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認知症患者の介護者間コミュニケーション促進のための アプリケーションツールを用いた臨床研究を開始 ~介護負担感の軽減とそれによる患者自身の行動・心理症状(BPSD)の 改善に向けて~

名古屋大学医学部附属病院 地域連携・患者相談センター 老年内科(研究代表者:病院准教授・鈴木裕介)と名古屋大学大学院医学系研究科 医療行政学教室(客員研究員:後藤康幸)は、株式会社丸信コンサルティングと共同で、認知症患者の介護者間のコミュニケーションを促進するためのアプリケーションツールを独自に開発しました。

今回、本アプリを用いて名古屋大学医学部附属病院に通院中の認知症患者とその主たる家族介護者を対象に、仮想空間内で家族介護者や患者との間でのコミュニケーションを促進させることで、介護負担感を軽減させられるのか、またその結果、介護への取り組み方が変わり患者本人の行動や心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD)の進行を和らげる事ができるのかを探索する臨床研究を開始します。さらに、介護職の方をはじめとした医療従事者間の情報連携(多職種間連携)を促進する機能もアプリに持たせることで、情報連携を通じた業務の効率化・質的向上の有無も検証します。

この研究を通して得られるであろう情報や知見には、今までは収得することが困難であった介護者や患者の疾患と関連する日常生活の情報が含まれ、少子高齢化に歯止めがかからない日本社会が抱える最も重要な課題の一つである認知症の介護問題に対するデジタル技術の可能性を見出すことができます。また、介護者への介入を通じて患者本人の症状を改善するという認知症に対する新たな角度からのアプローチの扉を開くきっかけとなると期待しております。

ポイント

○認知症患者だけではなく、その家族介護者の方をターゲットにしている。

○認知症患者およびその家族向けのソーシャルネットワークを確立し、認知症患者やその家族の孤立感を予防する。

○採血といった客観的なデータではなく、診療に今後有益になる主観的なデータを収集できる。

○介護職をはじめとした医療従事者間の情報連携(多職種間連携)を促進し、その業務の効率化ができる。

1.背景

認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD)による介護負担感は、介護者の日常生活に多大な影響を与え、介護破綻の原因にもなります。介護者を孤立させず、BPSDを早期に検知し対策を講じることで、介護負担感を軽減させることは重要です。しかしながら、現行の限られた診療時間内で、患者のBPSDに伴う日常生活への影響を把握する、孤立感に対する対策を講じるといった介護者の負担感を軽減するような介入的アプローチを実施することは困難な状況にあります。

2. 研究成果

今回のプロジェクトの基本的理念は、医療・介護の提供者がより効果的に医療・介護を提供できるようになるための情報通信システム(Information and Communication Technology:ICTシステム)を設計開発することにあります。2040年代まで続く高齢人口の増加により、現行の医療体制で増え続ける認知症患者の様々な問題に対処することは困難であり、地域における介護者負担の増大は喫緊の課題となっています。医療・介護従事者の負担減少、医療・介護資源の効率化の観点から、ICT技術の利活用により現行の体制をサポートする仕組みを開発することが現実的なアプローチです。我々の開発するシステムは、医療従事者間、患者家族を含む介護者間のコミュニケーション・連携を促進し、よりスムーズな医療・介護の提供、認知症の医療・介護の負担軽減の足掛かりになると考えられます。

3.今後の展開

現在の一般的な外来診療体制では診療時間による制約のため、認知症患者の日常生活の情報を収集し、それを診療に反映することは困難です。そのため、採血や画像検査などの客観的な情報を基に診療することが多いです。一方、最近はePRO(electronic patient-reported outcome)に関する報告が増えています。その背景として、モバイルデータ通信機器の普及に伴い、24時間絶えずその人の生活情報や生体情報を取集することが可能となり、日々の生活で直面する色々な悩みや、身体症状の変化等を、ePROをベースに評価できるようになったことが挙げられます。

今回我々は、アプリを用いて認知症の家族介護者の介護負担感の軽減を目的として、仮想空間内でコミュニケーションを行うことのできる場を作成します。この仮想空間をとおして、治療を行う上で必要な情報でありながら、今までは収得することが困難であった、患者の疾患と関連する日常生活の情報を収集することもできるようになると考えています。そのような新しい情報を有効活用することで、個別化医療に対応できる医療体制を構築することができ、その結果、医療の効率化が進むことも期待しています。
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4.用語説明

*:ePRO :患者報告アウトカム電子システムのことです。具体的には、携帯電話といったリアルタイムに情報を伝えることができる携帯端末を通じて、その装置を持っているあるいは装着している患者の状態や状況を医療者に直接伝えることです。