泌尿器科の病気について
過活動膀胱

治療法

A.行動療法

行動療法は低侵襲で副作用もなく他治療との併用もできます。

1) 生活指導

過剰な水分摂取やカフェイン摂取の抑制によって、頻尿・切迫性尿失禁の改善が期待できます。また、早めにトイレに行く、外出時にトイレの位置を確認しておく、などのトイレ習慣の変更により、切迫性尿失禁を防止しやすくなります。高齢者では、トイレ環境の整備や着衣の工夫など、日常生活で工夫できることもあります。

2) 膀胱訓練

膀胱訓練は少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を増加させる訓練法です。具体的な方法としては、排尿計画を立て、短時間から始めて徐々に15~60分単位で排尿間隔を延長し、最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。

3)骨盤底筋訓練(体操)

腹筋に力が入らないように膣や肛門を締めるようにする方法です。特に女性において有用と言われています。腹圧性尿失禁に対して広く行われる治療ですが、過活動膀胱にも有効です。詳しい訓練の方法は、名大泌尿器科外来でご指導することができます。

女性尿失禁 p8、平成12年、名古屋大学泌尿器科・愛知県衛生部より転載

B. 薬物療法

1) 抗コリン薬

膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感も改善する薬剤です。口渇や便秘といった副作用がしばしば見られます。また閉塞隅角緑内症の方には使用できません。ポラキス®、バップフォー®、デトルシトール®、ベシケア®、ウリトス®、ステーブラ®、トビエース®、ネオキシ®テープ(貼付剤)など。

2) β3受容体作動薬

蓄尿時の膀胱の拡張を促進する薬剤で、尿意切迫感も改善します。口渇や便秘の頻度が低いと言われています。現在、本薬剤としてはベタニス®が保険承認されていますが、平成31年には新規薬剤も保険承認・発売される見込みです。

3) その他(フラボキサート、漢方薬など)

過活動膀胱の適応はありませんが、上記の標準的治療薬が使えない時などに処方されることがあります。

C. 他の治療オプション

上記の治療を行っても改善が得られない場合(難治性過活動膀胱)に、行われることがあります。

1)電気刺激治療・磁気刺激治療

電気刺激療法(干渉低周波療法)や磁気刺激療法は、電気や磁力により骨盤底の筋肉や神経を刺激するもので、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する有効性が示されています。いずれの治療も保健適応が認められています(尿失禁の項目参照)。

2)ボツリヌス毒素の膀胱壁注入治療

薬物治療で改善が得られない過活動膀胱(切迫性尿失禁)に対して、欧米では行われています。尿道から内視鏡を挿入し、膀胱内から膀胱壁にボツリヌス毒素を注入する治療です。膀胱壁に注入されたボツリヌス毒素は膀胱の勝手な収縮を抑えて切迫性尿失禁を改善します。ボツリヌス毒素は、本邦では顔面神経麻痺の治療などに使用されています。現在製薬メーカーが治験を実施しており、よい成績が得られ、安全性が示されれば本邦でも保険適応となる可能性があります。

3)仙骨刺激治療

欧米では従来行われている治療法ですが、本邦では平成29年9月に健康保険適用となった新しい治療法で、薬剤治療により改善が得られない過活動膀胱による切迫性尿失禁が適応となります。仙骨孔(臀部)から針金状の電極を差し込んで膀胱を収縮させる神経の傍に置きます。そして、臀部の皮下に心臓のペースメーカーのような電気刺激装置を埋め込んで、埋め込んだ電極を常に刺激します。これにより、膀胱の神経が常に刺激され、過活動膀胱を抑制して尿失禁を改善します。名大泌尿器科でも、本治療を行っています(尿失禁の項目参照)。