生体肝移植ドナー


生体肝移植に依存する日本の肝移植

肝移植には、臓器を提供するひとが必要です。「脳死提供者から臓器提供を受ける脳死肝移植」と「健常人の肝臓の一部の提供からの生体部分肝移植」が、肝移植の臓器提供者からみた分類になります。
日本国内の肝移植は、長く脳死そのものがタブー視されていたこともあり、1989年の島根医科大学による小児生体肝移植が最初となっています。その後、1990年から京都大学の田中紘一教授が中心となり、国内の生体肝移植症例数が飛躍的に増加しました。しかし一方で、脳死肝移植は1997年にようやく脳死臓器移植法案が施行され、1999年に国内初の脳死肝移植が信州大学で施行されました。2009年の脳死臓器移植法案が改正され(家族の同意で臓器提供が可能)、ようやく症例数が増加し、累積の脳死肝移植件数数は405例(平成29年6月現在)となっています。
ただ、下図をみて分かるとおり、日本の肝移植は脳死肝移植(赤)と比較して、生体肝移植(青)に大きく依存しています。



日本の肝移植件数
青: 生体肝移植
赤: 脳死肝移植

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生体肝移植ドナーについて

身内に末期肝疾患の患者がいて肝移植が唯一の治療法といわれ、肝移植治療を選択する際に、生体肝移植と脳死肝移植のどちらかを選ぶことになります。レシピエント(移植患者)とドナー(臓器提供者)など、様々な要素で移植可能か、いつ行うべきかなどが検討されます。
ただ、生体ドナーとなるためには、いろいろな条件を満たす必要があります。
  • 倫理的条件………近い身内(原則、配偶者と3親等以内の血族)であること。自らの自由意思の善意の臓器提供で、病気の患者を救いたいと申し出ていること。
  • 年齢条件…………成人で65歳以下。ただし61〜65歳の生体ドナー候補者に関しては、追加検査を実施し、より慎重に医学的評価を行う。
  • 医学的な条件……原則、健康であること。ウィルス性肝炎などの血液を介してうつる感染症がないこと。解剖学的に手術可能なこと。極端な体格差(極めて小柄な生体ドナーから大柄なレシピエント)は、困難な場合あり。




準備の流れ

レシピエント(移植患者)の病状にもよりますが、ドナーとレシピエントの準備の流れは、患者さんへのページを参考にして下さい。





生体ドナー候補者の適応評価のための検査

生体肝移植ドナーとなるために、倫理的条件、年齢条件、医学的条件が満たされなければなりません。
まず、ご本人からの検査希望の申し出があれば、移植コーディネーターが検査の予約などの調整にはいります。



一次検査
血液検査、検尿検査、心電図検査、肺機能検査、胸腹部レントゲン検査、腹部超音波検査


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二次検査
単純、造影CT検査


*61〜65歳(または必要に応じて)の生体肝移植ドナー候補者に関しては、
①悪性疾患の除外目的で、上・下部内視鏡検査、男性でPSA測定、女性で乳腺・子宮精査
②心機能の評価目的で、心エコー検査
③脳血管障害の除外目的で、頭部MRI検査
を追加実施し、医学的評価を行う。


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三次検査
精神科受診、HLA検査、MRCP検査
脂肪肝など肝臓に関する精査が必要と判断した場合には、肝生検を行う場合があります。





肝臓の解剖、大きさの評価

肝移植手術は、肝臓につながっている4つの構造物(肝動脈、門脈、肝静脈、胆管)を、新しい肝臓(グラフト肝)と相対するもの同士をつなぎ合わせる(吻合する)手術です。脈管走行などの解剖が、このような手術に向かない場合は、医学的にドナーになれないと判断されます。
また、グラフト肝(移植する肝臓)の大きさは、移植成績に極めて重要であることが分かっています。二次検査の造影CT検査から、生体ドナーのどの部分の肝臓であればグラフト肝の大きさとして適当かという判断を行います。臓器提供後に生体ドナーに十分な肝臓が残ることの確認も、安全な生体ドナー手術に重要な項目です。
肝臓の脈管走行の解剖から、使用できるグラフト肝の部位は、限られています。


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肝臓の解剖からグラフト肝として使用できる主な部位
生体肝移植用いられる一般的なグラフト肝臓の種類は、小さいものから下記の通りです。
  1. モノセグメントグラフト
  2. 外側区域グラフト
  3. 拡大外側区域グラフト
  4. 左葉グラフト
  5. 右葉グラフト



小児患者への移植の場合

外側区域グラフト〜左葉グラフト
乳幼児から年長児までの多くが、外側区域グラフトから左葉グラフトを用いた生体肝移植で可能です。予測されるグラフト肝重量とレシピエントの体格(体重)によって、生体肝移植に用いるグラフト肝の部位を決定します。

生体ドナーとして、特殊な解剖をしていないことや脂肪肝がないことなどが調べられます。


小児生体肝移植のためのドナー手術

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外側区域グラフト採取


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グラフト肝を小児へ移植する

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生体ドナーの残肝は再生する



モノセグメントグラフト
新生児や成長障害などでレシピエントの体重が5kg未満となると、生体ドナーの外側区域でも大きすぎる可能性があります。その場合には、モノセグメントグラフトが選択されます。
ただ、生体ドナーから摘出される肝臓は、外側区域でその一部(モノセグメントグラフト)を移植臓器として使うことになります。
ドナー肝のかたちや大きさ、レシピエントの体格などによって、外側区域の内側(左図)を使用したり、背側(右図、赤色部分)を使用したりします。


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成人患者への移植の場合

左葉グラフト、右葉グラフト
成人から成人への生体肝移植におけるグラフト選択で問題になるのは、十分な大きさのグラフト肝が提供されるかということです。肝臓全体の30-40%に相当する左葉、または、60-70%に相当する右葉が用いられます。
ドナーのCT検査から計算される予測肝重量を基に、レシピエントの体格(体重)を加味して、グラフト選択を行います。
生体ドナーに十分な大きさの肝臓が残ることも、安全なドナー手術に必須条件となります。ドナー残肝は再生し、肝機能が回復します。
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右葉グラフト

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大きな肝臓を必要とするレシピエントに移植する

左葉グラフト

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やや小さい肝臓で十分な場合にレシピエントに移植する




手術手技について

ドナー手術は、おおよそ5~8時間程度かかります。
グラフト肝には再建すべき4つの構造物(肝動脈、門脈、肝静脈、胆管)を温存しながら、肝臓の実質を切離していきます。血流の豊富な臓器ですので、丁寧な止血操作が必要です。脈管以外のすべての切離が終了すれば、グラフト肝の摘出を行い、残肝(ドナー側)の各々の脈管を閉鎖します。
合併症の頻度の高い胆管の切離にはより慎重に対応し、術中胆道造影検査を繰り返し行いながら、手術を進めていきます。
通常の予測される出血量が、数十〜数百グラム程度とですので、原則的には輸血は行いません(大きな手術ですので、輸血に関する同意書は頂いています)。
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術後経過について

特に合併症もなく、順調な場合の経過は、以下のようになります。


術翌日(1日目)
離床
2-3日目
水分開始、食事開始。硬膜外チューブ(背中から入っている痛み止めのチューブ)抜去。尿道カテーテル抜去。
7日目
創の抜鉤
10-14日目
肝機能の改善で退院
1ヶ月目
初回外来
2-3ヶ月目
自宅安静から、社会復帰へ。




合併症について

ほとんどの生体ドナーの方は、上記の術後経過となりますが、一部の生体ドナーの方で手術に伴う合併症が、発生することがあります。そのようなトラブルが発生しないことを目指して治療を行っていますが、決して発生率 0%とはなっていません。


A. 全身麻酔・開腹手術によるおもな合併症:
  1. 無気肺・肺炎:術後1日目から離床できる健常人では発生しにくい合併症ですが、喫煙者のドナーは術前に禁煙していただいています。
  2. ストレス潰瘍:ストレスで胃十二指腸潰瘍を発症することがあるので、術後しばらく胃薬の内服があります。
  3. 末梢神経麻痺:術中の体位や圧迫で上肢/下肢にしびれがのこることがあり、手術中に注意しています。
  4. 嗄声(半回神経麻痺/かすれ声):全身麻酔の挿管により声帯を動かす神経麻痺が起こることがあります。
  5. 創感染:手術創に細菌感染が生じることや感染が無くても皮下脂肪が融解する事があります。
  6. 腹壁瘢痕ヘルニア:閉腹した腹壁の筋肉だけが開いてしまうことがあり、腸管などがその隙間から突出してくることがあります。
  7. 肺塞栓症(エコノミークラス症候群):手術・術後の長時間の臥床で下肢静脈に血栓ができ、剥がれた血栓が血流に乗って心臓から肺の太い血管につまり、肺塞栓症を発症することがあります。発生すると重篤なため、術中、術後の予防策が必要です。
  8. 腸閉塞:手術操作に伴い腸管癒着がおこり、ひどい癒着の場合は腸閉塞が生じることがありますが、まれです。
B. 肝切除手術に伴う合併症:
  1. 肝機能障害:肝切除に伴い肝臓の肝機能の数値(GOT, GPT)は一時的に上昇しますが、予定されている範囲の肝切除では数日後から改善傾向となります。一部のドナーでは黄疸が一時的にみられることもあります。
  2. 出血・血栓:肝切離面や縫合閉鎖した血管から術後に出血する可能性はありますが、その経験はほとんどありません。また、縫合した血管付近で狭窄などで血栓がおこる可能性もありますが、その経験もほとんどありません。
  3. 胃軸捻転:特に左葉系のグラフト提供のあとは、肝切離面と胃が向き合っているため、胃が肝切離面と癒着することにによる食物の胃排泄障害がみられることがあります。程度はさまざまで、重症だと一時的に嘔吐や、食物を十分に摂取できないといった症状がみられるドナーがいます。
  4. 胆汁瘻:術後肝切離面や縫合閉鎖した胆管断端から、胆汁が漏れることが5%程度の頻度であります。抗生剤の追加投与やたまった胆汁を術後抜き取る処置が必要になる場合があります。


C. 生体ドナーの死亡報告:
  1. 国内報告:これまで、国内で約6,000例の生体肝移植が実施されていますが、2003年に生体ドナーがお一人亡くなられています。脂肪肝炎(NASH)という肝臓の病気をもっておられたことが、その原因の一部ですが、術前のドナー評価の重要性がその後より高まりました。
  2. 海外報告:世界中で生体肝移植が施行されていますが、2006年の報告で13人の生体ドナー死亡例が報告されています。その頻度は、0.15%としています。