シンポジウム / 体験記

吉原雅人 体験記

吉原雅人
名古屋大学・アデレード大学国際連携総合医学専攻
産婦人科学
2016年4月に名古屋大学・アデレード大学国際連携総合医学専攻へ入学し、2018年7月初めから2019年6月末までの期間、オーストラリアのアデレード大学へ留学させて頂きました。本邦初の海外大学との合同学位という形式での大学院プログラムの課程で、大学院3年生として1年間のオーストラリア滞在となりました。オーストラリアは以前より個人的に縁のある国です。両親の新婚旅行先がオーストラリアであり、また私自身、生まれて初めての海外旅行先でもありました。当時の印象はとても鮮烈で、初めて直に見る外国人の生活、生きた英語、文化の違い、壮大な大陸の地平線、10歳の小学生ながら大きな衝撃を受けたことを記憶しています。アデレードは初めて訪れる都市ではありましたが、世界の住み良い都市として例年上位に昇る有名な地だと聞いておりました。南半球に位置するオーストラリアの中でも、更に南方に位置する南オーストラリア州の州都ですが、徒歩20分以内で都心の全てにアクセスできるコンパクトな構造を取っています。地中海性の気候に恵まれ、一年を通して雪を見ることのない温暖な地域です。勤務先はAdelaide Health and Medical Sciences Building(写真)という新しい建物で、一帯に病院を含めた研究機関が立ち並び、その近郊にアデレード大学、南オーストラリア大学が軒を列ねるさながら学園都市のような環境でした。留学生も数多く在籍し、アジア圏を中心とした多様な学生との交流を持つことができたことは、これからの人生において大きな財産となったと感じています。仕事内容は、名古屋大学でのテーマをそのまま引き継ぎ、Carmela Ricciardelli博士(写真)の指導の下、「卵巣癌の腹膜播種と微小環境」の研究を行いました。大学院修了に際しましては、名古屋大学・アデレード大学の各指導教官の先生方と練り上げた論文が無事に採択に至り、卒業論文としてのThesisを完成させる事ができました。
オーストラリアで最も興味深いものの一つが、その孤立した大陸に起因する生態の多様性です。哺乳類や爬虫類、昆虫などのおよそ90%はオーストラリア大陸でしかることのできない固有の生物種と言われており、日常生活でもその特異性を実感することができます。通学の途中で毎日通る公園(写真)では、そこに生息する多種多様の鳥類に出会うことができました。動物園でしか見たことのないような大きさの野鳥が芝生の上を悠々と歩いているかと思えば、赤、青などの原色を纏う鳥や、雄々しい黄緑色の鶏冠を持つ白い鳥の大群、毎朝決まった時間に甲高い鳴き声で夜明けを告げる鳥など、見飽きることのない多くの生き物が住んでいます。その他にも、赤い蟻や巨大なカタツムリ、巨大な松の木とマツボックリなど、その多様な生態系は世界に類を見ません。そして、この国の人間と文化にも同じように多様性が色濃く根付いています。人口構成は、歴史的背景から白色人種が8割と大多数を占める一方で、アジア系人種やアボリジニを起源とする人種など、多様な人種により成り立つ多民族国家です。そして、人種を問わず共通して、”super friendly”です。私も週に一度か二度は、全く知らない人に、声を掛けられました。最初は警戒しましたが、どうやら全く自然の行為の様で、身の上を尋ねられるので日本人であることを告げると、一層に質問をされ、そして、相手も生立ちを懇々と話し始めたことを、つい昨日の事の様に覚えております。それらを通して分かった事ですが、興味深いことにほとんどの人が、それぞれの幸福を第一に追求し、それを人生の最重要課題に掲げているのです。さらに、そのほとんどは仕事ではなく、趣味や家族に基づく活動でした。街中では、ストリートミュージシャンが見たこともない民族楽器を演奏し、またある人は政治不信のデモを行い、またある人は喫茶店で友人と語りあう。行き交う人々は皆笑顔でどことなく楽しそうでした。金曜日ともなれば、昼過ぎから街は賑わい、多くの人が街頭でビールを飲みながら談笑に耽っています。研究室でさえ16時過ぎには人はまばらとなり、土日にはほぼ誰もいません。
たった1年間の生活でしたが、こうした体験から、生物そして人間の多様性について深く考えるようになりました。多数を重んじて連帯で責任を負う日本的な価値観と相対し、オーストラリアでは少数の意見を尊重して個の行動に責任が伴います。それは、多様性から翻って個を重んじるという観念です。その違いを感じると同時に、私の中に社会の在り方に対しての先入観があることに気づきました。そして、理想論は差し置き、私にしかできない、私が進むべき道を、志を持って進もうと、改めて考えるようになりました。こうした、学業だけでなく人間としての成長の機会を、この留学を通して得ることができていると実感致しました。
最後になりますが、このような掛け替えのない留学の機会を与えて下さりました大学医局の先生方、留学に際しての多大な支援を下さりました国際連携室の先生、スタッフの方々に心より感謝申し上げます。この経験を生かし、これから本プログラムを志望し入学する多くの後輩の方々へ、同様の体験を引き継げますよう務めて参りたいと思います。

 
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