名古屋大学大学院医学系研究科 細胞情報医学専攻 頭頸部・感覚器外科学講座 耳鼻咽喉科学 / 認知言語医学

現在行っている特記すべき臨床的検査・治療

MRI、3次元FLAIR(フレア)による内耳画像検査

近年、画像診断の進歩により 以前には分からなかった難聴やめまいの原因がわかるようになってきました。なかでも、磁石の力を用いて撮影するMRIにより、当初、突発性難聴だと思われた方に、聴神経腫瘍のほか、内耳炎、内耳出血、内耳奇形、脳梗塞などが分かることがあります。このような病気を早期に診断することにより適切な治療を早期にうけることができます。名古屋大学では3次元FLAIRという特殊なMRIを撮影することにより、一般のMRIでは分からないような小さな出血など、内耳の異常を見つけることができます。

人工内耳埋込術を安全に行うために - 仮想内視鏡および実内視鏡の応用 -

高度感音難聴者では補聴器の有用性に限界があり、人工内耳が有効な手段になってきています。現在では全国で年間約400人程度の方が人工内耳埋込術を受けられており、その術式も標準化されて安全に行われています。しかし、既往の耳疾患や個人の解剖学的特徴から電極挿入が難しい場合もあります。手術では蝸牛に穴を開けて電極を挿入しますが、顕微鏡下では十分な視野を確認できないこともあります。私たちは、人工内耳埋込術をより安全に行うために、内耳障害の把握も含めて術前にMRIを利用した画像評価-仮想内視鏡-と、極細の蝸牛内視鏡ファイバースコープを作成し実際の蝸牛を観察・評価-実内視鏡-を応用しています。

人工内耳手術時における蝸牛血流量の測定

人工内耳手術は、補聴器でもお話ができなくなった方を対象に行います。人工内耳手術後、会話ができるようになるには、リハビリが必要ですが、術後、会話が上手にできる人とそうでない人の差はどこにあるか大きな問題です。名大では、倫理委員会の許可のもと、人工内耳手術に際して内耳の血流状態がどの程度あるかレーザードップラー法を用いて調べてきました。この血流測定に必要な時間は、10分以内で副作用はまったく認められていません。

突発性難聴に対する鼓室内デキサメサゾン注入療法

突発性難聴は突然の難聴をきたす病気で現在のところ原因は不明です。病気がおこってから1ヶ月から2ヶ月の間で症状は固定しますので早期の治療が重要となります。治療としては、まず突発性難聴の誘因となるような過度のストレス、睡眠不足、不規則な生活習慣を正し、治療に専念できるようにするとともに、薬物の治療をおこないます。薬物はステロイドを中心としてさまざまな薬物を併用することが一般的です。当科では通常の薬物治療で十分な難聴の改善が見られなかった場合、鼓膜経由に鼓室(中耳腔)にステロイドの一種であるデキサメサゾン注入を行っています(ENTONI 2005、JOHNS 2006)。

原因不明の感音難聴に対する臍の緒を使用した先天性サイトメガロウイルス感染の診断

先天性感染を起こすウイルスの中でもサイトメガロウイルスは高頻度にみられます。多くの場合は何ら症状を起こさないのですが、一部の例で精神運動発達障害や難聴を起こすことが知られています。しかし、生まれたときは明らかな症状がなくても遅れて難聴が発症することもあり、出生時に診断がつかないことも多いのです。小児期に発症する原因不明の感音難聴のうち2〜3割がサイトメガロウイルスによるものではないかとも言われています。名大耳鼻科ではそれぞれのご家庭で保存されている臍の緒のほんの一部を使ってPCRという方法でその中にサイトメガロウイルスのDNAが存在しているかを調べます。もし臍の緒の中にサイトメガロウイルスが見つかれば、それが難聴の原因である可能性が非常に強いといえます。また、突発性難聴といった病気がこのウイルスと関係しているかについても検討しております。今のところ、この難聴を治療する方法はありませんが、難聴の原因究明と今後の治療法の発展につながると考えています。

メニエール病、遅発性内リンパ水腫に対する鼓室内ゲンタマイシン注入療法

メニエール病や遅発性内リンパ水腫は、めまいを繰り返す病気です。このめまいを抑えるため、ストレスに対する治療や薬物治療などが行われています。しかし、そのような治療を行ってもなお、めまいが止まらない方がみえます。そのような場合、ゲンタマイシンを鼓膜の向こう側に注入する方法があります。ゲンタマイシンは、内耳に毒になりますが、興奮しやすくなっている内耳を静めるための治療で、「毒をもって毒を制す」治療法です。名大耳鼻科で行われた35症例の長期成績を最近報告しました(Equilibrium Res 2005年)。この治療の成績は、長期的にみても、かなり満足できる成績です。

機能温存を目指した頭頸部癌の治療

喉頭癌・中咽頭癌、下咽頭癌などに対しては化学療法による振り分けをおこない、効果不良例にのみ手術を行います。その場合も腫瘍進展範囲によって喉頭半切、亜全摘術を積極的に行い、可能な限りの喉頭温存を図っており、やむを得ず喉頭全摘せざるをえない場合も、TEシャント造設術によりすこしでも質の高い音声の獲得を目指しています。ほとんどの喉頭癌で音声を温存あるいは再建し、会話できる状態で治療が行われています。喉頭・気管、反回神経に浸潤した甲状腺癌の治療も積極的に行っています。可能な限りの喉頭機能温存、喉頭機能再建をおこないつつ根治性を高めた術式を選択します。口腔癌や中咽頭癌に対しては嚥下機能、構音機能を最大限に温存しつつ切除・再建を行っています。言語聴覚士との連携によりその効果が上がってきました。頭頸部癌治療後の嚥下障害の対策については臨床に直結した研究を推進しています。(2005-2006 厚生労働省がん研究助成金:喉頭機能を温存した頭頸部がんの標準的治療法の確立に関する研究) 2005年1年間で悪性腫瘍122例が登録され、悪性腫瘍手術は114例(新規切除例88例)行われました。遊離組織移植は29例、頭蓋底手術は17例でした。

ナビゲーション手術

ナビゲーションは手術支援機器の一種で、手術中、操作を行っている部位を手術前に撮影した画像(CT)でモニター上に確認することができます。車のナビゲーションと似たものです。鼻やその周囲にある副鼻腔(ふくびくう)は解剖学的に複雑な構造を有し個人差も多く、また近接する重要な器官・臓器(眼、脳へ行く動脈、脳)があり、危険な操作となる場合もあります。そのため当科では、安全性を高めるため、冨木医療器のEvans-E™光学式ナビゲーションシステムを複雑な手術:重症副鼻腔炎例、再手術例、嚢胞(のうほう)性疾患、特殊な耳手術に使用しています。

閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群における低侵襲手術治療

成人の閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)においては、まず第一にCPAP治療をすすめ、その治療に脱落した方に対し、扁桃肥大のあるものは両側口蓋扁桃摘出術、鼻閉があり、点鼻薬など保存的治療にも改善しないものは鼻手術(鼻中隔彎曲矯正術、下鼻甲介切除術など)を行っています。OSAHSの原因が一つではなく多くの要因が重なっていることから一つの原因だけをとりのぞくのでなく、各個人にあった総合的な治療を計画しています。また、小児においても扁桃摘出術・アデノイド切除術を中心により安全で効果のある治療をめざしています。