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胸腺上皮性腫瘍について

胸腺の悪性腫瘍(胸腺腫、胸腺癌、胸腺カルチノイド)とは

胸腺は、縦隔と呼ばれる部位にあり、実際には身体のほぼ中央で胸骨の後ろ、心臓の前面にある小さな臓器です。あまりなじみのない臓器ですが胎児から幼児にかけては身体の免疫をつかさどる重要な働きをもっています。しかし、成人になるとその機能を終えて退化します。胸腺腫と胸腺癌、胸腺カルチノイドは、この退化した胸腺の細胞から発生する腫瘍です。

胸腺  

胸腺腫と胸腺癌・胸腺カルチノイドはやや性質が異なりますが、ともに悪性の腫瘍として扱われています。胸腺腫は、腫瘍細胞が増殖するスピードが比較的ゆっくりとしています。一方で、胸腺癌・胸腺カルチノイドは、腫瘍細胞の増殖のスピードが速く、別の部位に転移しやすいといった性質があります。

胸腺腫・胸腺癌・胸腺カルチノイドは30歳以上(とくに40~70歳)に発症します。男女差はありません。胸腺腫は人口10万人あたり0.44~0.68人が罹患すると言われており、まれな疾患です。胸腺癌・胸腺カルチノイドはさらにまれと言われています。

1.胸腺腫

胸腺腫は結合組織の被膜でおおわれ、比較的ゆっくりと増殖し、転移もおこりにくいのですが、進行すると皮膜を破り周囲組織に浸潤します。さらに周囲の肺、心臓、大血管へ浸潤したり、播腫といって胸腔へ種をまくように拡がっていったりします。胸腺腫の進行の程度により以下に示すように病期分類がなされています。

胸腺腫の病期分類(正岡の分類)

Ⅰ 期 腫瘍が完全に被膜でおおわれているもの。
Ⅱ 期 腫瘍が被膜を破って周囲の脂肪組織へ浸潤するもの、或いは被膜へ浸潤するもの。
Ⅲ 期 腫瘍が隣接臓器へ浸潤するもの。
Ⅳ 期 腫瘍が肋膜や心膜に腫瘍が種をまくように拡がっているもの(播腫)、或いはリンパ節転移や、他臓器への血行性転移があるもの。

胸腺腫の症状

胸腺腫は、周囲の組織に直接影響を与えるほど大きくならない限りは無症状です。腫瘍が大きくなると、咳、胸痛、呼吸困難などの症状が出ます。また血液の流れを止めるような部位に腫瘍が発生した際は、顔面や首に、うっ血や浮腫(むくみ)などの症状があらわれます。

また、胸腺腫の患者さんは、免疫系などに関連したほかの病気を持っている場合があり(重症筋無力症、低ガンマグロブリン血症、赤芽球ろう、多発筋炎、網膜症など)、これらの症状から病気が見つかることもしばしばあります。

胸腺腫の治療

他のがんと同じように、病気の広がり(病期)に応じて治療をします。早期(I・Ⅱ期)の場合は手術治療を行い、進行期(Ⅲ・Ⅳ期)の場合は抗癌剤治療や放射線治療と手術を組み合わせた集学的治療を行うことが多いです。ただし、肺癌のように、患者さんの数が多くないので、研究が十分にされていません。そのため、治療法が確立しておらず、多くの施設が、それぞれの経験を加味して治療法を決定しています。当院では以前より進行期の患者様に対して手術と化学療法(CAMP療法)を組み合わせた治療を行っており、本邦ではトップレベルの治療経験があります。

胸腺腫の手術を行った場合の病期(術前の病期)ごとの5年生存率(5年後に生存している確率)は以下のごとくです。

Ⅰ 期100%、Ⅱ 期98.4%、Ⅲ 期88.7%、Ⅳ a期70.6%、Ⅳ b期52.8%
(2003年の本邦:Kondoらにおける多施設・大規模検討より引用)

★重症筋無力症とは

重症筋無力症は神経筋伝達物質であるアセチルコリンの受容体に対する自己抗体が作られることにより発症する自己免疫疾患です。厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。症状はまぶたが落ちてくる、ものが二重に見える、飲み込みにくい、むせやすい、持ったものを落す、立てない、歩けない、息がしにくいなど侵される筋肉によって様々な症状があります。診断には経験豊富な脳神経内科医の診断が必要です。本疾患の治療法のひとつに胸腺摘出術があります。胸腺腫の合併、60歳以下で全身症状を伴う、症状は軽度であるが抗アセチルコリン抗体陽性などはよい手術適応となります。胸腺周囲脂肪組織も含めて広範に胸腺を摘除する拡大胸腺摘出術が現在の標準術式となっています。胸腺摘出術の効果は術後3か月~1年以上をかけて徐々に出てきます。

近年当院において、より低侵襲で、美容面を配慮したロボット支援下拡大胸腺摘出術を行っています。重症筋無力症の治療効果を十分得るためには胸腺周囲組織も含めた拡大胸腺摘出が必要で、当院では両側アプローチを採用しています。従来の胸骨正中切開に比べて、美容上のメリットだけでなく術後のクリーゼの発症もなく、呼吸管理などの点でも優れていると考えています。

2.胸腺癌・胸腺カルチノイド

胸腺癌は明らかに胸腺腫よりも悪性度が高く、進行も急速です。胸腺カルチノイドは以前胸腺癌の一部に分類されていましたが2015年の分類から別の分類である神経内分泌腫瘍に分類されるようになりました。どちらも早期発見、早期切除が治療の原則になりますが、前縦隔腫瘍自体が自覚症状の出にくい腫瘍ですので、進行期で発見されることが多くなります。症状は胸腺腫と同様に腫瘍が大きくなると咳、胸痛、呼吸困難、顔面や首のうっ血や浮腫(むくみ)などが生じることがあります。

治療は胸腺腫と同様に早期の場合は手術治療を行い、進行期の場合には化学療法や放射線療法を手術と組み合わせた治療が行われますが、発生頻度が低く、確実な治療方針が確立していない現状です。

胸腺癌の手術を行った場合の病期(術前の病期)ごとの5年生存率(5年後に生存している確率)は以下のごとくです。

胸腺癌:Ⅰ-Ⅱ 期:88.2%, Ⅲ 期:51.7%, Ⅳ 期37.6%
(2003年の本邦:Kondoらにおける多施設・大規模検討より引用)