名大病院の活動について

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Muse細胞製品を用いた新生児低酸素性虚血性脳症に対する 医師主導治験開始に関するお知らせについて

    名古屋大学医学部附属病院は、東北大学大学院と共に、新生児低酸素性虚血性脳症(neonatal hypoxic-ischemic encephalopathy;HIE)に対するMuse細胞を用いた研究開発を進めて参りました。このたび、HIEを対象疾患として、Muse 細胞製品「CL2020」の細胞を用いた臨床試験を医師主導治験として、国内で2月下旬より開始することとなりましたのでお知らせいたします。 
   
    脳性麻痺の発症率は、出生1,000人に対し2~3人の割合で生じており、その主な原因として、周産期脳障害(HIE)が挙げられますが、HIEに対する充分な治療法がなく、脳性麻痺の障害は生涯にわたることから、患者本人と支える家族に対する経済的支援や社会的負担は極めて大きいため、新規治療法の開発は急務であります。

    2010年に東北大学大学院の出澤真理教授のグループによって発見されたMuse細胞(Multlineage-differentiating Stress Enduring cells)は、体内で様々な種類の細胞に分化することができ、腫瘍化のリスクが非常に低い新しいタイプの多能性幹細胞です。Muse細胞は末梢血や骨髄、並びに各臓器の結合組織中に分布している内因性の修復幹細胞で、遺伝子の導入や事前に分化誘導したり、外科手術で細胞を移植したりする必要もなく、そのまま静脈内に投与するだけで損傷部位に集積します。Muse細胞は、そこに生着して分化をすることで、傷ついた細胞の代わりに、傷ついた組織を修復するという特徴を有しています。

    今回の医師主導治験では、Muse細胞の再生医療等製品CL2020の開発を進めている株式会社生命科学インスティテュートより治験製品が提供され、名古屋大学で新生児用に調製して投与します。 

    これまで名古屋大学医学部附属病院の佐藤義朗講師のグループは、HIEモデル動物(幼若動物)を用いた行動学的評価において、CL2020を単回静脈内投与することで、運動麻痺などの障害や不安関連行動を改善する効果を確認しました。また、幼若動物におけるCL2020の細胞の安全性も確認しました。

    このように、CL2020の単回静脈内投与によって、障害の改善が期待されたことから、CL2020は新生児低酸素性虚血性脳症患児の新たな治療選択肢となり得ると考えています。

   【臨床試験(医師主導治験)の概要】
     対象疾患: 新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)
     目  的: 新生児低酸素性虚血性脳症患児において、CL2020の細胞を単回静脈内投与した時の安全性及び忍容性を評価する。

    なお、非臨床試験から臨床試験の準備に至るまでは、日本医療研究開発機構の革新的医療技術創出拠点プロジェクトの橋渡し加速ネットワークプログラム及び橋渡し戦略的推進プログラム、並びに名古屋大学医学部附属病院先端研究支援経費の支援を受け実施しました。また、当該研究は名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部が実用化のための支援を行い、開発を進めてきました。 

    今後とも、名古屋大学医学部附属病院は、Muse細胞を用いて医療への更なる貢献を進めて行きたいと考えています。