会的問題とに同時に対応する重要性を感じた。
甲状腺専門外来の患者の多くはThyrotoxicosis(甲状腺機能亢進症)であったが、中には甲状腺摘出後再発例の患者もいた。診療は一患者につき20分程度かけ、その後学生とディスカッションという形であった。

8. PACES(研修医向けOSCE)対策
英国はOSCEの歴史の古い国であり、学生向けのほかに研修医向けの OSCE も存在する。どちらも患者の協力の下で実施するため、受験者は本来の診察さながらに能力を試されることとなる。
今回は研修医向けOSCEであるPACESの模擬試験が院内で行われると聞き、研修医に同行し一部始終を見学させて頂いた。模擬試験とはいえ、実際の患者の協力のもと、指導医が研修医の診察能力を採点する。セクションは多く、印象深かったものとしては、
・糖尿病性神経症の診断
・糖尿病性網膜症の診断
・強皮症の診断
・関節リウマチの診断
・MRの診断
・大動脈弁置換術後の人工弁の音を判断
・肝硬変の診断
・アスベストーシスの診断
・甲状腺摘出術後の患者のフォローアップ
・医療面接
(NGチューブを入れるかどうかの判断を家族に対して説明、
心筋梗塞を心配する患者への説明、乳がんの転移の結果を患者に説明)
・本番の試験に向けてのアドバイス
などが挙げられる。
今回は練習のため、指導医からフィードバックを貰って終了であったが、実際の試験だと10人受験して1人合格というぐらい厳しいそうである。これは、「診断もしくはその過程に少しでも矛盾があれば、そのセクションはまず0点」という採点方法に基づくためである。
こうしたことからも、問診と身体診察を重視する英国医療の一端を窺うことが出来た。

9. Accident & Emergency(救急科)
英国の救急科はMajor Injury, Minor Injury、小児であれば小児専門救急外来と大きく分かれており、さらに大量服薬など入院管理が必要な場合は救急科の病棟にまず入院させることになっている。これら全ての分野に、医師や看護師が配置されている。
Major Injuryには交通外傷や多発外傷、急性心筋梗塞など、多くの人手を要する患者が収容される。一方Minor Injuryでは手の外傷や関節痛など、Walk-in かつ軽度~中等度の患者が来ることが多い。小児専門救急科はその名の通り小児専門であり、主に外傷が多かった。
救急専門病棟では、指導医と専門研修医のペアで回診を行い、指導医の指示に従って対処をするという形式であった。
救急科において外傷が多いのは、外傷以外の症状であればまずGPに診療してもらうという英国の医療システムに負うところが大きいだろう。もっとも、中にはGPにかかる待ち時間を嫌い、直接救急に来てしまう患者もいるそうである。

10. 外科手術見学
幸運にも外科の専門研修医と懇意にさせて頂き、外科手術も見学させて頂いた。見学した症例は
・腹腔鏡下胆嚢摘出術
・虫垂炎由来の腹膜炎
であった。
外科については初期研修医が主に病棟業務、専門研修医は原則手術と術後回診に専念という役割分担が明確化されている。また、通常勤務、on-call(日中から20時までの勤務)、night shift(夜勤)というようにシフトによる勤務体制が確立されている。そのため、外科であっても超過勤務などといった事態は起こらないとのことであった。
さらに、毎週金曜日にはカンファレンスが行われている。そこではその週に死亡した症例について研修医、指導医とで活発な議論をしたり、指導医がレクチャーを行うなど、教育体制も確立されているように感じられた。

11. キャリアフォーラム
Warwick大学では医学生、研修医を対象にしたキャリアフォーラムも開かれている。
ここでは、英国の医学教育のシステムの概要について説明したい。
まず英国の医学部は一般的に5年間である。ただし、Warwick Medical Schoolのような学士編入専用の医学部は4年間である。また、一部6年間の医学部も存在する。
医学部卒業後はFoundation Yearsと呼ばれる2年間の初期研修コースに進む。ここでは様々な科を回り、総合的な医療技術を磨く。
その後は各専門分野のトレーニングとなる。これはSpeciality Trainingと呼ばれている。これは3つのLevelに分けられているが、Level 1の間にLevel 2に進むための専門研修進級試験に合格しなければならない。なお、この試験には筆記試験と臨床技能とが含まれている。
8年程度のSpeciality Trainingを終え、症例レポートなどを通して一定の評価を得ると晴れてConsultant(指導医)となることが出来る。

12. Palliative Care(緩和ケア)
英国はホスピス運動発祥の地としても知られている。今回はLeamington Spa近くにあるMyton Hospice及びGeorge Eliot Hospitalに隣接するMary Anne Evans Hospiceで実習をさせて頂いた。
英国と日本とではホスピスの在り方にやや異なる部分がある。


まず、運営は基本的には寄付に基づいている。寄付の集め方も一般的な寄付から町でよく見かけるホスピス専用のチャリティーショップの売り上げ、有志がちょっとしたチャレンジを企画して(「スカイダイビングに挑戦」「長距離ウォーキング」など)そのチャレンジが成功したら賛同者から寄付を貰うといったものまで色々である。
また、入院の目的はレスパイトケアのためというのが主流である。これは、重症化した病態をコントロールするため、あるいは介護する家族に休息を提供するために、最長2週間程度、一時的にホスピスに入所するという形式である。背景にはGP、癌専門看護師、訪問看護師による英国の在宅ケアシステムがある。なお、私が訪問させてもらったホスピスでは、そうした入所の他にデイケアも提供していた。
最大の違いは、病院の中にホスピスを作るのではなく、地域の中にホスピスを建てていることである。これはCommunityに根ざす英国医療の一つの表れであるように思われる。
一方、日本と同じ特徴としては、医師、看護師、ソーシャルワーカー、牧師などで構成されるMulti Diciplinary Team(多職種チーム)による包括的医療を提供している点、また医療の内容(症状のコントロール方法、薬剤の投与方法など)といったところであろう。
なお、緩和ケア科の医師は市中病院に赴くこともあり、症状コントロールに関するコンサルトにも応じていることを付け加えておく。


13. GP surgery
英国の医療制度の大きな特徴の一つはGP、すなわちGeneral Practitionerの存在である。乳児から高齢者まで幅広い患者層、内科、小外科、小児科、精神科まで多岐に渡る疾患を取り扱うプライマリケアの専門医、それがGPである。英国ではGPの紹介状がなければ市中病院には原則的にかかれないことになっている。その為、GPは専門トレーニングを受けプライマリケア疾患であれば何でも対処できるだけの能力が要求される。
私が実習させて頂いたのはGuilsboroughという村のGP surgery(診療所)であった。診療所とはいうものの、そこでは医師、看護師、薬剤師、保健師などが働き、何人かは訪問診療を行っているという基地のようなところであった。
まず医師の診療から述べると、まず原則予約制である。患者は電話などでアポイントメントを取ってから受診する。なお、患者の要望があってから24時間以内にGPは必ず診察しないといけない規則がある。私が見学した患者としては、DMや高血圧のフォローアップ、乳幼児の発疹看護師の中でも興味を引いたのは、Nurse Practitionerという職種である。これは、ほとんど医師と同じ権限を与えられている看護師のことである。具体的には、単独で診療でき薬が処方できることがメリットと言える。なお、やれないことは他院への紹介とCT、MRIなどのオーダーということであった。なお、英国は看護師の卒後教育が充実しており、喘息専門、心不全専門などの専門看護師という職種が認知され活躍していることも付記しておく。
その他にも保健師の母子訪問指導、妊婦健診なども見学させて頂いた。
通常の診療でも患者を傾聴する姿勢やこまめに行う訪問診療を目の当たりにし、「地域とともに歩む医療」の在り方をそこに見たように感じた。


14. Paediatric Palliative Care(小児緩和ケア)について
小児緩和ケアもまた、成人同様英国発祥の分野である。これは1982年にOxfordにHelen Houseという小児専門ホスピスが出来たことに由来する。その後、青年向けホスピスであるDouglas Houseも設立され、現在のHelen & Douglas Houseに至っている。
Helen Houseの設立後、英国では各地に小児専門ホスピスが設立され、現在は30程度存在しているとのことである。成人ホスピス同様、その多くは寄付によって運営されている。
小児専門ホスピスが対象とする疾患は、

・中枢神経疾患
:副腎白質ジストロフィー、脳性麻痺など
・神経筋疾患
:筋ジストロフィーなど


などの疾患が多く、腫瘍性疾患などは少ない。これは、癌専門看護師の存在により腫瘍性疾患は在宅で診るシステムが存在しているためである。
Helen & Douglas Houseに代表される小児緩和ケアの現状は、日本とは隔世の感がある。広い庭園、ジャグジー、音楽室、コンピュータルーム、プレイルーム、保護者の休息用の部屋、整えられた霊安室など、こうした夢のような施設を子どもたちは無料で利用することができる

現在、小児緩和ケアの拠点となっているのはWales地方のCardiff 大学とLondonにあるGreat Ormond Street Hospital である。今回私はCardiff 大学で開催された第4回国際小児緩和ケア学会に参加したが、その3日間は非常に興味深いものであった。。

小児緩和ケアの現状、教育体制からアフリカにおけるAIDS患児への取り組みと多岐に渡る演題を聞くことが出来た。英国ではACT(小児緩和ケア協会)が小児緩和ケアの確立に努め、また各国の小児緩和ケアがネットワークを結ぶicpcn(国際小児緩和ケアネットワーク)という動きが始まっていることは注目に値するだろう。


15. Great Ormond Street Hospitalの見学
Great Ormond Street Hospitalは1852年に設立された英国初の小児専門病院である。今回はこの病院の博物館と1階とを見学させて頂いた。博物館は小ぢんまりとしたものだが、病院の歴史を物語る器具や文書が保存されている。また、1階には大きな聖堂も存在する。


Great Ormond Street HospitalはLondon大学と提携しており、最先端の研究センターとしても世界的に有名である。


16. 日本人小児科医へのインタビュー 幸運にも、今回はManchesterで働いている日本人小児科医の先生に話を伺うことができた(現在はLondonへ異動)。

英国の小児医療の特徴としては、
・原則的に小児科医だけが小児を診る体制
・Play Therapistの存在
・子どもと保護者を尊重する姿勢
が挙げられる。
Play Therapistとは病棟に勤務する保育士の一種であり、主に処置などで怖がる患児に対しおもちゃなどを通して興味を逸らせる役割を担っている。彼らのおかげで、多くの場合子どもを泣かせずに処置が終わることが多い。
また、子どもを一個人として尊重する文化が浸透しており、例え処置の一環であれ子どもを押さえつけたりすることは出来るだけ避ける努力がなされている。同時に、処置に保護者が同席することも当然のこととして認識されており、ルートから腰椎穿刺に至るまで保護者は希望さえすれば子どもの傍に付いていることが出来る。
以上のような光景は、私が実習した大学病院の小児専門救急でも実践されていた。些細なことであるかもしれないが、このような実践一つ一つが子どもを尊重する社会の創造に寄与しているように感じられた。

ueda9.jpg17. 医学生との交流
現地の医学生との交流も非常に刺激に満ちたものであった。友人の医学生との再会、医学生パーティへの参加、新たにWarwickで友情を結んだ医学生との語らいは、温かな思い出の一コマである。

18. 終わりに
3ヶ月の実習を終え、私は帰国の途に着いた。この3ヶ月を表すとすれば「出会いに彩られた時間」であったように思う。熱心な教育との出会い、地域医療との出会い、子どもを尊重する社会との出会い、そして何より魅力的な医師、看護師、医学生との出会い。課題も多い英国の医療の中、真剣に医療に取り組む彼らと過ごした時間はかけがえのないものであった。

出会いは運命を変える。

英国で学び、感じた全てを糧にして、また一歩ずつ進んでいこうと思う。

最後に、この派遣留学を支えてくださった名大国際交流室及び学務課の皆様、一緒に留学した同期の仲間、そして家族に大きな感謝の意を表して結びとしたい。