妊孕性温存療法について

1) 卵巣機能障害が危惧される治療前の受精卵および未受精卵凍結
近年の集学的治療の進歩によって、多くの患者さんががんや免疫疾患などの病気を乗り越えることができるようになってきています。これにより、病状が良くなり、治療後に妊娠、出産することが望めるようになってきました。しかし、若年患者さんに対する化学療法や放射線治療では卵巣が障害を受け、必ず不妊になるわけではありませんが、妊娠できる力を無くしてしまう場合が多くあります。化学療法による細胞障害は再生能力の高い骨髄や消化管粘膜においては機能回復が見込めますが、卵巣においてはその障害が永続的となり、その結果生じた無月経や無排卵症などの卵巣機能不全は化学療法誘発性閉経と呼ばれ、その発症頻度は20〜100%です。放射線治療も同様に、一定の照射量を超えると卵巣機能に永続的な障害を引き起こします。また、乳がんの補助ホルモン治療中や、免疫疾患で化学療法が必要になるような増悪期には、妊娠を回避せざるを得ず、その間の加齢による卵巣機能低下により妊孕性が維持できない場合もあります。そのため、このような卵巣機能の低下を招く治療を行う前に卵巣機能を保全するという概念が現在世界的に広がっています。
当院では臨床研究として、原疾患の治療前に排卵誘発剤を使用し採卵を行い、原疾患に対する一連の治療が終わった後、凍結卵または凍結受精卵を融解し、受精卵を子宮内に移植する治療を行っています。

2) 妊孕性温存を目的とした卵巣組織凍結ならびに自家移植
上記1)で述べた卵子凍結法は、凍結時の浸透圧変化による物理的影響を受けやすく、出産率が受精卵凍結より低くなります。また、卵子凍結法は、排卵誘発を行った後、採卵を行うために原疾患の治療が遅れる場合がある、1回の採卵で採取できる卵が5-10個程度と少ないといった問題点があります。そこで近年、若年女性がん患者さんにおいて化学療法や放射線治療前に卵巣を体外に取り出し、その影響を回避する方法が検討されています。卵巣には数千にも及ぶ卵子を含むため凍結・融解・自家移植による悪影響を考慮しても得られる卵細胞の数から妊娠率は上記の方法と比べて高いことが期待されています。2004年にヒトでは初めて卵巣組織凍結後、自家移植により生児を得たことが報告され、治療を克服した若年女性がん患者に対する卵巣組織凍結の臨床応用が成功しました。全世界で推定1,300名以上の卵巣組織凍結が行われ、自家移植後40名以上の出産例が報告されています。しかし、後に述べるように、未確立の医療でもあり、必ず将来妊娠できると保証するものではありません。また、摘出した卵巣組織の一部を用いて未熟な卵胞を体外で培養し、成熟卵子を得ようとする研究が各方面で行われています。体外培養によって成熟卵子を得ることができれば、患者さんへ排卵誘発剤を投与する必要がないため、卵巣過剰刺激症候群などの心配がなくなります。また、卵子または受精卵だけを母体に戻すことができ、がん患者さんの場合にはがん細胞が移植されることがなく、再発のリスクを回避できます。数万個という単位で存在する原始卵胞を活用できるようになるということは、妊孕性温存療法において、大きなメリットになると考えられます。確実に成熟卵子を得る方法は確立されていませんが、今後確立し、普及していく技術と考えられます。この研究は、当院倫理委員会の承認を受け、臨床研究として実施しています。

愛知県不妊専門相談センター

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