• 呼吸器外科について
  • 診療案内
  • 入局者募集
  • お問い合わせ

HOME > 新着情報 > 新着情報詳細

新着情報

2020.07.14

名大呼外便りNo.1:外科医としての海外留学ー芳川豊史

今からちょうど、12年前のことになる。2008年7月1日、カナダ国トロントでの私のclinical fellowとしての一日が始まった。それも夜中の2時だったか‥。6月17日に家族と渡加し、2週間足らずで自宅及び仕事のた めのセットアップをし、さて明日の朝から初出勤と思っていたら、夜中に連絡があり、ドナーが出たので、7月1日未明からの仕事となった。ここから1年間、肺移植の臨床研修をする(実際に、自分でドナー肺の摘出 をしたり、レシピエントの血管や気管支の吻合を自ら行う)ことになるのだが、臨床留学に旅立ったあの頃 の自分をふりかえってみた。

医学部卒業後8年目に大学院に入り、肺移植の基礎研究を進めるにつれ、実際に自分で移植手術をできるようになりたい、そのためには、海外で臨床研修するしかない(当時は、日本全体でも肺移植は20例程度)と思い、2006年2月に、ベルギーのルーベン大学に2か月、単身で見学に行った。生後5か月の長男を日本において行ったことを今でも思い出す。こんな自分を許した妻の協力がなければ、できなかったと今でも感謝するが、帰国時、空港で3か月ぶりに私に抱かれても泣かなかった息子にも感謝したい。ルーベンでの研修は、大動物研究の手伝いと臨床の見学であったが、実際に手洗いをさせてもらうこともあり、楽しかった。何よりも、今でも交流のあるDirk Van Raemdonck教授(図1)から、ルーベン大学のclinical fellowになった場合に、できること、できないことを丁寧に説明していただいた。何よりも、オランダ語を学んで臨床研修する より英語圏の方が将来的にいいのではないか、という親身なアドバイスを得られたことに感謝したい。これ を受け、その4か月後には、トロントに3か月見学に行った。この時は、その後の留学も考え、妻と息子を連 れて行った。当時のトロントでは、clinical fellowが基本的に全例執刀し、スタッフが適宜指導するというスタイルであったのを見て、ここに決めた、と思った。現在、准教授として大活躍されている安福和弘先生 (図2)がclinical fellowとしておられ、非常に親切にしてもらい、私がfellowになった年にstaffとして着任 されるなど、何か縁を感じた。英語のテストをクリアするための試験回数は怖くて数えきれないが、見学後2年経たずしてclinical fellowとして働くこととなった。

2009年の6月23日にトロントでの最後の肺移植の左側の吻合を62分で終え、TGH(Toronto General Hospital)での私の42側目の吻合が終了した。1年間で、100例以上のドナー摘出のための出動、そして約100例の肺移植を行う、世界最多の肺移植施設での1年が終わった。手術だけでなく、ICUや一般病棟の回診、肺移植適応評価の会議、さらに、気管支鏡検査や外来など、肺移植に関わるほぼすべての医療に身をう ずめた一年であった。トロントではたいへんお世話になり、世界中どこでお会いしても気さくに声をかけて くださるShaf Keshavjee教授(図3)をはじめとしたスタッフには感謝の言葉しかない。また、当時、研究 をメインでトロントに留学されていた日本からの先生方も多く、彼らとの交流も楽しく、今でも連絡は絶え ない。また、一緒にclinical fellowをしたMarcelo Cypel医師も准教授となり、トロント、いや世界の肺移植 の臨床・研究の要となっており、最近、京都、カナダと連続して一緒に時間を過ごすことがあり、昔を語り 合った(図4)。彼もnative Canadianではないが、その分私の苦労もわかってくれていたのであろう、今も、であるが、当時非常に親切に、そしていろいろなことにフェアに接してくれたことに感謝している。な どなど・・・思い出すと、きりがない・・・、多くの方にお世話になった。そして、時間と場所を越えた、 つながりができた。もちろん、患者さんとも多くの人間関係ができた。退院の時に、カナダの記念硬貨のセ ットを、お土産として日本に持ってお帰り、と渡してくれる患者さんとその家族もいた。これが外科医とし ての臨床留学なんだな、と思う。

 現在、COVID-19もあり、海外だけでなく国内の移動も未だ自由ではないが、海外留学は、多くのことを我々に与えてくれる。私のトロント留学も一筋縄ではいかなかったし、留学仲間と話をしても、皆そういっ たエピソードを持っている。一見、外からは、すべてがうまくいっているように見えるケースでも、本当に いろいろなことがあるんだなあと、つくづく感じた。もし、この留学の経験がなければ、今の私はなかった だろうな、というのが本音である。それくらい大きな経験をさせていただいた。これまでに、大学の垣根を 超え、多くの後輩達の留学の相談にのったり、お手伝い(邪魔?)をしてきたが、できれば、いま一緒に働 いている名古屋大学の若い先生方にも、同じような経験をしていただければと思っている。私を支え、鼓舞 してくださった先輩・同僚の医 師たちに感謝して終わるのでなく、そのお礼の印として、未来を担う若手医師たちに、さあ、また今日から声をかけていこう。

図1:ブタ肺移植実験再灌流後のひと時.JPG

図1.ブタ肺移植実験再灌流後のひと時

図2:回診後に、Toronto General Hospital正門前で.JPG

図2.回診後に、Toronto General Hospital正門前で

図3Shafと.jpg

図3.Shafの自宅でのパーティで

図4:Marceloの新居でのBBQ.JPG

図4.Marceloの新居でのBBQ