シンポジウム / 体験記

アデレード留学体験記

名古屋大学・アデレード大学国際連携総合医学専攻 腫瘍病理学 小林大貴


2015年10月に名古屋大学・アデレード大学国際連携総合医学専攻に入学し、2017年10月から2021年3月まで3年半の間、オーストラリアのアデレード大学に留学させていただきました。SAHMRI (南オーストラリア健康医学研究所;写真の建物)にある消化器がん研究室(研究室主催者:Daniel Worthley博士、Susan Woods准教授)で研究生活を送りました。
 大腸がんの微小環境、特に「がん関連線維芽細胞」に関する研究を名古屋大学・アデレード大学で一貫して行わせていただきました。留学先の研究室と名古屋大学腫瘍病理学教室のそれぞれが注目していた2つの線維芽細胞マーカーが、異なる細胞亜郡で発現して、大腸がん進行をそれぞれ促進・抑制することを見出し、がん関連線維芽細胞の多様性を提唱する1つの論文にまとめることができました (Kobayashi et al., Gastroenterology, 2021)。また、大腸がんのがん関連線維芽細胞の起源の一端をアデレード大学と名古屋大学の共同研究で明らかにしました(Kobayashi et al., Gastroenterology, 2022)。
 ジョイントディグリープログラム(JDP)では、優れた研究環境で名古屋・アデレード大学の双方の指導教官から指導を受けることで、研究遂行能力を身につけられたと感じています。これには、両研究室の研究分野が一致しており(または重複するようにテーマ設定をしており)、両大学の指導教官がJDPに対して協力的であることが、重要であると実感しました。
 JDPの第一号の学生であったため、苦労を経験することも多かったです。一貫したプロジェクトの実験を日本と海外で行うのは難しく(特にマウスの実験)、名古屋大学腫瘍病理学の先生方には多くのご協力を頂きました。また、動物愛護の考えが浸透しているオーストラリアでは、動物倫理が大変厳しいため、動物実験の倫理申請を丁寧に行う必要があります。また、学位に対する考え方が名古屋とアデレードでは異なるため、それを理解してもらうのに時間がかかりました。名古屋大学医学系研究科の医学博士課程やJDPでは筆頭著者の論文を書くことが学位取得に必須ですが、アデレードではそれが不要です。このせいか、複数の大学院生やポスドクの研究をまとめて一つの大きな論文にすることがあります。この場合は、論文への貢献度が一番高くないと、筆頭著者として論文を出してJDPの学位を取得できないので、オーサーシップに留意する必要があるかと思います。
 JDPで学位取得後の現在は、アデレードの指導教官の繋がりで、アメリカ・コロンビア大学のTimothy Wang研究室で、ポスドクとして、大腸がんの間質の研究を引き続き行っています。JDPで築かれた人的ネットワークや研究成果があったからこそ、現在の環境で研究ができていると感じます。また、海外留学が二度目だと、大学院での海外留学の経験が生きてきて、研究面や生活面でスムーズに物事を進めやすいように思えました。
 このような貴重な留学の機会を与えてくださり留学中にご支援いただいた、名古屋大学の国際連携室の先生方・スタッフの方々、アデレード大学の方々に御礼申し上げます。また、研究指導していただいた、腫瘍病理学教室の髙橋雅英名誉教授、榎本篤教授、現 藤田医科大学 浅井直也教授、アデレード大学のWorthley博士、Woods准教授に感謝申し上げます。


SAHMRI
(南オーストラリア健康医学研究所)の外観




アデレード大学・SAHMRIの消化器がん研究室の集合写真。筆者は、上段左から二番目。
 
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