基礎医学セミナー
1.基礎医学セミナーで何を学ぶのか?
研究が実地臨床と最も異なるのは、まだ誰も答えを知らない未踏の問題に真剣に取り組むという点である。
本セミナーは、基礎医学の講義を一通り終了した医学生が、いい意味で通常の講義から逸脱し、第一線の基礎医学の研究現場を実践的に学ぶ場として、1991年度に開設された。諸君の中には、これまでの2年余りの講義において膨大な情報の洪水に呑み込まれてしまい、頭の中が整理できないまま途方にくれている人はいないだろうか?解剖学・組織学に始まり、CBTから医師国家試験へと果てしなく続く暗記中心の学習の中で、「自分は、医師としてどのような生きがいを持って生きていくのだろうか?」という極めて根元的な問題が、「とりあえず試験をとおればよい」の繰り返しで、ずっと棚上げになってはいないだろう
か?医学知識を広く習得するという机上の作業だけでは、「知識」を得ることはできてもそれを十分に活用するための「知恵」を磨くことことはできないことに、きみたちは気付いているのか?膨大な医学知識がどのように確立されてきたのか、そしてこの瞬間も確立されつつあるのか、その仕組みを実践的にからだで理解することにより、諸君が将来、「勇気ある知識人」として新たな医学知識を生み出せるよう、その基盤を築くことが本セミナーの最大の目的である。
諸君は、将来の専門とすべき医学・医療を通じて、重大な社会的使命"noblesse oblige"を果たす責務を持って学んでいる。諸君自身に多大な国民の税金が投入されていることを忘れてはならない。各教科の定期試験・CBT・国家試験などを乗り越えるのは当然であるが、既存の知識を利用し行使するだけの医師になるのではなく、これまでの知識に(例えばピラミッドにたとえると)新たな1つの石を積み上げる、そういう医師になってほしい。そして、東海地域にとどまらず、日本全体や世界の医学・医療の発展を牽引する原動力となるような人材に成長してほしいと心から願うものである。
基礎医学セミナーは、通常の講義だけでは満足できない積極的な勉学意欲を持った諸君の先輩の悲願を元に開設された由緒ある講義である。この名古屋大学医学部が誇るセミナーは、これまで絶大な支持をうけ、同様の試みが全国の大学に広がっている。本セミナーはそれまでの成果が評価され、1995年度より期間が大幅に延長され従来の7週間から5ヶ月となった。この延長も、諸君の先輩の体験から生まれた提案に基づいて実現したものである。
期間中、諸君に通常講義は全くなく、研究活動に専念することとなる。諸君は、諸君の希望と講座の募集要項に基づき、基礎系あるいは社会医学系の講座・部門(一部は東山、愛知県がんセンター研究所、自然科学研究機構生理学研究所)に配属される。基礎医学の講座で、自らに与えられた研究テーマをまずよく理解し、実験をすすめる作業のなかで、科学的・論理的な思考方法を学ぶと共に、第一線の研究者の生身の姿に触れる機会を得る。この体験を通じて、医学・医療の発展を今後支えていく諸君の精神的な"礎いしずえ"を築いてもらいたい。基礎医学と臨床医学は連続性をもって発展しており、基礎医学における発見から臨床応用に至るまでの時間はますます短縮されつつある。ポストゲノム・精密医療・データサイエンスのうねりの中で、ダイナミックに変貌しつつある医学・生物学の現場に関わることで、自分が将来専門とする道のヒントをつかみ、早期に「プロフェッショナル魂」を確立してほしいと切望する次第である。
各自の所属研究室を決定するに当たっては、興味のある研究室を見学するなど、十分に下調べをして、7自分の学問的興味と適性に合致した研究室を選択するように、最大限の努力をすることが望まれる。何事においても成功をおさめるためには周到な準備が必要である。各研究室の科学的興味や解析手法は極めて異なることに留意されたい。セミナー期間中の具体的な計画については、あらかじめ担当教官と十分に話し合うこと。基礎医学セミナー終了時には、学生が主体となり準備をし、学会形式の成果発表会を行う。
なお、2024年度より柴原海外支援プログラムにより、条件を満たす学生2名まで(1名あたり最大300万円)が海外で本講義として研究生活を送ることが可能となった。その詳細は募集要項を参照していただきたいが、本プログラムの支援を受けるためには入学直後よりの準備が必要となることに留意されたい。
諸君の基礎医学セミナーが充実したものになるよう祈念する!
2.到達目標
基礎医学セミナーは必修科目である。講義や実習に準じて、原則、週5日間、8時50分から16時10分は、各講座において研究活動に自主的かつ積極的に参加することが求められる。ただし、実験や解析によっては、多少早く終わることもあれば、反対に遅くなることもあろう。また、週末の時間を使わざるをえないこともあるかもしれない。その判断や調整は各担当教官に委任する。時間の使い方に関しては柔軟な対処が望まれるが、正規の授業時間内にアルバイトやクラブ活動をするなど勉学以外の活動をおこなってはならない。
基礎医学セミナーの成果は報告集にまとめられると同時に、期間終了後に行われる公開の発表会(口頭発表とポスター発表)において公表する事が全員に義務づけられている(通常、3月上旬~中旬)。諸君の成果は、教員と学生からなる審査委員より評価をうけ、優秀な成果を挙げた学生の選出が行われる。優秀学生には、海外の学会への参加や大学・研究所の見学、国内の学会への派遣が可能となる奨励金が賦与され、見聞を広めてさらに研究を発展させることが推奨される。残念ながら表彰の対象にならなかった学生も、これを機に研究にさらに親しみ、継続されるよう期待する。最初の研究テーマは教官から与えられるものなので、必ずしもうまくいくとは限らないことに留意すること。具体的な達成目標は以下のとおりである。
- 教科書には載っていない医学の最新知識のウェブ検索法を理解しており、実行できる。
- 自らの研究テーマにおいて、何がわかっており、何がわかっていないのかを理解している。
- 自らの研究テーマに沿った基本的な実験方法・解析手法を理解し、実施できる。
- データの解釈には統計手法が重要であることを理解し、その基本手技を実施できる。
- 実験においては再現性が重要であることを理解している。
- 実験や調査で得られたデータに関して、担当教官と議論できる。
- 新しい医学知識を社会に公表する正式な方法について理解している。
- 研究者がどのような客観指標で評価されるのか、理解している。
- どのような研究が高く評価されるのかを理解している。
- 医学生物学研究において遵守すべき一般原則と禁止事項を理解している。
- 科学論文の一般的な構成を理解しており、英文論文を読むことができる。
- 自ら得たデータに関してパワーポイントで資料を作成し、提示・発表できる。
- 配属研究室に外国人がいるときには、その研究者と英語で簡単なコミュニケーションをとることができる。
- 基礎研究と臨床研究のちがいならびにその関連性を理解している。
- 研究活動は基本的に国民の税金で成り立っていることを理解している。
3.成績評価
セミナーの評価は、担当講座・部門で行う。定められたセミナー期間中に履修ができなかったと担当教官が判断した場合、再履修が必要となる。2015年度より出席カードを配布し、教官が合否を決める際の参考としている。
- セミナー報告集原稿の作成
- セミナー期間中の成果を作成要項にしたがった報告書にまとめ、学務係へ提出する。
- 成果の発表会
セミナーの成果をお互いに分かち合い、さまざまな教員との意見交換の場として、更にセミナーの発展を図るため、セミナー終了後、学生の自主的な運営による発表会を開催する。全ての学生について、口頭かポスターでの発表と発表会への出席が義務づけられており、それが卒業に必須な条件である。優秀な成果を挙げた学生には、海外での学会参加・発表に関する援助、あるいは海外の研究所・大学への短期訪問・留学等(海外での実施内容は1件ずつ審議された後に許可されるので注意)に対する援助費が贈られる(最大30万円、在学中のみ使用可能)。
※ 参考事項 平成19年度より、若手研究者の養成を目的とする大学院の新コース(MD・PhDコース)が発足した。その入学のためには、基礎医学セミナーにおける実績の評価が前提となると共に、指導教授の推薦が必要とされている。
4.教科書・参考書
セミナー担当講座・部門より指定がある。具体的には、各講座・部門のセミナー募集要項を参照すること。
5.総括責任者および担当講座・部門
総括責任者:深田 正紀 教授(神経情報薬理学)
担当講座・部門:基礎医学系、社会医学系の各講座、薬剤部(医療薬学)、神経疾患・腫瘍分子医学研究センター各部門、名古屋大学環境医学研究所各部門、名古屋大学総合保健体育科学センター、愛知県がんセンター研究所、自然科学研究機構生理学研究所
6.セミナー日程
3年生を対象として、後期をセミナー期間とする。
基礎医学セミナーのガイダンスを10月1日に実施する。
7.セミナー内容
以下の手続きを経て、配属講座・部門、テーマの決定を行う。
- 担当講座・部門に対するセミナー内容の調査
募集要項作成の為、上記担当講座・部門に対し、研究の現状、セミナー課題、内容受け入れ可能学生数等について、アンケート調査する。 - 基礎医学セミナー募集要項の作成
アンケートに基づいてセミナー募集要項を作成し、配布する。 - 講座・部門への学生訪問セミナー募集要項内容を参照しながら、学生は講座・部門を訪問し、教員と意見交換する。
- 配属先講座・部門の決定
講座・部門と学生の話し合いを基に、学生間の話し合いによって学生の配属先を決定する。配属される学生は、担当講座・部門あたり3~4名を原則とする。但し、東山地区は原則2名、愛知県がんセンター研究所、自然科学研究機構生理学研究所は1~3名とする。最終的な調整は、基礎医学セミナー実施委員会が行う。 - 研究実施内容
講座・部門の担当教官の指示に従うこと。

