名大病院の活動について

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喉頭摘出者における音声変換技術を用いた自己音声再獲得の臨床研究を開始 〜AMEDの支援による音声再生プロジェクト〜

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科・耳鼻咽喉科学の西尾直樹(にしお なおき)講師、精神科学の木村宏之(きむら ひろゆき)准教授、脳神経内科学の坪井崇(つぼい たかし)助教、同大情報基盤センターの戸田智基(とだ ともき)教授らの研究グループは、様々な病気により喉頭摘出を余儀なくされる患者さんに対して、手術前に保存した自己音声を、同研究グループが開発を行った低遅延リアルタイム音声変換技術と組み合わせることにより、手術で喪失した自己の音声を再獲得することを目指す臨床研究を開始しました。さらに、この音声変換基盤システムを構築し、日常生活において使いやすいように、ポータブルデバイス上で動作し、会話ができる機能を備えた発声補助アプリケーション開発も行います。本研究により喉頭摘出者の社会生活への積極的な参加が可能となり、ポータブルデバイスで使いやすい発声補助アプリを開発することで、実際の生活環境での会話も楽しむことが期待できます。

 本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業感覚器障害分野の支援を受けて行われる臨床試験です。また、本研究には、名古屋大学発のベンチャー企業であるTARVO株式会社やコエステ株式会社も参画しています。TARVO株式会社は、主に音声変換アプリの開発、コエステ株式会社は音声コーパスの提供や音声合成技術の提供の役割を担っています。これらの企業と共同で臨床試験を進めていくことで、日本全国の悩んでいる患者さんにこれらの技術を届けることを目指しています。 

ポイント
○ 声を失う前に自分の声を録音しておくことで、自分の声を取り戻すことが期待できる。
○ 音声変換技術を用いることで、より良い代替発声方法を開発する。
○ ポータブルデバイスで使いやすい発声補助アプリを開発する。 

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1.背景

 音声言語は感情表現やコミュニケーションに重要な要素であり、人間が社会生活を送るために、必要不可欠な機能です。頭頸部がんや神経筋変性疾患により喉頭を摘出された患者さんは自分の声による音声での意思疎通が不可能となり、生活の質の著しい低下につながります。現在、声を失った患者さんに対しては、電気式人工喉頭による発声法やボイスプロステーシスによるシャント発声法などの代替発声法が広く用いられています。例えば、電気式人工喉頭は、先端の振動子を首に当てて、振動子の音を声道内に共鳴させて代用発声するもので、現状では最も普及しており、その習得や操作が比較的容易とされています。一方で、その発声は抑揚に乏しく、「機械的」な音声であるために、使用を控える患者さんが多いのが現状です。また、これらの代替発声法である程度の意思疎通は可能になりますが、一度喪失した自己の音声を取り戻すことできません。

2.今後の展開

 本研究において、医学部附属病院と情報基盤センターが連携し、新しい臨床研究を開始することになりました。当研究により、手術前に自己音声を保存し、音声変換技術で手術後に自己音声を再獲得できれば、喉頭摘出術という手術治療を適切に患者に提供できることになり、予後の改善につながります。また、自分らしい抑揚のある音声に変換できれば、喉頭摘出者の社会生活への積極的な参加が可能となります。さらに、音声の変換技術を活用し、ポータブルデバイスで使いやすい発声補助アプリを開発することで、実際の生活環境での会話も楽しむことが期待できます。

当プロジェクトに関する詳細はコエステ株式会社によるプレスリリースもご確認ください。
URL: https://coestation.jp/news/detail.php?id=1093944