新学術領域研究(研究領域提案型) 脳タンパク質老化と認知症制御 国際活動支援班

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国際活動支援報告

2017年1月13日(金)

訪問者:慶應義塾大学 古川 良明

【派遣報告】5th Symposium on Advanced Biological Inorganic Chemistry

発表演題名:A maturation mechanism of Cu/Zn-superoxide dismutase
(1)学会報告
  平成29年1月7日から11日までの5日間、インド・コルカタで開催された第5回応用生物無機化学シンポジウムに参加しました。主催者のProf. Mazumdar(Tata基礎研究所:写真)とは私が学生の頃からの知り合いです。金属タンパク質や金属錯体の構造・反応性といった生物無機化学に関するシンポジウムで、一般参加者の多くはインドの学生でしたが、この分野では非常に著名な外国人研究者(約50名)が招聘されており、熱気を帯びたシンポジウムでした。
  生物無機化学は医学・医療からは離れた学問分野ではないかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、シスプラチンに代表されるように、金属イオンと生体分子に働く特異な相互作用を利用した医薬開発は多く行われています。神経変性疾患に関連したところでは、アルツハイマー病に見られる老人斑に鉄や銅イオンが蓄積しており、Aβペプチドの産生やその凝集プロセスに金属イオンが関与しているのではないかと言われています。今回のシンポジウムにおいても、老人斑にヘムが異常に蓄積しているという報告もあり、神経細胞に発現したヘモグロビンによる異常な酸化反応とAβペプチドの凝集との関係を提案する発表がありました。また、水素結合の水素原子をハロゲン原子に置き換えた「ハロゲン結合」に関する理論的内容の発表があり、タンパク質の凝集を抑制する薬剤の開発にも応用できるのではないかということでした。自身の研究成果を疾患治療法の開発に応用できないかと模索している基礎化学研究者が多いことを実感したシンポジウムでした。
  シンポジウムが開催されたコルカタは、イギリス植民地時代の中心地で東インド会社の商館が開設された町として有名です。現在も、デリー・ムンバイに次ぐインド第3の町で1500万人を抱える大都市です。シンポジウム会場は町の中心から少し離れた所に位置していましたが、ダウンタウンにひとたび足を踏み入れると、バイタリティー溢れる人たちに囲まれ、熱気漂う空間を経験することができます。インドの学生も非常に積極的で、ポスター発表の時間が過ぎてもポスターの前から離れようとせず自分の研究成果を披露する必死な姿には感心しました。学術的な面で有意義だったことはもちろんですが、アメリカやヨーロッパではできない多くの貴重な体験をすることもできました。
(2)新学術領域研究への貢献
  私は、筋萎縮性側索硬化症の病因遺伝子であるSOD1に関する研究成果の発表を行いました。SOD1は銅・亜鉛イオンを結合して活性化するタンパク質ですが、病因変異によってそれらの金属イオンが解離しやすくなり、タンパク質構造が不安定となることでミスフォールディングし、オリゴマー・凝集体の形成につながるのではないかと私たちは提案しています。つまり、細胞内でSOD1がどのように金属イオンを捕えて結合するのか、そのメカニズムを明らかにすれば、変異SOD1のミスフォールディングを抑制し、疾患の予防・治療につなげるができるというのが私たちの考え方です。今回の発表を通じて、構造生物学や錯体化学など非常に幅広い学術分野の多くの研究者と議論することができ、本学術領域での研究テーマを遂行するうえで有意義な機会となりました。

慶應義塾大学理工学部
生命機構化学研究室
古川良明