▽研究テーマ

I) ヒト肺癌の分子病態の解明を目指して:

i) マイクロRNAの発現異常

マイクロRNA遺伝子は蛋白に翻訳されず、~22塩基の小さなRNA分子として働き、mRNAの蛋白への翻訳を抑制します。私たちは世界に先駆けてlet-7マイクロRNAがヒトの癌の発生・進展に深く関与することを発見しました。let-7マイクロRNAの異常な発現低下が肺癌に高頻度に検出されることや、それが患者の臨床病態に関連すること、さらにはマイクロRNAに癌細胞の増殖を抑制する活性があることを初めて報告しました。また、逆に肺癌で過剰発現しているマイクロRNAを探索する中で、miR-17-92マイクロRNAクラスターが時に遺伝子増幅を伴いつつ、肺小細胞癌を中心に過剰発現しており、肺癌細胞の増殖と生存に関わっていることを見出しました。これらのマイクロRNAを中心に、マイクロRNAがどのように癌の発生と進展に関わっているのかを詳細に研究しています。また、これまで部分的な解明に成功してきたマイクロRNAとmRNAが織りなす複雑で精緻な制御ネットワークに関して、システム生物学研究者らとのスーパーコンピュータを用いた密接な共同研究を通じて、その全貌解明を目指した大規模な検討を進めようとしています。
 さて、私たちが肺癌におけるlet-7の異常について研究を始めたときには、がん研究においてマイクロRNAは全く注目されていませんでしたが、世界中で研究が進み今やlet-7は代表的な癌抑制遺伝子タイプのマイクロRNAと考えられるようになりました。新しい研究分野に果敢に挑戦する私達のスタイルを、これからも大事にしていきたいと思っています。