泌尿器科の病気について
前立腺肥大症

前立腺肥大症の治療法のいろいろ

前立腺肥大症の治療には、大別すると薬物治療、手術治療、保存治療の3つがあります。先に述べた、尿閉、肉眼的血尿、膀胱結石、腎機能障害、尿路感染などの前立腺肥大症による合併症が見られる場合には、手術治療が行われますが、それ以外の場合は、まず薬物治療が行われます。前立腺肥大症の手術治療としては、最近新しい技術が開発され、様々な治療法がありますが、内視鏡手術が標準的な手術として行われます。

薬物治療

前立腺肥大が尿の通過障害を引き起こす理由として、2つのメカニズムが考えられます。ひとつは、前立腺の平滑筋に対する交感神経の緊張が亢進して、前立腺(平滑筋)が収縮して、尿道を圧迫することによります。もうひとつは、前立腺の収縮とは関係なく、大きくなった前立腺が物理的に尿道を圧迫して、通りを悪くすることによります。こういったことから、3種類の薬剤が広く用いられています。すなわち、交感神経α1遮断薬、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬、抗男性ホルモン薬です。

α1遮断薬(ハルナール®、フリバス®、ユリーフ®など)は、前立腺平滑筋にある交感神経受容体(交感神経α1受容体)を遮断することにより、前立腺平滑筋を弛緩し(緩め)、尿道の圧迫を解除して、尿が通りやすくします。また、ホスホジエステラーゼ5阻害薬(ザルティア®)は、勃起不全に使用されている薬ですが、前立腺や膀胱の出口の平滑筋を弛緩させて、尿を通りやすく作用があることが示されて、前立腺肥大症にも投与されるようになりました。もうひとつの薬(アボルブ®など)は、前立腺を小さくして、前立腺肥大による尿道の物理的な圧迫を軽減します。前立腺の肥大には男性ホルモンが関与していますが、この男性ホルモンの前立腺に対する作用を抑えることにより、前立腺は縮小します(1年の内服で前立腺サイズが25〜30%縮小します)。

植物から抽出したエキスを薬にした生薬や、いくつかの漢方薬が前立腺肥大症治療に使われることがありますが、有効性については十分な科学的根拠が示されておらず、α1遮断薬よりは効果が劣ります。副作用はまれです。

手術治療

薬物治療を行っても、症状の十分な改善が得られない場合や、前述したような肉眼的血尿、尿路感染、尿閉を繰り返す場合、あるいは膀胱に結石ができたり、腎機能障害が発生した場合には手術による治療が行われます。100gm(mL)を超えるような巨大な前立腺肥大の場合には、開腹手術によって肥大した前立腺を摘出することがありますが、通常は、尿道から内視鏡を挿入して行う手術が行われます。最近では、レーザーを用いた、新しい内視鏡手術も行われています。

経尿道的前立腺切除術(TUR-P: Transurethral Resection of Prostate)

尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端に装着した切除ループに電流を流し(電気メスと同じ)、肥大した前立腺を尿道側から切除する方法です。前立腺切除は、“かんなで木を削る”ように、少しずつ切除して、肥大した前立腺(内腺)を完全にくり抜くように切除します。前立腺肥大症に対する最も標準的で、広く行われている方法です。

泌尿器Care & Cure Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p60、2017 (矢野仁、経尿道的前立腺切除術の術前・術後管理)より転載

ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP: Holmiumu Laser Enucleation of Prostate)

尿道から内視鏡を挿入し、レーザーを照射しながら、肥大した前立腺(内腺)と外腺の間を剥離して、内腺の部分を塊としてくり抜きます。くり抜いた内腺は、膀胱の中で細かく砕いて、吸引して取り出します。最近、広まりつつある手術方法で、大きい前立腺肥大に対しても少ない出血で行うことができます。

レーザー前立腺蒸散術

尿道から挿入した内視鏡下に高出力のレーザーを照射して、肥大した内腺を蒸散(蒸発)させながら、切除します。非常に出血量が少なく、大きな前立腺肥大にも行うことができ、術後の尿道へのカテーテル留置期間も短い利点があります。

保存治療

保存治療には、生活指導、経過観察、健康食品などがあります。水分を摂りすぎない、コーヒーやアルコールを飲みすぎない、刺激性食物の制限、便通の調節、適度な運動、長時間の座位や下半身の冷えを避ける、などの生活での注意は、前立腺肥大症の症状緩和に役立ちます。症状や合併症のない前立腺肥大症は治療の必要はなく、定期的な経過観察を行います。健康食品については、ビタミン、ミネラル、サプリメント、ノコギリヤシなど、前立腺肥大症に有効と言われるものがありますが、科学的には有効性は示されていません。