<研究課題 概要>

研究課題: アドレナリン自己注射器使用症例の集積調査

研究の趣旨:

 アナフィラキシーへの対応が社会的に大きな課題となっています。その中でも、アドレナリン自己注射器(エピペン©)の適正使用、特に教職員や救急救命士といった保護者以外の専門職による使用のありかた、あるいは積極的な使用の奨励が求められています。しかし、アドレナリン自己注射器は処方量に比して実際に使用される件数が少なく、まして教職員や救急救命士が使用した事例は全国的にもごく限られています。
 アドレナリン自己注射器の処方に際して、使用するタイミングの指導は極めて重要です。現時点では、アナフィラキシーの病態や医療機関におけるアドレナリン筋肉注射の適応判断などを前提として、使用の目安が指導されています。しかし、医療関係者以外が実際に使用した状況を解析することによって、より実際に即した適応基準を確立し、社会的にも説得力のある情報発信や、今後のガイドライン作成においても重要な情報を提供できるものと考えられます。

 2009年までは、厚生労働省の指導の下にアドレナリン自己注射器使用例の登録が行われていましたが、これは主として安全性の評価を目的としたものでした。現在はこの登録事業が終了しており、より臨床現場の視点から使用症例を集積することは貴重な情報となるものと思われます。

研究の経過 (2017年4月現在):

本研究は、2016年3月末をもって情報収集を終了しました。現在、本研究の最終報告については、論文投稿中です。ご協力、ありがとうございました。

結果の概要:

【背景】小児の食物アレルギー及びアナフィラキシー有病率は増加しており、アナフィラキシー対応が社会的な問題となっている。アドレナリン自己注射器(adrenaline auto-injector,以下AAI,エピペン®)の使用率は処方数の1%程度とされ、多数の使用症例を解析した報告は少ない。そこで、日本小児アレルギー学会アナフィラキシー対応ワーキンググループでは、アドレナリン自己注射器を使用した症例を全国から集積する調査を行った。愛知県四大学共同研究WGでは、この調査に協力して広く関連病院に症例の登録を呼びかけた。
【方法】2014年3月1日から2016年3月31日までに「アドレナリン自己注射器使用症例の登録書式」に従い集積した266例を解析した。そのうち、愛知県からの登録数は84例であった。
【結果】臨床病型は即時型234件、運動誘発型アナフィラキシー19件。主な原因抗原は牛乳102件(38%)、小麦48件(18%)、鶏卵43件(16%)、ピーナッツ11件(4%)。誤食の原因は、免疫療法を含む計画的摂取46件(17%)、本人の誤食19件(7%)、表示の見落とし17件(6%)。使用場所は自宅139件(52%)、学校・園61件(23%)。使用者は母親157件(58%)、園・学校関係者39件(15%)、本人32件(12%)。病院到着後に再度アドレナリン筋注を要した事例は21件。学校・園で発症した事例67件中39件(58%)で、園・学校関係者が使用していた。
【考察】登録された事例の中では、AAIは適正に使用されていた。園・学校関係者がAAIを使用することも、かなり定着してきたことが推察された。AAIの効果は確実に認められるが、病院到着後に追加治療を要することも多く、使用後には必ず病院への緊急受診が必要と考えられた。

連絡先:

研究代表者
あいち小児保健医療総合センター アレルギー科
伊藤浩明
〒474-8710
TEL: 0562-43-0500
FAX: 0562-43-0513
Email: secretary@cd5.so-net.ne.jp(@を半角@に変えて送信してください)