腫瘍

卵巣がん

卵巣がん(上皮性卵巣がん)は、婦人科がんの中でも抗がん剤治療(化学療法)への感受性が比較的高く、その治療は「手術療法」と「抗がん剤治療」を二本柱として行います。また初診時の腫瘍の広がり具合(進行期)が重要で、これによって治療方針が異なってきます。当科では、化学療法科などの連携科と協力しつつ、婦人科腫瘍専門医を中心したスタッフが責任を持って治療にあたっています。がんの拡がり状況に応じて、適切な治療方針を決定し、安全に留意しながら集学的治療を実施しています。若年卵巣がんの患者樣にはご希望によって妊娠できる能力を温存する手術(妊孕性温存手術)を積極的に行っています。治療後に妊娠・分娩された患者様も多く経験しています。
また卵巣がんは他の臓器がんよりも、再発する率が高いと言われています。初回治療が終了した後も、厳重に経過観察をする必要があります。残念ながら再発を認めた場合、再発した部位はどこか、再発した病変の個数はいくつか、そして最後の治療からどのくらいたって再発したか、などにより治療方針が異なります。状況に応じて手術による摘出を行ったり、抗がん剤治療を選択したりします。
抗がん剤との併用や抗がん剤治療後の維持療法として分子標的治療薬の投与も行っています。分子標的治療薬にはベバシズマブやPARP阻害剤があります。これらは従来、婦人科領域で使用されてきた抗がん剤とは、作用機序の異なる薬剤です。抗がん剤との併用では上乗せ効果が、維持療法では再発予防効果が期待されています。これらの治療薬ついては、一部自己負担はありますが高額療養費支給の申請を行うことによって、治療費の払い戻しを受けることができます。さらに家系的に乳がん・卵巣がんの発生しやすい方(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)に対してリスク低減手術(予防的卵巣卵管切除術)も行っています。基礎疾患や合併症等がなければ、腹腔鏡下手術で行うことが可能です。2020年4月よりこの手術の一部は保険診療が可能になりました。

子宮頸がん

当院では年間100症例以上の子宮頸がんに対して世界標準治療による治療実績に加え、患者様のQOLとさらなる治療成績の向上を目指して新たな治療法の開発に努めています。

1)進行子宮頸がんに対する術前化学放射線療法

進行子宮頸がんや初期であってもサイズの大きな癌では手術によって病巣を完全に切除できない場合もあり、また、手術時の出血や術後の合併症が問題になります。当院ではこのような患者様に対して、まず化学放射線療法を行い、腫瘍の縮小、進展の抑制を行った後で広汎性子宮全摘出術を行い完全なる病巣の摘出を目指しています。2000年1月から現在までに100例をこえる症例にこの治療を行い、非常に良好な治療成績をあげています。特に子宮頸がんの中でも予後不良とされる頸部腺癌においても2期以上の症例における5年生存率は約80%と良好な成績を得ている。今後も治療成績の向上に加え、より副作用の少ない治療法の開発を目指しています。

2)子宮頸がんに対する低侵襲手術

子宮頸がんの手術療法として広汎性子宮全摘出術が標準手術として行われます。しかし膀胱の神経が子宮の近傍を走行しており、手術に際して神経が損傷を受けるため多くの患者様が排尿障害(尿意がなくなる、いきまないと尿が出ない)に悩まされます。当院では根治性を保ちながら可能な限り神経を温存する手術を行い、術後の排尿障害に対しても良好な結果を得ています。

3)子宮頸がんに対する妊孕能を温存手術―広汎子宮頸部切除術

最近は妊娠前の若い女性に子宮頸部浸潤癌が増えています。そこで我々は根治性と妊孕性をを兼備えた機能温存手術としての広汎性子宮頸部摘出術を行っています。臨床進行期Ta2(〜Tb1)期の子宮頸部浸潤癌(扁平上皮癌)で、骨盤リンパ節転移を有せず、癌の根治性と妊孕性温存の両立を強く望む症例に対して、十分なインフォームドコンセントが得られた症例に限り、腹式広汎性子宮頸部摘出術を行います。当教室での具体的な適応基準は、1)腫瘍径2cm以下の進行期1aから1b1、2)扁平上皮癌、3)画像上子宮頸部以外に病変がないこと、4)妊娠を強く望まれていることなどです。

※ 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮頸がん)

2018年4月より腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮頸がん)として保険収載されました。当院は定められた施設基準を満たしており、健康保険で行うことができます。開腹手術では臍上から恥骨部まで15〜25 cmの皮膚切開を必要とします。そのため術後にはお腹の真ん中を縦に走る傷痕ができます。腹腔鏡下手術では1〜1.5 cmの小さな切開4〜6カ所で手術を行うため、開腹手術と比べて術後の痛みが軽く、術後の回復も早く、早期の社会復帰が可能となります。また、腹腔鏡を用いることにより手術する骨盤内の深い部分もモニター画面で拡大して見ることができるため、出血が少なく精細な手術を行うことができます。しかし、子宮頸がんの大きさ(進行期)や種類(組織型)など患者様の病状や合併症を考慮して、開腹手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)、化学療法と放射線治療の併用療法などの治療方針を検討しますので、必ずしもすべての患者様に腹腔鏡下手術が適切な治療方法ではあるとは限りません。

子宮体がん

最近、顕著な増加傾向が見られ当院では年間70症例以上の子宮体癌の治療を行っています。子宮体癌は初期より不正性器出血がみられることが多く、このような症状が認められた場合は婦人科の診察を受けることが早期発見のために重要です。治療は手術が主体になります。手術は単純子宮全摘術・両側卵巣、卵管切除術・骨盤〜傍大動脈リンパ節廓清術を標準としていますが、初期の症例ではより低侵襲の手術もおこなっています。術後の追加治療の必要な症例では最近になり子宮体癌にも使用が認められた抗がん剤(パクリタキセル)を併用した化学療法を行い治療成績の改善に努めています。化学療法は患者様の希望を確認し、なるべく外来で行うようにしています。また、若年の患者さんでは病気の種類や進行期に応じて、ホルモン療法による子宮温存治療も行なっています。進行期Ta期で高分化類内膜癌や子宮内膜異型増殖症の方で、将来強く妊娠・分娩を希望される場合は子宮内膜前面掻爬を行った後に黄体ホルモン(MPA)を用いた治療を原則6カ月間行います。この場合厳重な経過観察が必要で治療しても癌細胞が消えない場合標準的な治療に切り替えます。

※ 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がん)

2014年4月より腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がん)として保険収載されました。当院は定められた施設基準を満たしており、健康保険で行うことができます。従来は早期の子宮体がんであっても開腹手術が一般的で、臍上から恥骨部まで15〜25 cmと大きく切開し、約2週間の入院が必要でした。腹腔鏡下手術では1〜1.5 cmの小さな切開4〜6カ所で済むため、開腹手術と比べて体に対する負担が軽く、入院期間も約1週間と短くなります。しかし、子宮体がんの進行期や種類(組織型)など患者様の病状や合併症によっては、開腹手術や化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療などが適切な治療方法と考えられる場合もありますので、すべての患者様に健康保険で腹腔鏡下手術が可能なわけではありません。

※ ロボット支援腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がん)

2018年4月より腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに対して内視鏡手術用支援機器を用いる場合)として保険収載されました。当院は定められた施設基準を満たしており、健康保険で行うことができます。腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術の適応がある患者様は、ロボット支援手術も可能です。
ロボット支援手術「手術支援ロボット ダヴィンチ(Intuitive Sugical社)」では、執刀医が患者様から離れた位置にあるサージョンコンソール(操縦席)で、モニターに映し出された3次元の鮮明な拡大画像を見ながら、患者様に設置した4本のロボットアームを手元のコントローラで遠隔操作し手術を行います。ロボットの動きは非常に精密で手ぶれがなく、コンピュータ制御により人間の手の繊細な動きを再現することができ、従来の腹腔鏡下手術に比べてより確実で精細な手術を行うことができます。腹腔鏡下手術と同様に切開部が小さく、傷跡や出血量も最小限に抑えられ、術後の早期回復、輸血の回避にもつながるなど長所が多いという点から、日本でも急速に普及しています。

da Vinci Surgical System(Intuitive Surgical社)

連絡先
研究課題:ダ・ヴィンチ手術システムを用いた、ロボット支援腹腔鏡下子宮全摘術の有用性と安全性の検討
研究責任者:名古屋大学医学部産婦人科・教授・梶山広明
TEL: 052-744-2261, FAX 052-744-2268

※ 腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術(子宮体がん)

開腹手術では剣状突起(みぞおち)から恥骨上縁まで約50cmの皮膚切開を必要とします。そのため術後には上腹部から下腹部までお腹の真ん中を縦に走る大きな傷跡ができます。腹腔鏡下手術では1〜2cmの小さな切開6か所程度で手術を行います。開腹手術と比べて術後の痛みが軽いため,術後の回復が早く,術後の癒着が少なくて済みます。体に対する負担が軽く、入院期間も約1週間と短くなります。上記の腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術、ロボット支援手術が適応外の患者様にも可能ですが、健康保険の適応外のため、入院中の手術費用を含む入院診療費はすべて自費で1,371,600円となります(特別室使用料、入院時食事療養費、病衣などの費用は別途かかります)。詳しくは担当医にお尋ね下さい。

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 絨毛性疾患とは妊娠時の胎盤をつくる細胞から発生する病気の総称で、大きく分けると異常妊娠の1つである胞状奇胎と胞状奇胎後に発生する腫瘍である侵入胞状奇胎(侵入奇胎)および絨毛癌の3つが含まれます。
当院では1962年に全国に先駆けて絨毛性疾患専門の登録管理センターを設置し、愛知県内の全ての病院・診療所における胞状奇胎の登録をおこない、各医療施設と連携しながら胞状奇胎後の患者様のフォローアップや胞状奇胎後に発症する侵入奇胎・絨毛癌の早期発見と治療成績の向上に努めてきました。また絨毛性疾患の全国登録の事務局として全国データの解析もおこなっています。したがって過去40年以上に渡り国内でも最大規模の絨毛性疾患症例の治療を経験してきており、経験豊富な専門医により絨毛性疾患の最先端治療をおこない、国内トップレベルの治療成績を築いてきました。県内各医療施設からの紹介患者様の治療のみでなく、私どもの治療実績を基に全国の病院から寄せられる患者様の紹介やセカンドオピニオンの依頼を広く受け入れています。
絨毛性疾患の詳しい説明、当院における治療内容・治療成績については次の項をお読みください。

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