名大病院の活動について

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重症複合免疫不全症とポンぺ病の新生児マススクリーニングを愛知県内で開始について
~早期診断による救命率の向上に期待~

2017年4月1日より、名古屋大学医学部附属病院小児科、藤田保健衛生大学医学部小児科、愛知県健康づくり振興事業団が互いに協力して、愛知県内で出生した赤ちゃんについて、「重症複合免疫不全症」と「ポンぺ病」を早期診断するための有料の任意検査である新生児マススクリーニングを開始します。なお、重症複合免疫不全症に対する新生児マススクリーニングは、日本では初の導入となります。

重症複合免疫不全症とポンペ病は、現在、出生直後にごく少量の血液で診断可能な検査法が確立しており、発症前に病気を見つけ出す「新生児マススクリーニング」が有効な疾患です。これらの疾患を対象にした新生児マススクリーニングがすでに開始されている国もありますが、残念ながら日本では、公的なマススクリーニング対象疾患に含まれておらず、有料の検査としてもほとんど行われておりません。そのため、診断の遅れにより、多くの赤ちゃんがこれら二つの病気が原因で亡くなっています。

この新生児マススクリーニングが普及すれば、愛知県内では、毎年数名の赤ちゃんを救命することができます。また、すべての赤ちゃんが今後検査できるように、母子保健事業による無料の公的な新生児マススクリーニングに組み込んでいただくことを目指します。

新規マススクリーニングの概要

対 象 者 : 愛知県内の本研究に参加している施設で出生し、保護者の同意が得られた新生児
対象疾患 : 重症複合免疫不全症、ポンぺ病
検査施設 : 愛知県健康づくり振興事業団
費  用 : 保護者の自己負担となります。

★詳細は、出産予定の医療機関にお尋ねください。

新生児マススクリーニングについて

1)研究の背景

 新生児マススクリーニングとは、知らずに放置しておくと命にかかわるような疾患を、症状が出る前に見つけて治療するための検査です。日本の新生児マススクリーニングは1977年に開始され、現在までの40年間で3000万人以上の新生児がマススクリーニングを受けました。その結果、1万人以上の新生児について、障害の発症が予防されました。現在、日本では先天性代謝異常症など約20種類の疾患に対して検査が行われていますが、近年の診断技術の向上により、新生児マススクリーニングの対象となりうる疾患が増加しています。

 重症複合免疫不全症は、病原体の排除に必要な免疫系に、生まれつきの異常がある病気です。発症頻度はおよそ50,000出生あたり1人と推定されています。この病気は、出生時は無症状ですが、生後早期から感染症を繰り返し、多くは1歳未満で死亡します。また、知らずにBCGやロタウイルスワクチンなどの生ワクチン接種を受けると、重篤な感染を引き起します。しかし、感染症にかかる前に診断し、骨髄移植などの適切な治療を受ければ、高い確率で治癒が可能です。
 2008年より、米国でTREC(T-cell receptor excision circles:トレック)を検出するPCR法を用いた重症複合免疫不全症に対する新生児スクリーニングが開始され、その有効性が示されました。世界的にも、新生児代謝のスクリーニングと並行して、重症複合免疫不全症のスクリーニングを行う国が増加しています。名古屋大学医学部附属病院小児科では、2015年から予備的な研究を進めており、日本においても同じ検査で重症複合免疫不全症のスクリーニングが行えることを確認しています。

 ポンぺ病は、ライソゾーム中に存在する酸性αグルコシダーゼという酵素の欠損により生じる疾患です。筋肉内に糖分が蓄積して筋力が弱まり運動障害や呼吸不全などを生じます。重症の乳児型では症状が出てから治療を開始した場合、自分で歩けるようになるのは4割ほどで、約半数の患者さんで呼吸が弱く人工呼吸器が必要となり、3割ほどの患者さんは5年後までに死亡してしまうたいへん重篤な病気です。この病気について、生後早期に検査をして早期治療を行えば、人工呼吸器無しで歩けるようになるなど、大幅な症状改善が見込めることがわかりました。このため新生児マススクリーニングで患者さんを発見しようという試みが熊本、福岡、神奈川の一部の施設で始まっており、愛知県でも導入することとなりました。

 これら2つの疾患に対する新生児マススクリーニングは、欧米やアジアの一部の国でも開始されており、多くの赤ちゃんが救われていますが、日本では前述の地域で導入されているのみです。特に、重症複合免疫不全症に対する新生児マススクリーニングは、日本では初の導入となります。

2)実施方法

 本研究の対象は、2017年4月以降に、愛知県内の本研究に参加する施設で出生し、保護者の同意が得られた新生児です。従来から行われている代謝疾患などに対する新生児マススクリーニングの採血と同時に、かかとからごく少量の血液を追加採取します。
 検査は公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団で行い、検査結果は出生した医療機関を通じて通知されます。マススクリーニング検査が陽性となったすべての赤ちゃんが、病気というわけではありません。診断を確定するためには、精密検査が必要です。マススクリーニング検査が陽性となり、異常が疑われた時は、精密検査を行うために、名古屋大学医学部附属病院や藤田保健衛生大学病院等の専門機関を速やかに受診していただきます。

3)今後の展開

 重症複合免疫不全症とポンペ病の新生児マススクリーニングを全国に普及させることを目標とします。参加者が増えれば、1件あたりの検査費用を下げることが可能となります。国内での実績を積み上げ、我が国の母子保健事業による無料の公的な新生児マススクリーニングに組み込んでいただくことを目指します。
 また、発見された重症複合免疫不全症やポンぺ病の子どもの治療内容と予後の関係などの長期追跡調査データを蓄積し、新たな治療指針を確立することも目指していきます。

4)用語説明

 新生児マススクリーニング:知らずに放置するとのちに障害が出てくるような病気を生後早期に発見し、症状の出る前から治療が出来るようにするための検査です。病気の症状が出た人、すなわち患者さんを対象にして行う検査ではなく、すべての赤ちゃんが検査の対象となります。