新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2018年12月26日(水)

訪問者:慶應義塾大学 古川良明

【研修報告】9th Asian Biological Inorganic Chemistry Conference
(1)研修報告
平成30年12月9日から13日までシンガポールで開催された第9回アジア生物無機化学カンファレンス(AsBIC9)に参加しました。シンガポールはほぼ赤道直下に位置する常夏の国ですが、空調のよく効いた地下鉄・バスが縦横無尽に整備されており、快適に移動することができます。マーライオンやマリーナベイ・サンズの他にこれといった観光名所はないものの、英語・マレー語・中国語・タミル語が飛び交う国際色豊かな街中を歩くだけでも、アジアのダイナミズムを感じることができ、訪れる価値は十分にあります。
  隔年で催されるAsBICの第1回主催国が日本であったことを見てもわかるように、日本は生物無機化学分野においてアジア・世界をリードしてきました。しかし近年は中国やインドの台頭もめざましく、350名ほどの参加者のうち最も多くを占めるのが中国からの学生・研究者でした。私の研究室からは、私がALSにおけるSOD1の役割という内容で招待講演(下記)を行うとともに、4名の学生がポスター発表を行いました(SOD1の酸化的ミスフォールディング・線虫を利用したSOD1オリゴマーの毒性評価・大腸菌におけるSOD1活性の役割・銅シャペロンタンパク質間の相互作用)。学生・ポスドクのポスター発表賞・講演賞が10件ありましたが、日本からの参加者は残念ながらほとんど選ばれておらず、日本のプレゼンスを示す必要をあらためて感じる機会となりました。
  生物無機化学は、金属イオンを結合して機能する「金属タンパク質」に関する研究、および、金属錯体の生理・薬理活性を解明・評価する研究などが主なトピックスになります。神経変性疾患の病理解明に際しても、鉄・銅・マンガンといった金属イオンの代謝異常が報告されていることから、生物無機化学は非常に重要な分野です。AsBIC9においても、金属イオンが疾患関連タンパク質(Aβなど)をミスフォールドさせる引き金となるメカニズムの提案や、金属錯体を利用したアルツハイマー病の治療薬開発などの発表がありました。

(2)新学術領域研究への貢献
私は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病因タンパク質である変異型Cu/Zn-superoxide dismutase(SOD1)に関する研究発表を行いました。SOD1はCu/Znを結合して生理機能を発揮する金属タンパク質ですが、ALSの病変部位である運動ニューロンでは、病初期より変異型SOD1は金属イオンを欠乏したアポ型として存在し、時間経過とともにオリゴマー化することで運動ニューロンの変性が進行するメカニズムを提案しました。さらに、SOD1遺伝子に変異が認められない孤発性ALSにおいても、野生型SOD1は金属イオン欠乏状態にあり、毒性の発揮に関与していることを見出しました。今後は、野生型SOD1のタンパク質老化が孤発性ALSにもたらす病理学的役割について検討を行う計画です。最後になりましたが、今回の学会参加・発表に際して、本支援をいただいたことに深謝します。

慶應義塾大学
理工学部
古川 良明