名大病院の活動について

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名古屋大学医学部附属病院でイラクの医師が骨髄移植治療研修を実施、今秋にバスラで骨髄移植センター運用開始

要旨

イラク南部バスラから来た2人の医師が、2023年6月20日から8月末まで名古屋大学医学部附属病院(以下、当院)小児科高橋義行教授らのグループで骨髄移植1治療の研修を受けました。当院ではイラクの子供を支援するNPO法人であるセイブ・イラクチルドレン・名古屋の依頼を受け、2003年以来、イラクからほぼ毎年2名の医師の研修を受け入れており、今秋、バスラにてイラク国内で初となるドナーから骨髄移植を受けられる骨髄移植センターの運用が開始されます。8月上旬には、駐日イラク大使が当院を視察して、研修中のイラクの医師を激励し、これまでの長期にわたる支援への感謝と今後の人材育成への支援の継続を依頼されました。

ポイント

○2003年以来、当院ではイラクの子供を支援するNPO法人であるセイブ・イラクチルドレン・名古屋らと共同してイラクからほぼ毎年2名の医師の骨髄移植治療の研修を受け入れており、研修後にイラクの医療活動に活躍しています。
○今秋、バスラにはイラク国内で初となるドナーから骨髄移植を受けられる施設の運用が開始されます。
○8月上旬には、駐日イラク大使が当院を視察、研修中のイラクの医師を激励し、これまで長期にわたる日本人の支援への感謝と今後の人材育成への支援の継続を依頼されました。

背景

イラクのバスラは湾岸戦争(1991年)とイラク戦争(2003年)の激戦地で、病院機能の復興は重要な課題です。この地域は特に小児がん患者が他地域より多いことで知られ、戦争中に使用された劣化ウラン弾による放射能汚染による影響も疑われています。これまでイラクでは移植手術ができず、白血病・悪性リンパ腫といったがんや血液の病気で骨髄移植が必要な場合には、他の国で移植する必要があるため大きな負担となり、移植にたどり着けず救命できない患者さんも多くありました。

成果

当院は2003年以来、54人の医師を研修のためイラクから招いてきたセイブ・イラクチルドレン・名古屋らと共同して、イラクからほぼ毎年2名の医師の小児がん治療研修、骨髄移植研修を受け入れてきました。これまで受け入れた医師たちは、研修後にイラクでの医療活動に活躍しています。2023年秋からは、バスラにてイラク国内で初となるドナーから骨髄移植を受けられる骨髄移植センターの運用が開始予定です。

2023年6月20日から8月末までの間にも、当院小児科高橋義行教授らのグループで2名の医師が骨髄移植治療の研修を受けました。8月上旬には、駐日イラク大使が当院を視察して、研修中の医師を激励し、これまでの長期にわたる支援への感謝と今後の人材育成への支援の継続を依頼されました。

今後の展開

イラクのバスラの骨髄移植センターで移植が開始され、判断に迷う症例について当院の医師が相談を受けアドバイスを行うとともに、引き続き医師の研修を受け入れる予定です。骨髄移植後の患者さんの対応が問題なくできるようになれば、さらにCAR-T(カーティー)細胞療法※2などの細胞療法も実現できるように支援を継続する予定です。


※1 骨髄移植:白血病・悪性リンパ腫といったがんや血液の病気では、血液の細胞を作る骨髄の機能が低下するため、健康なドナーさんから骨髄を移植することで正常な骨髄と置きかえ、病気を根本的に治療しようとする治療法。
※2 CAR-T(カーティー)細胞療法:骨髄移植後に再発した白血病患者さんに対しても有効とされる細胞療法で、患者さんのT細胞が白血病を攻撃できるように遺伝子改変してから戻す細胞療法。

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▲(前列右より)イラクから名大病院に研修を受けたモハメド・ファルトゥシー 医師とナーイフ・ハファジ 医師、
  視察・激励に訪問されたアブドルカリーム・カアブ 駐日イラク大使、当院小児科 高橋義行教授。
(後列)セイブ・イラクチルドレン・名古屋の小野万里子理事長ら。