新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2018年11月26日(月)

訪問者:名古屋大学 遠藤邦幸

【研修報告】Neuroscience2018(Society for Neuroscience年次学術集会)

《研修報告》
この度、新学術領域研究「若手研究者の研究成果発表のための短期海外派遣」により、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ市で開催された国際会議 Neuroscience 2018(Society for Neuroscience年次集会)に参加しました。神経科学を専門とする研究者が参加した国際色豊かな学会で、今回は世界73カ国から28,691人が参加したとのことでした。学会ではNanosymposiumという口頭発表が多数あるほか、連日午前午後と張り替えを経ながら非常に多くのポスター発表がなされていました。
 私は「Silencing of FUS in the non-human primate caudate via stereotaxic injection induces disruption of caudate fiber tracts」と題したポスター発表を行いました。このポスター発表では、まずマーモセットのFUSを制御するAAVの開発について提示し、続いてマーモセットの尾状核でFUSをノックダウンさせた後ところ、尾状核との入出力線維群の短縮が9.4T MRIを用いて観察できたことなどを報告しました。これは、ヒトの前頭側頭葉変性症(FTLD)の初期でみられる変化と一致しており、尾状核でのFUSタンパク質の機能喪失がFTLD発症に関与する可能性が示唆されました。
 この発表では、疾患モデル動物に関心がある研究者や、マーモセットでタンパク質の機能喪失を研究している研究員、製薬会社研究員など様々な研究背景をもつ方々などから複数の質問を受け、この研究の有用性や今後の展開について議論をすることができました。
 また、発表時間のほかは、多くのNanosymposiumで最先端の研究成果を聴講し、積極的にポスター発表の議論に参加し、することができました。さらに、企業展示ブースでは最新の研究機材の説明を受けることができ、今後の研究に役立つ情報を入手することができました。さらに、日本国内外の研究者と交流をもつ機会にも恵まれ、新しい人脈を形成することができました。
 今回の国際学会への発表は、研究をさらに前進させる一助となりました。学会発表に対してご支援をいただいたこと、改めて感謝申し上げます。 

(2)新学術領域研究への貢献
前頭側頭葉変性症(FTLD)は、認知症性神経変性疾患の1つですが、アルツハイマー病やレヴィ小体型認知症と比較してより若年で発症しやすく、初期から行動異常を呈するため社会的に問題になりやすい疾患です。しかし、病態はまだ十分に明らかになっておらず、根治療法は存在していません。FUSタンパクはRNA結合タンパクで、細胞核内でmRNAと結合してmRNAの安定化に寄与すると考えられています。本研究では、尾状核にてFUSの発現を抑制させることによりFTLDでみられる病理学的な異常に類似した所見が生じることを示しました。このことから、FUSタンパクの機能異常がFTLDの発症病態に関わっている可能性が示唆されました。脳タンパク質老化が認知症を引き起こす1例として国際発表を行いました。

名古屋大学
神経内科
遠藤 邦幸