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新着情報

2020.08.24

名大呼外便りNo.5:海外留学便りー加藤毅人

名古屋大学呼吸器外科医局の先生方の御支援を頂き、2018年2月末よりアメリカ、テキサス州のMD Anderson Cancer CenterにてPostdoctoral Fellowとして働かせて頂いております。当研究施設では癌のプロテオミクス解析、早期診断バイオマーカーの分野において世界的権威のDr. Hanashの指導の下、日々研究に励んでおります。研究の内容としましては、肺癌に対するプロテオミクス解析を応用した超早期診断バイオマーカーの開発、Antibody Drug Conjugate therapyの新規ターゲットの探索、エクソソームの機能解析等を行っています。研究室では常時マススペクトロメトリーの機械が11台稼働しており、血液や腹水、細胞株の検体を中心に大量のプロテオミクス、メタボロミクスの網羅的データが蓄積されているため、日本では中々経験できない規模と言えます。こういった刺激的な環境の中、世界中から集まる多様な背景を持った研究者と協力しながら日々楽しんで研究に取り組んでいます。

そもそも外科医なのに何故基礎研究をしているのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際、こちらの研究室でも同僚にphysician scientistは聞くけどsurgeon scientistはあまり聞かないよねと言われることもあります。私自身も研修医として働き出した時は、今のような生活は全く想像していませんでした(どちらかというと仕事の後の飲み会を楽しみにしていた方です)。研修を終えて自分の腕で癌を根治できる外科医のカッコ良さに憧れて現在の医局に入局し、帰局するまでの数年はとにかく手術がうまくなりたいとがむしゃらに手術に向き合っていたのですが、その経験の中で早期の癌でも術後再発することがあったり、逆に進行期でも手術のみで治ることがあったり、臨床のデータだけでは説明が付かないことが多々ある事に気付きました。また近年分子標的治療薬や免疫治療等内科的新規治療に接する機会も多くなり、そのメカニズムやバイオロジーに興味を持つと同時に、こういった治療や診断技術と外科手術をいかにして組み合わせるべきなのかということを考えるようになりました。なので私の留学の主な目的は、今の外科的診断、治療をよりよくするために基礎研究の技術をうまく取り入れる方法を学ぶというところにあります。

そういった理念はともかく、アメリカでの留学が始まった当初は仕事のみならず、私生活も含めてうまくいかないことの連続でした。渡米初日のことは今でも鮮明に覚えていますが、海外でろくに運転したこともないのに空港でレンタカーを借りてホテルまで移動したことは本当に無謀だったなと思っています。成田発ヒューストン行きの飛行機が昼間に到着予定だったですが遅延して夜7時に到着し、さらに運の悪いことにその時の天気は大雨。視界不良の中、交通ルールもあまり分からない状態で道路の脇にしばしばバーストしたタイヤが転がっているのを横目にしながらの高速道路の運転は本当に生きた心地がしませんでした。実際交通事故も多いようで車の年間保険料も日本より1桁多く驚愕しますが、そんな環境で今まで無事故で来られているのはありがたいことだと思っています。

研究自体のハードルの高さもさることながら、最初はそもそもコミュニケーションがままならないという問題もありました。渡米前にも海外学会に参加したり、駅前留学してみたりとある程度準備していったつもりでしたが、世界中から様々な人種が集まっての会話となると、色んな訛りがあったりスピードが速かったりとほとんど会話が聞き取れませんでした。電話での会話なんてできる限りしたくなかったです。さらに老若男女問わずラボのボスも含めてファーストネームで呼び合う習慣も日本人としては中々慣れませんでした。それも2年も経つとプレゼンの機会も増えますし、新しいメンバーに教えたりすることも多くなってきてコミュニケーションにも大分自信がつきました。

苦労話ばかりでなくもちろん楽しいこともたくさんあります。アメリカ国内の旅行は日本から行くより安くなりますので、社会勉強のためと家族で色々行かせて頂きました。最近の旅行で思い出に残っているのは、アラスカのフェアバンクスへ行った時のことです。サンクスギビング中でしたのでほぼ冬ということもあり寒さが心配でしたが、行くならアメリカにいるうちかなと覚悟を決めて行きました。北極圏も近く、日の出は午前10時、日の入りは午後3時という驚きの早さで、また気温は基本的に―20℃前後で冷凍庫の中にずっといるのと同じという普段は経験できないような環境でした。子供たちがこの寒さに耐えられるかも心配でしたが、雪合戦を楽しんだり雪山に上って滑ってみたりと案外適応していました。そんな中で凍った湖に穴を開けてアイスフィッシングを楽しんでみたり、釣った魚を焼いてもらって食べてみたり、隣のノースポールの町に行ってサンタやトナカイに会いに行ってみたり、山奥の牧場まで行ってオーロラをみたりと極寒の地を思いっきり満喫してきました。普段はほぼ熱帯のテキサスにいますので、雪や氷をみるのも久しぶりでそういう意味でもいい気分転換になりました。

こういったことも含めてアメリカにいると日本ではできないことをたくさん経験できますが、その中で感じることは、アメリカには多様な人種が暮らしているのですが日本の文化が意外な程に浸透していることです。街には日本食レストランを良く見かけますし、くら寿司やとんこつラーメン屋は大人気です。ヒューストンのダウンタウンにはトヨタスタジアムがあり、そこはNBAのヒューストンロケッツのホームスタジアムになっています。日本車も多く走っており、私の車もマツダです。こういったことに加えて日本人研究者が頑張っているところ見ると、日本人として誇らしい気持ちになり、またもっと自信を持って積極的に世界に出て行っていいんだという励みになります。

今はコロナウイルスの流行もあり、日本とアメリカの行き来もしにくい状況となってしまっていますが、ご興味がありましたら落ち着いた時にでもぜひテキサスに遊びにきてください!!

カンファレンスルームにてラボメンバーと

友人と誕生日パーティーにて

アラスカ ノースポールにて家族とサンタと