新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2018年2月22日(木)

訪問者:東北大学 平岡 宏太良

【研修報告】Institut de Biologie de l’Ecole Normale Supérieure

《研修報告》
 この度、フランス、パリのInstitut de Biologie de l’Ecole Normale SupérieureのNathalie Spassky先生の研究室に平成30年2月5日から16日まで滞在させていただき、実験手技の習得および双方の研究についての議論をさせていただきました。
 私は脳室壁を構成する上衣細胞の発達についての研究を東北大学大学院医学系研究科、発生発達神経科学分野にご協力いただいて行っています。上衣細胞は多数の線毛を有する立方状の形態で、脳室壁を覆う層を成しています。上衣細胞は水分子の輸送を行うアクアポリン4チャネル、グルコース輸送体のGLUT1、2、Na+/K+/2Cl-共輸送体などを発現しており、それらの物質の脳実質と脳脊髄液間の移動の調節を行っています。また上衣細胞の脳室側の表面より脳室腔に突出した線毛は、その運動により脳脊髄液の流動に寄与します。多数の上衣細胞の線毛による同調的な鞭毛運動により脳室壁面の脳脊髄液の流動が起こされているが、その機能が働かないと脳脊髄液の流動が障害されマウスでは水頭症を発症します。
 マウスを用いた上衣細胞の基礎的研究を行っていくうえで、共同研究を行っている発生発達神経科学分野で免疫組織学的解析や基本的な細胞培養の方法などを学ばせていただいています。しかし近くに上衣細胞の研究を行っている研究者はおらず、自身も基礎研究の経験が浅いため、なかなか思うように実験が進んでいませんでした。今回の研修で、上衣細胞の培養、脳室壁のwhole-mount染色およびイメージング、胎仔に対するエレクトロポレーションなどの実験手技を見学、実習させていただくことができて、今後、自身の研究を格段に進展させることができると思います。国内外で上衣細胞に焦点をあてて研究を行っている研究室は少ないのですが、Nathalie Spassky先生の研究室はそのうちの一つでありハイレベルな研究を行っておられました。研究室では上衣細胞の運動性線毛の発達の要素である中心体についての研究を主にされておられました。蛍光免疫染色法を用いて様々な分子の経時的な発現の変化を詳細に観察されているのが印象的でした。私の研究についての発表も聞いていただき、自分自身が困っている点、疑問に思っている点を率直に投げかけ、有益な助言をいただきました。今後も交流を続けていけるような良い関係も作れたのではないかと思います。
 私を暖かく迎えてくださり、熱心に指導してくださったNathalie Spassky先生と研究室の皆様に心から感謝いたしております。また今回の派遣にあたりご助力いただいた新学術領域研究代表の祖父江元教授、事務局の皆様、東北大学医学系研究科、機能薬理学分野、谷内一彦教授、発生発達神経学分野、大隅典子教授、東北大学サイクロトロン・RIセンター、サイクロトロン核医学研究部、田代学教授に厚く御礼申し上げます。
 
(2)新学術領域研究への貢献
Contribution to “Brain Protein Aging and Dementia Control” project
 私はこれまで、高齢者に認知障害や歩行障害を発症する特発性正常圧水頭症のMRI(核磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放射断層撮影)による脳画像解析を用いた臨床研究を行ってきました。脳脊髄液の生理については不明な点も多く、そのことが水頭症などの脳脊髄液に関連した疾患の病態の解明をより困難なものにしています。脳脊髄液系の正常な機能や病的な状態を理解する上で、上衣細胞などの脳脊髄液と関連した組織の基礎的な知見を得ることは重要です。アルツハイマー病では脳から脳脊髄液へのアミロイドβやタウの排出が低下していることが示されていて、上衣細胞を含めた脳脊髄液系がアルツハイマー病の病態に関与している可能性があります。今回の研修で習得した実験手技や知見を研究に生かして、今後は特発性正常圧水頭症やアルツハイマー病といった認知症性疾患や加齢と上衣細胞との関連について研究を進めていきたいと考えています。

東北大学サイクロトロン・RIセンター サイクロトロン核医学研究部
助教 
平岡 宏太良