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  ご挨拶 〜トキシコゲノミクス研究室へようこそ〜


 トキシコゲノミクス研究室という名前は、聞き慣れないことと思います。名古屋大学大学院医学系研究科は、平成25年度より「総合医学専 攻」という単一専攻に組織改革を行い、これに伴って基礎医学と臨床医学の領域に、新たに「統合医薬学領域」が加わり、三領域体制になりました。この統合医 薬学領域は創薬を主たるkey wordとして研究と教育を充実させ、優れた人材の輩出と研究成果を期待されています。こうした背景から、「トキシコゲノミクス」研究室、和訳をしますと 「毒性遺伝子学」、という名称の『医薬品の安全性科学』を専門とする研究室が新たにスタートしました。  
 日常的に処方される薬による症状改善の程度は個人によって著しく異なり、疾病によっては半分以上の患者様に薬効が認められない場合もめずらしくありませ ん。全体の約10%のヒトに何らかの副作用が発現しているという米国FDA(Food and Drug Administration)の統計もあります。1992年の米国の統計では、薬に起因する死亡が死因の4番目であると報告され、薬の副作用による社会 的損失は膨大なものであり、その頃から、薬の安全性を確保する研究の必要性が強く認識されるようになりました。薬の副作用や毒性において、その予測や回避 が難しい場合において、そのほとんどのケースは、薬の薬理や薬効に全く関係なく発現します。副作用の発現を説明するには、薬が全身でどのように移動し、解 毒されるか、また薬の構造変換と毒性の関わりを理解する必要があります。すなわち、「薬物動態」分野の研究領域になります。
 近年の薬物動態分野の研究の顕著な発展に伴って、創薬段階における臨床試験での開発中止が、薬物動態に起因するケースは、1991年、2000年、 2011年で、40%、9%、1%へと激減してきています。しかし、副作用・毒性発現に起因する開発中止のケースは、13%、20%、19%と高水準のま まであり、とりわけ、市販後に予期せぬ副作用の発現によって撤退・発売停止のケースも含めて、その原因は薬物性肝障害の発症が最も多いことが知られていま す。よって、厚生労働省のみならず、FDAやEUにおいても、予測が難しい薬物性肝障害の解明研究が特別推進課題と位置づけられています。 
  近年、医薬品の安全性を確保するための、薬物動態及び薬物代謝の研究には、ゲノムのみならず、メッセンジャーRNA、蛋白質、マイクロRNAの広汎な 理解に加え、リン酸化や脱アセチル化等の因子や食事や生活のストレスの影響等の理解も必要であることが明らかにされつつあり、極めて幅広い研究が必要に なっています。こうした背景から、横井毅は金沢大学大学院薬学系の教授として16年間、薬物代謝と毒性の研究を行ってきました。その経験をさらに発展さ せ、「トキシコゲノミクス」研究室では、薬による副作用の研究を中心に、主に薬物性肝障害の基礎および臨床研究を充実させて行きたいと考えています。特に 免疫学的因子と、極めて初期に応答するマイクロRNAを考慮した、肝障害発症機序の包括的理解と、その予測試験系の構築を目指します。さらに、安全性に関 わる基礎的研究のみならず、臨床での様々な薬に関連する問題を解決する研究課題を設定し、薬を通して直接臨床に資する研究を目指したいと考えています。加 えて、他機関との共同研究、臨床共同研究のみならず、製薬会社、CRO、規制当局も集う、情報交換と情報発信の場の形成を目指し、その為には、研究内容の 重要性や社会性を広く発信し、多くの研究員や学生がインタラクションする研究環境を創設したいと考えています。
教授 横井 毅