新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

ホーム > INFORMATION > 国際活動支援報告 > 研究者の研究成果発表のための短期海外派遣 > 訪問者:京都大学 梶 誠兒

国際活動支援報告

2018年5月1日(火)

訪問者:京都大学 梶 誠兒

【研修報告】2018 American Academy of Neurology annual meeting

《研修報告》
ロサンゼルスにて開催されたAmerican Academy of Neurology(AAN)のAnnual meeting 2018に参加しました。新学術・短期海外派遣として活動支援頂きましたことに感謝申し上げます。私は4/26に”Movement Disorders: Parkinson Disorders, Basic Sciences, and Imaging”のセッションにて口頭発表を行いました。当学会は臨床神経全般演題採択されにくい学会ということもあって、集まった内容はポスター・口頭発表に関わらず大変興味深いものが多かった印象を受けました。
当科では3年前よりオリゴデンドロサイト初代培養系を用いた多系統萎縮症(MSA)の研究が本格的に始動するに至りました。その成果としてこれまで神経変性疾患の病態において注目を浴びてこなかったオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)がMSAの病態進行に関わっている可能性を報告することが出来ました(Kaji S, Maki T, Takahashi R, et al. Stem Cell Reports. 2018 )。
今回の主な目的の一つは、OPCとMSAという新しい観点から得られた知見に関して、どのような印象や疑問を与えるのかといった具体的なフィードバックを得ることでした。実際に質疑応答では数多くの質問を頂くことが出来、「OPCとオリゴデンドロサイトの内因性α-シヌクレイン発現量やオートファジー機能の違い」、「OPCの成人脳での分布・機能」などといった内容も含まれていました。発表した私自身の印象では、OPCが病態に関与するか否かに関する各研究者の見解を得るには依然として既報が少なく、より詳細な病理学的検討が待たれているように感じました。慣れない口頭発表に関しても反省点が多く、スライドや説明の更なるシンプル化や発音・発声方法・スピードなどについて更に改善の余地があると感じました。
他の研究チームの発表も興味深いものが多く、特にDrosophilaのMSAモデルの発表に関しては今後の学術誌報告が楽しみに感じるようなデータも見受けました。このような刺激的な学会にて発表を行えたことにご協力頂いた共同研究者の先生方を含め発表に関わって頂いた方々に、深く感謝申し上げます。

(2)新学術領域研究への貢献
α-シヌクレインは老化に関わる重要な蛋白質であり、細胞内凝集による病原性や多量体形成といった観点でタウ蛋白やアミロイドβなどとも共通する性質があります。一方でOPCはこれまで注目されてこなかった4番目のグリア細胞であるとされており、今回の発表を通じてOPCに対する関心が高まったと考えられることは、今後の神経変性疾患の研究を行う上での新たな視点を提供することが出来たように感じました。

京都大学医学部
神経内科
梶 誠兒