新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2018年12月26日(水)

訪問者:名古屋大学 中村亮一

【研修報告】29th International Symposium on ALS/MND
(1)研修報告
2018年12月7日から9日までの3日間スコットランドのグラスゴーで開催された29th International Symposium on ALS/MNDに参加して参りました。本学会は、ALSを専門的に議論する場としては最も大きな規模の学会になります。今年度は世界各国から1200名以上が参加しました。3日間を通して、疾患モデル、遺伝子、バイオマーカー探索などから、認知機能の変化、臨床試験、多職種によるマネジメント、緩和ケアなど幅広いテーマで活発に議論が行われていました。
私は「Validation of genetic factors affecting survival in Japanese ALS patients」という演題名でポスター発表を行いました。これまでに欧米では大規模コホートによるゲノムワイド関連解析により、生存期間に影響する遺伝子座が3ヶ所ほど同定されています。日本におけるALSの多施設共同前向きコホートで収集したALS患者臨床情報とDNAを解析し、これまでに同定された遺伝子座が必ずしも日本人ALSでは再現されないことを報告しました。このことは生存期間に影響する遺伝子が人種により異なる可能性を示唆しており、日本人で生存期間に影響する遺伝子を探索していく必要性を強く感じました。ポスターに興味をもってくれた研究者の方々から多くの質問と貴重な意見をいただき、有意義な時間を過ごすことができました。
また、Satellite Meetingで行われたアジアオセアニア地域の国際共同研究であるPACTALSの会議にも参加し、アジア人でも国際共同研究によりALSの遺伝的背景や自然経過を解析していく必要性があると感じました。現在、我々はALS患者のDNA検体を次世代シークエンサーなどを用いて、ALS疾患関連遺伝子の探索を行っています。学会に参加し、世界的にも次世代シークエンサーを用いた全エクソン解析、全ゲノム解析によるALS疾患関連遺伝子探索を国際共同プロジェクトなどで推進していることがわかりました。海外の研究者と解析手法などに関して活発な討論を行い情報交換することができ、大変意義深いものとなりました。平成30年度の新学術・短期海外派遣プログラムに活動支援頂きましたことに改めて感謝申し上げます。

(2)新学術領域研究への貢献
ALS患者の約50%に認知機能障害や遂行機能障害といった高次脳機能障害を認め、さらに15%は前頭側頭型認知症(FTD)の診断基準を満たすとされています。また、TDP-43がALS、FTLD双方において主要な疾患関連蛋白であることがわかり、両疾患は共通の分子病態、病理基盤を持ち、連続した疾患スペクトラム上にあります。ALSの進行に関連する遺伝子はTDP-43病理の広がりを規定する遺伝子である可能性があり、脳蛋白質老化の仕組みを解明する手がかりになる可能性があると考えています。

名古屋大学
脳神経内科
中村 亮一