新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

ホーム > INFORMATION > 国際活動支援報告 > 研究者の研究成果発表のための短期海外派遣 > 訪問者:理化学研究所 濱田耕造

国際活動支援報告

2018年3月14日(水)

訪問者:理化学研究所 濱田耕造

【研修報告】Gordon Research Conference on “Ligand Recognition and Molecular Gating”

《研修報告》
昨年6月Late breaking topicsに選ばれ口頭発表したゴードン会議(GRC)ですが、今回は別テーマのGRCに呼ばれ私はポスター発表、御子柴先生は口頭発表を行いました。急な海外出張にも関わらずご支援いただいた新学術国際活動支援に感謝いたします。
米国LAX空港から、西部劇を思わせるサボテンの丘を突っ切る片道5車線の巨大ハイウェイを70マイル突っ走り海の町ベンチュラに到着し、3名のノーベル賞受賞者(Dr. Wüthrich, Dr. Walker, Dr. Kobilka)を含む140名の研究者(うち日本人3名)が参加する5泊6日の学会が始まりました(https://www.grc.org/ligand-recognition-and-molecular-gating-conference/2018/)。今回の目的の一つは2015年Nature誌にIP3受容体のクライオ電顕構造を発表したSerysheva博士と140名の世界トップクラスの研究者の前で、我々が長年行ってきたIP3受容体の研究を発表し議論することです。Seryshevaグループは15年前からIP3受容体の構造研究に参入してきた我々のライバルです(2018年3月号の実験医学Update reviewに詳細を記述しました https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758125055/ )。昨年ノーベル賞を獲得したクライオ電顕技術の普及はすさまじく、今回の演題の三分の1はクライオ電顕を用いたもので、まさに「クライオ電顕の時代」の到来です。これに対し我々はX線結晶構造解析と機能解析で戦うので、我々の主張が会場の研究者に誤解なく理解されるようデータをスライドとポスターに正確にまとめ発表に挑みました。御子柴先生の講演では我々のX線結晶構造解析とクライオ電顕との相違点や、構造変化の伝達経路に関するゲノム編集を用いた未公表データを発表し、会場から拍手喝采をいただきました。次演者のSerysheva博士は我々の成果を称えながらも自説を維持し対立する立場を明確にしました。4日間連続で私と御子柴先生で行ったポスター発表にもクライオ電顕を専門とする多くの研究者が質問に来ましたが力強く事実を説明し我々の説を主張しました。会話を交わした多くの研究者から、良い研究ですねと言われ大きな励みとなりました。このような世界的大舞台で自信を持って発表できたのは、共同研究者たちと長年議論を重ね何度も追試した力強いデータのおかげです。このプロジェクトに関わった方々に心から感謝いたします。

(2)新学術領域研究への貢献
認知症の分子メカニズムは未だ解明されておらず、新しい切り口が必要とされます。本新学術領域のキーワードである「タンパク質老化」とはタンパク質の構造変化であり、そのメカニズムと意義を知るにはタンパク質構造を解析する最新技術の導入も重要だと考えます。これまでタンパク質の構造解析はX線結晶構造解析とNMR構造解析が主流でしたが、「タンパク質老化」を起こすタンパク質自体は特に結晶化が難しく不安定で解析が困難であると考えられます。近年発展してきたクライオ電顕技術はこれを克服する可能性があります。今回渡米し衝撃を受けたのは発表された研究のうち三分の1に既にクライオ電顕が活用されていることです。クライオ電顕は超分子構造やオルガネラ構造の解析にも応用でき、ごく最近では患者死後脳サンプルからクライオ電顕でタウの構造を決定した例や細胞内のポリグルタミンの構造をクライオ電顕で解析した例も報告されています。今回GRCで発表されていたタンパク質研究の最先端技術は、近い将来タンパク質老化プロセスを解析する最も強力な技術になるものと期待されます。

理化学研究所・脳科学総合研究センター
発生神経生物研究チーム 
濱田 耕造