新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

ホーム > INFORMATION > 国際活動支援報告 > 研究者の研究成果発表のための短期海外派遣 > 訪問者:新潟大学脳研究所 小池佑佳

国際活動支援報告

2017年8月9日(水)

訪問者:新潟大学脳研究所 小池佑佳

【派遣報告】Amyotrophic lateral sclerosis & Related Motor Neuron Disease (Gordon Research Conference)

発表演題名:The alternative splicing of TARDBP mRNA is affected by the ALS10 associated mutations and methylation status.
(1)学会報告
 2017年7月23日~28日に米国Vermont州Stoweで開催されたAmyotrophic Lateral Sclerosis & Related Motor Neuron Diseases (Gordon Research Conference) に参加しました.Stoweは米国の北東部に位置し,日本からは飛行機を乗り継いで,直近の空港まで約16時間,さらにそこからタクシーで50分程度かかる片田舎の小さな町です.
このGordon Research Conferenceは,scienceの分野で歴史をもつ研究集会の一つであり,unpublished dataも含めて,各ラボの最新の研究成果を発表し,積極的に議論する場として広く認識されています.そのため,秘密主義を約束し,口演もポスターも含めて,発表内容に関する写真撮影は一切禁止されていました.もう一つの特徴として,Conference場所と宿泊施設は近接し,5泊6日の会期中ずっと参加者は同じ宿泊施設に泊まり,3食を共にしながら,十分な議論が尽くせるような環境が整っています.今回は,約160名 (うち日本からは5名) が参加し,37件の口頭発表と87件のポスター発表がありました.ポスターは会期中を通じて掲示し,ポスター発表時間も1人あたり,2日間が割り当てられ,活発なdiscussionが行われるように配慮されていました。
 欧米における家族性及び孤発性ALSの原因として最多であるC9orf72に関する演題が多くを占めていましたが,TDP43及びFUSの蛋白,RNAの挙動に基づいた病態研究についても複数発表されていました.また,マウス,ハエ等のモデル動物やiPS細胞から分化させた運動ニューロン等のmaterialを用いた病態解明の成果発表が多いものの,C9orf72を中心に,治療に向けたアプローチについても最新の知見が報告されていました.
私自身はTDP-43量の自己調節に関して,ポスター発表を行いました.ポスターに興味をもってくれた研究者の方々から貴重な意見を頂く機会があり,拙い英語ながら,自分の考えを説明することができ,充実した時間を過ごすことができました.
 ALS研究のトップランナー達が一同に会するこのconferenceに参加できたことは大変よい経験になりました.またこのConferenceでは,口演やポスター発表において,若い研究者の活躍がとても目立っていました.さらに,私がツインルームをシェアすることになったのは,今年からNIHのPIになった30代の女性でした.若くても,才能をどんどん発揮して,道を切り開いていっている人達が世界には大勢いることを改めて認識し,そういった意味でも非常に刺激的な機会でした.この経験から得たことを日々の研究生活にも活かせるようにしたいと思います.

(2)新学術領域研究への貢献
  研究対象としているTDP-43は,筋委縮性側索硬化症(ALS)及び前頭側頭葉型認知症(FTLD)のヒト剖検脳において蓄積を認め,病態への関与が示唆される蛋白の一つです.これまで家族性及び孤発性ALSにおいて,TDP-43遺伝子の疾患関連変異が報告されていますが,私たちの施設では,TDP-43量の自己制御機構の乱れがALS/FTLDの病態機序に関与していることを想定し,研究を行っています.孤発性,家族性ともにALS発症は中高年期である症例が大半であり,同症の発症には,加齢及び老化に伴う蛋白機能の障害の影響が推定されます.今回,TDP-43量の自己調節機構に関するポスター発表を行い,海外の研究者達と議論を交わせたことは,今後の研究を進める上での有意義な機会となりました.またliquid dropletの老化という新しい概念を得て、今後の老化に伴う疾患を考えるきっかけとなりました。

新潟大学脳研究所神経内科
大学院生
小池 佑佳