講義の概要、目的

精神疾患の特徴は、中枢神経系高次機能の障害としての生物学的特性を有する点と、個人を取り巻く心理・社会的要素が環境因子としてその病態や臨床に影響するという点にあります。したがって、生物・心理・社会という多面的なとらえ方が、精神疾患の理解においては重要です。

精神医学講義においてもこの点に留意して、精神症状の把握・評価、検査、薬物療法を中心とした身体的治療、精神療法(心理社会的治療)、精神疾患の成因論といった総論的内容と、身体により基礎付けられた精神疾患から心理的側面の強い精神疾患に至るまで、児童期から老年期の各ライフステージを踏まえて、各論的内容について理解を深めて行くことを目標とします。さらに、社会の中における精神疾患という観点から、司法的側面や研究における倫理的側面についても説明します。

到達目標

近年、医学教育における精神医学の重要性が強調されていることを裏付ける証左として、1)精神疾患の発症頻度は高いが、適切な医療的対応を受けていない患者も多く、大きな社会的損失がもたらされている、2)身体疾患患者は精神疾患を合併する頻度が高く、精神医学的介入が身体患者のQOL向上とその疾患自体の予後のために有用である、という事実が挙げられます。そこで、本精神医学講義における目標も、この二点を踏まえて、1)頻度の高い精神疾患の診断と対応、2)身体疾患と精神疾患との関係、を習得することに力点を置きます。

以下、各項目別の行動目標を掲げます。

総論

  • 精神疾患の特性について、生物・心理・社会の各側面から多面的に説明できる。
  • 精神疾患が差別や偏見の対象になり得ることも踏まえ、精神疾患に関する医学的証左を説明できる。
  • 精神疾患が、自殺等の社会的損失を引き起こし、臨床医学上いかに重要かを説明できる。
  • 精神疾患の診断基準であるDSM-5について説明できる。
  • 精神科面接の要点を理解し、診療ができる。
  • 精神療法(心理社会的治療法)と薬物療法を主とした身体療法について、適応、方法、問題点を各々説明できる。
  • 精神疾患に関する司法的側面や研究における倫理性について説明できる。

各論

  • 各精神疾患の頻度、診断、治療、経過、病態を説明できる。
  • 各々のライフステージで生じる精神疾患を説明できる。
  • リエゾン精神医学の特性とリエゾン精神医学における対応方法について説明できる。