名大病院の活動について

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臨床研究「拡張型心筋症に対するテイラーメイド方式 心臓形状矯正ネットの臨床試験(jRCTs042180025 )」の第一例目実施

 名古屋大学大学院医学系研究科心臓外科学碓氷章彦教授(研究代表医師)と同大学医学部附属病院秋田利明特任教授(研究分担医師)らの研究グループは、世界初となる「重症心不全患者に対するテイラーメイド方式心臓形状矯正ネット」の臨床第一例目(First in Human)の装着を行い、患者が順調に退院したことを明らかにしました。
 拡張型心筋症は進行性に心不全と心拡大を来す難病(指定難病57)で、平成28年の時点で中等度以上の症状を有する医療受給者証保持者数は27,968人です。(難病情報センターホームページ:https://www.nanbyou.or.jp/entry/3985)心不全が進行した場合は心臓移植以外に根治的療法はありませんが、毎年の心臓移植患者は60名未満で、多くの患者が心臓移植を受けることなく亡くなっていきます。心臓形状矯正ネットは心不全悪化の最大の要因である進行性心拡大(=心臓リモデリング※1現象)を、コンピュータの編み機を使ってテイラーメイド方式で作成したメッシュ状の袋で、主として左心室を覆うことで心臓リモデリングを物理的に防止し、心機能の改善と生命予後の改善を目指すものです。これまで経済産業省課題解決型医療機器等開発事業委託で設計・製造技術の開発・試作品の作成を行い、文部科学省・日本医療開発研究機構(AMED)橋渡し加速ネットワークプログラムの助成で動物実験、非臨床試験、薬事戦略相談を実施しました。また株式会社UT-Heart研究所の世界最高峰の心臓シミュレーション技術の成果も取り入れています。なお、本研究は名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部が医療技術実用化のための支援を行い進めてきました。
 本研究は平成30年4月に施行された臨床研究法の下での名古屋大学臨床研究審査委員会の審査を得て、テルモ生命科学芸術財団の助成の下、臨床研究中核病院を中心とした全国5大学(名古屋大学、東京大学、大阪大学、東北大学、慈恵医科大学)で3例の実施を予定しています。対象となるのは心拡大が進行した拡張型心筋症の20歳から75歳の方です。症例の組み込み期間は2020年6月までを予定しています。本試験にて心臓形状矯正ネットの安全性と有効性を評価し、その結果を基に医師主導治験に繋げ、早期の薬事承認を目指します。

ポイント
○重症心不全の新しい治療法である「テイラーメイド方式心臓形状矯正ネット」の臨床研究第一例目(First in Human)を名古屋大学医学部附属病院(心臓外科)で行い、患者は治療を終了し退院しました。現時点では重篤な有害事象等の発生は見られていません。
○本治療法は、原因疾患を問わず心不全悪化の共通要因である進行性の心拡大(=心臓リモデリング現象)に対して、心不全患者毎に最適化設計・製造されたメッシュ状の袋を拡大した左心室に被せ、物理的に心臓リモデリングをストップさせる全く新しい治療法です。
○心臓移植のようにドナーに依存することもなく、また補助心臓装置に高頻度で起こる血栓塞栓症や出血、感染等の重篤な合併症を回避できる可能性を探るために、臨床研究さらには医師主導治験を予定します。
○今後、臨床研究拠点病院を中心とした医師主導治験に繋げ、早期の薬事承認を目指します。

1.背景
拡張型心筋症は国が指定する難病(指定難病57)の一つで、適切な薬物治療を行っていても心拡大と心不全が進行し、最終的には心臓移植が唯一の治療法となります。しかし心臓移植は絶対的なドナー不足のためその適応は著しく制限されます。補助心臓装置は現在移植待機患者にのみ保険適応が認められていますが、極めて高額な医療でかつ重篤な合併症が多いことが問題となっています。安価で広く適応できる新しい治療法の開発が社会的急務となっています。

2.研究成果
これまでに動物実験及び株式会社UT-Heart研究所の心臓シミュレーション技術を用いて、左心室を選択的に覆う心臓形状矯正ネットの安全性と有効性を確認しています。
今回の名古屋大学における臨床第一例目(First in Human)においても安全に装着でき、術後経過は極めて順調でした。術後の超音波検査でも設計通り左心室容積の縮小が得られ、心不全悪化の原因となる僧帽弁閉鎖不全も軽減されました。今後半年にわたり心臓リモデリング防止効果だけでなく心機能の改善や生活の質の向上関して詳細にフォローしていきます。

3.今後の展開
 臨床研究としてあと2例を行い、その結果を基にPMDAに薬事戦略相談を行い、医師主導治験に繋げることを目標とします。
今後、臨床第一例目の安全性を継続して評価していくとともに、全国5大学においても、症例の適格性を合同の適格性委員会にて慎重に判断したうえで、臨床研究に組み込む予定です。さらに、臨床研究において、安全性が確認された場合、医師主導治験を実施し、有効性と安全性の検証を行う計画です。
心臓形状矯正ネットの事業化は、共同研究を行う株式会社iCorNet研究所が先駆け審査指定制度による2022年度の薬事承認を目指します。

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4.用語説明
※1.心臓リモデリング:心室が進行性に拡大し、心機能が低下していく現象。末期心不全では心臓の大きさは正常の3倍以上になることもあります。