脳とこころの研究センターについて

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2022年41日から名古屋大学脳とこころの研究センターのセンター長を拝命いたしました勝野雅央と申します。センター長就任にあたり、ご挨拶申し上げます。

本センターでは、名古屋大学から脳神経科学領域で世界をリードする研究成果を挙げることを目的として、脳とこころの研究者が集い、機能的MRIfMRI)をはじめとする脳画像・機能検査を共同活用して最先端の研究を行うとともに、共同研究や研究サポート、情報交換などを通じて研究の活性化を進めています。並行して、次世代の診断法や治療法の開発につなげるべく、研究に参加される方の各種臨床データや血液などの試料を収集・解析しています。

脳とこころを脅かす疾患の患者数増加と個人・社会への影響拡大は近年、重大な社会課題となっています。精神神経疾患の代表的疾患である認知症の日本における患者数は増加が続いており、現在600万人程度と推定されています。その背景には人口構成の高齢化が大きく影響しており、世界的に見ても多くの国で認知症患者の増加が指摘されています。認知症のみならず、加齢にともないリスクが増加するパーキンソン病などの神経変性疾患も患者数の増加が世界規模で続いています。成熟社会におけるストレスの増加などを背景としたうつ病など気分障害の増加や自閉症スペクトラム症の増加なども続いており、総じて精神神経疾患の患者数増加と障害が個人・家族・社会に与える影響が大きな問題となっています。

一方、精神神経疾患のメカニズム解明や治療法開発も進んでます。認知症についてはゲノム解析や動物モデルの解析を通じて異常タンパク質の蓄積が病気の発生に深く関与していることが明らかとなり、そうしたタンパク質の異常をPET(ポジトロン断層法)や血液検査で捉えることができるようになりました。これらの研究を通じて、認知症発症の20年以上前からタンパク質レベルの変化が始まることも分かり、治療から予防へとパラダイムシフトが起きています。その他にも、様々な精神神経疾患における神経回路やゲノム解析によるメカニズム解明、神経難病や自閉症スペクトラム症に対する治療法開発、脳腫瘍やてんかんに対する外科的治療法の革新など、全ての分野で研究が進んでいます。なかでも、これまで全く治療法がなかった神経難病のひとつである脊髄性筋萎縮症に対して根本的治療法となる核酸医薬が開発され、発症前に治療することで劇的な効果がみられるようになったことは、時代を象徴する革新的成果と言えます。

とはいえ、精神神経疾患の中には十分な治療法が見出されていない疾患も多く残されています。自閉スペクトラム症、てんかん、統合失調症、うつ病、パーキンソン病、認知症など、精神神経疾患は時間をかけて発生・進行するものが多く、健康な状態から前触れ期を経て症状が出現する全体の過程を明らかにする必要があります。そのためには、ゲノム・タンパク質の解析による分子メカニズム解明と並行して、多数の健常な方と疾患をお持ちの方および疾患のリスクを有する方を長期間にわたり評価し、脳機能画像や血液をはじめとする多くのデータ・試料を取得し、大規模データ解析することが必要です。以上を踏まえ、名古屋大学脳とこころの研究センターは、以下のミッションを実現すべく運営されています。

1)学際的アプローチ(共同利用・共同研究)を可能とするプラットフォームの構築

2)大規模な発達・加齢・疾患脳画像・オミックス(ゲノム、血漿、iPS細胞等を含む)コホートデータの構築と活用

3)マクロ(人脳画像・脳組織等を対象)からミクロレベル(モデル動物・細胞・組織を対象)に至る最先端神経回路
可視化技術の創出と応用

4)AI等を駆使した大規模データの解析

5)発達・加齢・疾患に関連する分子・神経回路病態の探索

6)研究実践の中で次世代を担う人材の育成

本センターは、時代とともに変化する社会的ニーズに対応し、精神神経疾患とその障害の克服に向けた研究成果の創出を目指していきます。今後とも皆様のご支援とご参画をお願い申し上げます。