名大病院の活動について

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ビデオゲームを用いて注意欠如多動症(ADHD)を改善する治療機器の研究開発プロジェクトについてAMEDと契約締結

注意欠如多動症(ADHD)は人口の5%に見られる最も頻度の高い神経発達症(発達障害)で、生涯にわたって困難が続く疾患です。近年、有病率が上昇しており、学業の不振や、対人関係トラブルなどによる不登校、教育現場における教師に対する過度な負担などとの関連も指摘されています。症状は多動衝動性・不注意を特徴とします。

ADHDの治療は薬物療法と心理療法が中心で、薬物療法が70%ほどの患者さんに有効であることが知られていますが(Takahashi, W J Biol Psychiat. 2014)、小児では成長障害等の有害事象が多く、また依存・乱用の懸念から治療薬は厳重な流通管理が行われています。治療薬は根治療法ではなく、対症療法であり、集中力の持続や多動性といった症状には有効ですが、日常生活に対する効果は限定的です。

今回、名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科・高橋長秀 准教授、浜松医科大学どものこころの発達研究センター・土屋賢治 特任教授、Almaprism合同会社・糟野新一CEOらの共同研究チームは、ADHDの方の実行機能の改善を目指したビデオゲームを開発するプロジェクトを開始しました。本プロジェクトは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和4年度「医療機器等研究成果展開事業」に採択され、AMEDと契約締結しました。

今後は名古屋大学医学部附属病院での倫理審査を経て、名古屋大学医学部附属病院・浜松医科大学での実施許可のもと2023年中に臨床試験を開始する予定です。

ポイント

○注意欠如多動症(ADHD)は増えており、治療薬も有効であるが日常生活能力の改善効果は乏しい
○ビデオゲームを用いたトレーニングでADHDの方のQOLがさらに改善することを目指す
○副作用などで薬が使えない方にも有用である可能性もある

解決すべき課題

注意欠如多動症(ADHD)は小児の5%、成人の2.5%に見られる最も頻度の高い神経発達症(発達障害)ですが、診断基準を満たさなくなっても、患者さんは生涯にわたって社会生活上の困難を抱えておられます。ADHDの発症には遺伝的要因と環境が組み合わさっていると考えられていますが、年々有病率が上昇していることが知られています。ADHDを有すると、小児であれば学業不振や対人関係トラブルが起こり、不登校やうつ病になることもあり、教育現場では教師に対する過度な負担が生じている可能性が指摘されています。
ADHDの症状は多動衝動性(じっとしていることが苦手、待つことができないなど)・不注意(集中力が持続しない、ミスや忘れ物が多いなど)を特徴としますが、本プロジェクトではまずADHDの薬物療法の効果が期待しづらい症状に焦点を絞り、ゲームをプレイしたデータからそのような能力を正しく測定できているかを確認します。次に継続してゲームをプレイすることでそのような能力が改善していること及びADHD症状が改善していることを確認し、医療機器としての申請を目指します。

本研究開発によるADHD治療ゲームで解決できること

本研究では、段取りやうまく行かなかった時に別の方法を考えるような能力を伸ばし、その結果として、お子さんの日常生活や学業における困りごとが減り、生活の質が向上すると考えています。
米国では2020年に、ADHDの方に見られる注意力の障害をターゲットとしたビデオゲームが開発され、すでに承認されており(Kollins, Lancet Tech.2020)、日本でも臨床試験が開始されていますが、こちらは注意力という単一の認知機能を対象としており、日常生活への効果は限定的であると考えられます。

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図1. 作成中の3Dビデオゲームのコンセプト図
陣地防衛を行う3Dアクションゲームで、 陣地を攻めてくる敵に対し、どう準備して対処するかを考え、うまくいかなかったら考え直して繰り返し挑戦する。実際のゲームはこれにキャラクターデザイン、背景などを加えてより一層臨場感のあるものとなる予定。

今後の展開

今後は名古屋大学医学部附属病院での倫理審査を経て、名古屋大学医学部附属病院・浜松医科大学での実施許可のもと、2023年中に臨床試験を開始する予定です。ゲームをプレイしたデータを解析することで症状と関連する能力が正しく測定できていることを確認し、2024年からは継続してゲームをプレイすることで能力が改善していること及びADHD症状が改善していることを確認するための臨床試験を行います。最終的に2025年以降に医療機器としての申請・承認を目指します。ゲーム依存になってしまわないように、1日にプレイできる時間やステージ数に制限を設けます。

謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)医療機器等研究成果展開事業「ビデオゲームを用いた実行機能介入による注意欠如多動症の治療機器の研究開発」の支援を受けて遂行されます。

■本研究のAMED公募情報(AMED Webサイト)
令和4年度 「医療機器等研究成果展開事業」に係る公募(二次公募)の採択課題について
https://www.amed.go.jp/koubo/12/01/1201C_00027.html