▽研究テーマ

II) 臨床現場へのトランスレーションを目指して:

ii) プロテオミクス解析を基盤とする展開

プロテオミクス解析では、ゲノム情報の最終産物であるタンパク質を直接解析します。癌の発生・進展に関わる蛋白や、早期発見や薬剤感受性予測に有用なマーカー蛋白群の網羅的な探索・同定に大きく貢献することが期待されています。しかしながら、とくにプロテオミクス技術の臨床応用は依然として発展途上にあり、世界的に見ても臨床プロテオミクス研究の主要な成果も限られています。私たちは、蛋白発現シグネチャーに基づく肺癌診断法や、さらには早期の肺癌の外科手術後の再発・死亡の高精度な予測においてパイオニアとしての実績を有します。この成果の臨床への導入は、現行のCTなどの画像検査では検出不可能な再発の元となる微小な転移が残存する症例を高精度に同定し、強力な術後治療によって、肺癌の治癒率の向上をもたらす可能性があると期待されます。
 また、肺癌以上の難治癌の膵癌は早期診断が依然として極めて難しく、生存率はこの10年間に殆ど改善していません。私たちは血漿を用いた膵癌のプロテオミクス診断法の開発にも成功しています。外科切除で治癒を期待できるほど早期に発見される症例の割合が向上すれば、死亡率の低減が達成されるものと期待されます。今後はさらに難治癌を中心として、それぞれの患者さんに個別的な治療方針の決定に有用な情報となる、薬剤感受性や副作用の予測を可能とする蛋白発現シグネチャー同定などを通じて、革新的な診断法の開発に貢献していきたいと考えています。 もちろん、プロテオミクス技術の発展は基礎研究分野の推進に大きな成果を上げつつありますが、我々も蛋白の同位体標識技術を応用した網羅的なプロテオミクス解析をマイクロRNA研究に初めて応用するなど、多角的に進めつつあるヒトがんの発生・進展に関わる分子病態の解明を目指した研究に、我々の技術的な優位性を生かした応用を展開しつつあります。