泌尿器科の病気について
前立腺がん

日本では前立腺がんの患者数が急増しており、1995年から2020年に前立腺がんの罹患増加率は5.9倍増加し、2020年には男性でのがん罹患率第2位になると推計されていますが、実際には現時点では、前立腺がんの罹患患者数は男性で1位と言われています。つまり男性のがんの中で、前立腺がんの患者数が最も多いということになります。前立腺がんは高齢男性にみられ、加齢とともに罹患率が増加します。しかし、血液検査による前立腺特異抗原の測定により早期発見が可能となっています。

症状

前立腺は膀胱の出口に尿道を取り囲むように存在し、精液の一部を産生する臓器です。前立腺はいくつかの部位に分かれており、良性疾患である前立腺肥大症は尿道周囲より発生するために、尿道を圧迫して排尿障害を引き起こしますが、前立腺がんは前立腺の辺縁に発生するために自覚症状を引き起こすことはまれです。しかし、前立腺がんが進行して尿道や膀胱に浸潤すると排尿障害や血尿が出現し、また骨に転移すると痛みがみられるようになります。このように、前立腺がんでは進行するまでは無症状であるため、早期発見には後述する前立腺特異抗原(PSA:Prostate Specific Antigen)を血液検査でチェックすることが重要です。

病気の特徴と成り立ち

前立腺がんは加齢とともに罹患率が高くなり、60歳以降から罹患率が増加しますが、最近では50歳台で発見されることも少なくありません。がんが前立腺内に限局する早期の段階では無症状ですが、進行すると前立腺の周囲に浸潤したり、他臓器に転移します。特に、前立腺がんはリンパ腺や骨に転移しやすく、骨に転移すると痛みや骨折を引き起こしたりします。前立腺がんの発生原因は不明ですが、男性ホルモンがその発生と進行に関与することがわかっています。前立腺がんの進行は非常にゆっくりであるのが特徴で、前立腺がんがあっても、症状もなく、天寿をまっとうすることも少なくありません。このようながんを潜在がんといいますが、前立腺がんは潜在がんとして存在することも少なくありません。他方、悪性度が高く、進行も早くて、早期に適切に治療を行わないと生命にかかわるような前立腺がんもあります。

検査と診断のポイント

前立腺がんの診断においてはPSAの測定が重要で、血液検査により血中のPSAを測定します。PSAは正常な前立腺上皮細胞で産生されますが、がん細胞ではPSAの産生が非常に亢進し、血液中のPSAも高くなります。血液中のPSA測定値が4ng/mlを超えると前立腺がんの存在を疑う必要があります。PSAはがんのみならず、前立腺肥大症や前立腺の炎症でも上昇することがありますが、4~10ng/mlはグレーゾーンとして考えられ、20~30%で前立腺がんが見つかります。10ng/ml以上では前立腺がんの発見率は50%以上と高くなり、20ng/ml以上では周囲に浸潤したり、転移したり、進行している可能性が高くなります。現在、市町村の老人健診において約70%がPSA測定を採用しており、PSA測定の普及により、早期前立腺がんの発見率が上昇しています。

PSAが4ng/ml以上の場合には、肛門から針を前立腺に刺して組織を採取する、いわゆる前立腺生検により組織検査を行い、前立腺がんの有無について確定診断を行います。前立腺がんが検出された場合には、種々のレントゲン検査などにより、前立腺周囲への浸潤の有無、リンパ節や他臓器への転移の有無を評価します。

MRI(核磁気共鳴画像)は、現在では一般的な検査となりましたが、人体に高周波の磁場を与え、人体内の水素原子に共鳴現象を起こさせる際に発生する電波を受信コイルで取得し、得られた信号データを画像に構成して、人体の断層写真を撮る検査法です。現在は、MRI画像を様々な信号を利用して加工することにより、前立腺癌の診断に非常に有用な検査となっています。従って、PSAが高値で、前立腺がんが疑われる場合には、上記の生検による組織検査の前に、MRI検査を行います。MRI検査により、より正確な組織採取ができたり、前立腺がんの局在や浸潤度などを評価することができます。

CT検査は、前立腺がんの診断には有用ではありませんが、前立腺がんと診断された場合には、リンパ節、骨、他臓器への転移の有無を検査するために行われます。また、骨の転移をチェックするためには、骨シンチグラフィーを行います。

前立腺針生検(経会陰的)(経直腸的に行うこともあります)
泌尿器Care & Cure Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p57、2017(鈴木啓、前立腺生検の術前・術後管理)より転載

悪性度と進行度の診断

前立腺がんの悪性度は病理組織検査(前立腺生検組織あるいは手術で摘出した前立腺組織)により分類します。病理診断医が、前立腺のがん組織の部分について、Gleason score(グリーソン・スコア)によって、2~10点まで分類します。グリーソンスコア2~6点は悪性度が低い前立腺がん(転移や進行しにくい、おとなしいがん細胞)、7点は中程度、8~10点は悪性度が高い前立腺がん(転移や進行しやすい、横着いがん)となります。

進行度は治療前のMRIや手術により摘出した前立腺組織により診断します。前立腺は栗の渋皮のような被膜で包まれていますが、がんが被膜の中にとどまっている場合は限局性前立腺がんと言われ、早期の状態にあるといえます。しかし、前立腺がんがさらに広がって、被膜に浸潤したり、被膜を超えて前立腺の周囲まで浸潤すると局所進行がんとなります。

また、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどで、リンパ腺・骨(前立腺は骨やリンパ節に転移しやすい)、あるいは他の臓器への転移があるかどうかを診断します。

以上のような悪性度、進行度、さらにPSAの値を組み合わせて、各患者さんの前立腺がんの状態を低リスク、中リスク、高リスクに分けて、治療選択や予後の予測を判断することもあります。