新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2019年2月8日(金)

訪問者:京都大学 高村理沙

【研修報告】9th Asian Biological Inorganic Chemistry Conference
(1)研修報告
平成31年1月20日から2月3日までの2週間、フランスのボルドー大学で開催されたアルツハイマー病 (AD) 研究に関する最新の手技を学ぶコース、Laboratory training course on Advanced Methods for Preclinical Alzheimer Researchに参加しました。欧州連合のHorizon2020, マリーキュリー・アクションという組織の援助で運営されるSynaptic Dysfunction in Alzheimer’s Disease (SyDAD) というコミュニティでは、博士学生を中心に若手研究者に対して、定期的に教育プログラムが実施されています。今回も、AD研究に興味のある若手研究者22人が世界中から集まり、研究手技を中心に勉強に励みました。プログラムは主に、著名な人によるLecture、手技を学ぶExperiment、Poster Sessionの3部で構成されています。

“Lecture”に関してはJohn HardyやBart de Strooperを始めとするAD界では大御所の面々が連なり、AD研究の歴史から最近の研究まで熱い講義が行われ、非常に実り多い時間でした。午前中のLecture後にランチも講演者と共に過ごせるプログラムが組まれており、気さくな話もできて大変有意義でした。
“Experiment”に関しては、毎週9つずつのプロジェクトの候補が与えられ、事前に希望を申請して決定されます。その中で私はAAV-Tauを脳内投与したマウスにおけるミクログリアと細胞活動の二光子イメージング、Organotypic hippocampal sliceを用いた細胞活動とミトコンドリアのイメージングを行いました。二光子イメージングに関しては自らの研究で使っている器具や試薬との比較ができた他、AAVも組み合わせた方法も学べました。Organotypic hippocampal sliceに関しては初めてのEx vivoでの実験で、生後6日のマウスから海馬を単離培養し、マウスの生体を離れたあとも活動する細胞の様子を色々な薬剤と組み合わせて観察しました。
“Poster Session”は軽い立食形式で行われ、お互いを知るための交流を兼ねた発表の場が与えられました。Experimentで選んだ二光子イメージングのプロジェクトは皆が興味を持っていたようで、ポスター発表でも手技を中心に多くの質問を受けました。さらに、二光子顕微鏡で血管のイメージングを行っている人とも情報交換ができ、手技の発展の可能性を感じました。
全体を通して、過去の参加者が今回の実験のインストラクターを行うなど、長年続けていくための運営体制が整っているなと感じました。さらに、日本は遠い国だが一度は行ってみたいといった印象を皆が持っているようだったので、日本の研究を伝える意味でも、日本でも海外からAD研究関連の若手研究者を集め、このような勉強会を開催出来たら有意義であろうなと思いました。

参加者のうち、日本人2人、留学中の中国人2人以外はほぼヨーロッパの人々で、1週目はリスニングに必死で自らの言葉を伝えるのも困難でした。しかし、めげずに積極的に会話へ参加する姿勢を見せ続け、2週間経ったあとでは会話を楽しむ余裕も生まれて多くの友達を作ることができました。また、ボルドーと言えばワインが有名なので、休日にはワイン美術館やワインバーにも訪れ、ワインの豆知識も増えました。この2週間、国際交流から勉強まで非常に濃密で、大変貴重な時間を過ごすことができました。このような機会を与えて下さったこと、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

(2)新学術領域研究への貢献
私たちのグループはADモデルマウスの海馬錐体細胞を長期観察することで、細胞の機能的活動が段階的に破綻していく様子を明らかにしてきました。今回の発表では、本研究の意義を世界中の若手研究者に広めることができただけでなく、研究手技を中心に勉強できたおかげで、研究を今後どのように発展させていくかについても考えることができました。今回の経験を活かし、本領域研究に貢献していきたいと思います。

京都大学医学研究科・高次脳科学講座神経生理学分野
早稲田大学大学院先進理工学研究科・生命医科学専攻
高村 理沙