診療案内

手術実績

肝門部胆管癌の治療実績

 消化器癌の中で最も手術が難しいとされる肝門部胆管癌の治療成績です。2011年12月までに626例の肝門部胆管癌を切除しました図1)。この手術数は本邦では圧倒的に多い切除数であり、世界でも第一位です。我々の施設は最も積極的に切除を行っていますので、他の大学病院やがんセンターなど多くの病院から“その施設では切除不能”とされた症例の紹介が沢山あります。そういった進行癌のおおよそ3/4は切除できますが、残念ながら残り約1/4は非切除(切除できないということ)となります。非切除の理由は、遠隔転移(肝臓、腹膜、遠いリンパ節への転移)がある、局所(癌の周り)が進行しすぎている、肝機能が不良で肝切除に耐えられない、全身状態が不良で手術に耐えられないなどです。腫瘍の進行程度に応じた必要な手術を考え、それを行った場合の安全性を評価し、はじめて手術が計画されます。次に開腹(手術でお腹を開けること)した時点でもう一度遠隔転移や局所の状態をチェックしてから切除を最終決定します。遠隔転移があると通常は非切除としますが、転移が遠隔リンパ節のみで、肝機能が良く、予定された手術のriskがそれほど高くなければ積極的に手術を行っています。切除により、遠隔転移があっても5年以上の長期生存する症例も何例か経験しています。
 手術は肝切除+胆管切除+リンパ節郭清を基本とします
図2)。
我々は97%の方に肝切除を行い、その大半に大きな肝切除を選択しています。そのうち200例以上の症例に高度な手技が必要となる門脈合併切除再建術を併施しました。さらに高難度な手技である肝動脈の合併切除再建も約90例の症例に行ってきました。また、胆管の下流(十二指腸側)まで癌浸潤がある場合は、肝切除に加え膵頭十二指腸切除を併せて行っています。この肝切除+膵頭十二指腸切除(HPDと言います)も中・下部胆管癌と併せると100例以上の症例に行なってきました。こういった超高難度の拡大手術は他施設ではほとんど行われていませんが、我々の施設では近年ますますその施行率が増加しています。肝門部胆管癌の手術にかかる時間は8~10時間です図3)。時には15時間以上もかかることもあります。このように手術時間が長い理由は、1)残る肝臓側への血流を確実に温存するために慎重な操作がいる、2)胆管をできるだけ多く切除するために細やかな剥離がいる、3)細い胆管を腸につなぐ際に時間を要する、などが主な理由です。術中の出血量は概ね1500から2000mL(2001年以降)です。これはリンパ節郭清や胆管切除のために漏れ出るリンパ液を含むために多くなります。近年では高難度手術の割合が多くなっているにもかかわらず、手術時間や出血量は減少してきています。これは積み重ねた経験のためです。出血量が多いからといって輸血を多用するわけではありません。現在は可能な限り自己血(多くは800ml)を貯めておき手術の際に用います(これを自己血貯血といいます)。これにより他人からの輸血を要する頻度は約1/3です。
 肝門部胆管癌の手術で最も恐ろしい合併症の一つが肝不全です
図4)。肝不全とは肝切除で残った肝臓の量が少ない、または機能が低下しているような場合に生じ、黄疸や腹水という形で現れます。手術後の短期の死因の原因です。われわれは、肝不全を予防するために経皮経肝門脈枝塞栓術(切除する方の肝臓の門脈を特殊な薬で詰めて、残る肝臓を手術前に大きくする方法)を1990年から臨床応用してきました。現在、その経験数は500例以上で、これも世界第一の症例数となっています。これらの努力により2001年代以降の術後肝不全の頻度は激減しています。肝不全が減少するとともに、在院死亡(手術後退院できずに死亡すること)も減少してきました。在院死亡率は現在約1%と非常に低い値ですが、0ではありません。これを0に近づけるべく安全面への配慮を更に努力したいと考えています。
 さて手術で癌が取れた人は切除標本の詳細な評価ができます。切除した臓器の断端の状態は、癌が取りきれたか否かということを判定するうえで極めて重要です。残念ながら明らかな癌の取り残し(肉眼的癌遺残)となる場合、或いは肉眼的には取りきれていると判断したが手術後に行う顕微鏡検査で取り残しがあると判断される場合(組織的癌遺残)が少ないながらあります。癌遺残(癌の取り残し)は残る肝臓側の胆管の切り端や、残る肝臓にいく血管(これは残さなければいけません)周囲に生じます。癌遺残の状況、さらにはリンパ節転移などが切除後の生存率に強い影響を与えます。癌の遺残やリンパ節転移があった場合には、原則として術後に放射線治療や抗がん剤治療を行うようにしています。
 われわれのところで治療を受けた方々の生存曲線を示します
図5)。当然のことながら、遠隔転移が無くかつ癌の遺残が無く完全に取りきれている場合(これを治癒切除といいます)の5年生存率は44%と比較的良好ですが、癌の遺残や遠隔転移があると徐々に生存率が落ちていきます。また治癒切除の中でもリンパ節転移の有無により予後は明らかに異なります図6)。リンパ節転移のない場合の5年生存率は59%、ある場合は19%となります。リンパ節転移の有無を手術前に予見することは現在の画像診断でも困難で、手術の際に採取したリンパ節の顕微鏡検査でしかわかりません。
 われわれは時代時代において安全かつ最大の手術をするように努力してきました。特に手術後の安全な管理法に苦心し、多くの手法を開発しました。この結果、近年は肝動脈合併切除再建や肝膵同時切除などの超高難度手術を満足すべき安全性で行うことができるようになりました。進行例にも拡大手術で臨むことができるようになった結果、2001年以降の生存率は劇的に改善し全体では約40%の5年生存率となりました
図7)。治癒切除例に限れば50%となります図8)。
今後も切除による生存率向上への寄与を目指すべく努力していきます。一方で、手術に限界があることも厳粛に受け止めています。治癒切除とならなかった場合、または治癒切除でもリンパ節転移がある場合には抗がん剤を使用することで予後向上が期待できます。ただし、いまだ明確な根拠がありません。現在、胆管癌の術後の補助化学療法の有用性を当施設が中心となり、日本中の大学病院、癌センター、基幹病院など計57施設と共同して検討している最中です。

 このホームページでは、ごく簡単に我々の成績を紹介しました。その詳細は数多くの一流英文誌(Annals of Surgery, British Journal of Surgeryなど)に掲載されています。ホームページの中の研究業績を参照してください。