新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2018年5月1日(火)

訪問者:首都大学東京 岡 未来子

【研修報告】The 59th Annual Drosophila Research Conference

《研修報告》
平成30年4月11日~15日に米国ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催されたThe 59th Annual Drosophila Research Conference(ADRC)に参加させていただきました。ADRCは、米国遺伝学会が主催する伝統ある学会であり、世界中から1500人以上の研究者が集まりました。神経科学、加齢や神経変性疾患に関してショウジョウバエをモデルシステムとして用いた最新の研究が発表されました。11日には、Opening sessionとして、アワード受賞者の講演があり、ハエを用いて疾患研究に貢献した研究を聞くことができました。その日の夜には、レセプションが用意されており、以前お世話になった研究者との再会や新しく知りあった研究者と話すことができ、良い学会初日を迎えることができました。12日からは、ポスターセッションとトークセッションが始まり、ハエの疾患モデル(ALS/PD/AD/FTD)を用いた研究が非常に多く発表されていました。ハエ疾患モデルは、分子メカニズムを検討する上で、非常にスピーディーで強力なツールであることを改めて実感させられました。また加齢に関するセッションも多くありました。
私は今回、14日の午前にあった”Physiology, Metabolism and Aging”というトークセッションで” Increasing glucose uptake prevents age-dependent reductions in local ATP levels in neurons and suppresses declines in locomotor functions in Drosophila”というタイトルで口頭発表を行い、神経細胞内へのグルコース取り込みの増加が、加齢に伴う脳神経細胞内のATP減少を抑制し、加齢性神経機能低下を緩和できると報告し討論させていただきました。質問もたくさんいただき、今後の研究を進めるアイデアを収穫できた良い発表の場となりました。これまでSfNやASCBなど大きな国際学会しか参加したことがありませんでした。今回のような中規模の学会では、一対一で議論できる時間が長く、深い討論を交わすことができ、さらに研究者ネットワークも広げられ、非常に充実した時間を過ごすことができました。このような貴重な機会を与えてくださいました新学術領域派遣プログラムに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

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(2)新学術領域研究への貢献
我々のグループではこれまで、ATP産生を担う細胞内小器官ミトコンドリアの局所的な異常が疾患関連分子タウタンパク質の毒性を増加させることを明らかにしてきました。今回は、ショウジョウバエ脳神経細胞内の細胞体で加齢に伴いATPが減少すること、ミトコンドリアの品質低下、解糖系酵素の発現減少およびグルコーストランスポーター(Glut)の発現減少と相関していること、また加齢依存的なATP減少はGlut強制発現によって抑制することができ、加齢性神経機能低下も緩和することができることを発表いたしました。これらの結果は、なぜ加齢によって神経細胞がタウなどの老化たんぱく質に対して脆弱性を獲得するのかについての共通メカニズムを明らかにできる可能性があり、当該領域“脳タンパク質老化と認知症”の目的に貢献できると考えております。

首都大学東京
理学研究科生命科学専攻
岡 未来子