泌尿器科の病気について
尿失禁

治療

尿失禁の治療には、生活習慣の改善、行動療法、薬物治療、外科的治療があげられます。行動療法というのは骨盤底筋訓練、膀胱訓練などです。また、その他に電気刺激治療や磁気刺激治療の有効性が近年報告されています。また、薬物治療に抵抗性の過活動膀胱(切迫性尿失禁)に対しては、ボツリヌス毒素の膀胱壁注入療法があり、仙骨電気刺激療法も平成29年度に保険適応となっております。

1)生活習慣の改善

水分のとり過ぎにより尿量が多くなり、尿失禁症状を悪化させることがあります。この場合には、水分摂取量を減らすことを考える必要があります。外出・運動などの前に排尿し、膀胱を空虚にしておくことにより尿失禁発生のリスクを減らすことができ、また外出先でトイレの位置をあらかじめ確認しておくと、尿意切迫感を感じた時にあわてず、すみやかにトイレへ行けることにより切迫性尿失禁の予防に役立ちます。

2)理学療法(骨盤底禁訓練)

骨盤底禁訓練(体操)は、膣あるいは肛門を締める運動を一定期間行うものです。1日に50回程度行い、3か月くらい毎日続けます。腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋訓練は標準的治療として確立されていますが、過活動膀胱による切迫性尿失禁に対しても有効です。詳細な方法は、泌尿器科外来で指導できます。

女性尿失禁 p8、平成12年、名古屋大学泌尿器科・愛知県より転載

3)膀胱訓練

膀胱訓練とは切迫性尿失禁に対する治療で、少しずつ排尿間隔を延長するもので、尿意あるいは尿意切迫感があってもあわててトイレに行かずに我慢し、4週間から8週間かけて徐々に膀胱の容量を大きくするものです。

4)薬物治療

腹圧性尿失禁の標準的治療は、骨盤底筋訓練などの理学療法、あるいは外科的治療で、薬物治療の効果はあまり期待できません。

過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁に対する標準治療薬は、抗コリン薬あるいは交感神経β3刺激薬で、切迫性尿失禁や頻尿などの過活動膀胱の症状を改善することが明確に示されています。過活動膀胱を治療するための抗コリン薬は、膀胱の勝手な収縮を抑制し、また尿意切迫感も抑制します。ポラキス®、バップフォー®、デトルシトール®、ベシケア®、ウリトス®、ステーブラ®、トビエース®、ネオキシ®テープ(貼付剤)など、多くの薬剤があります。交感神経β3作動薬(ベタニス®)は蓄尿時の膀胱拡張機能を促進し、尿意切迫感も抑制します。

5)外科的治療

中部尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)

女性腹圧性尿失禁に対する標準的な手術は尿道スリング手術で、85~90%程度で尿失禁の消失が得られます。膣の前壁を小さく切開し、尿道中部の下に人工メッシュ(網目状のテープ)を置いて尿道を支える手術で、現在本邦で最も広く行われています。

泌尿器Care & Cure Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p108、2017(金城真実、TOT・TVT手術の術前・術後管理)より転載

人工尿道括約筋埋め込み術

前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術や前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術後に発生する、重度の腹圧性尿失禁が適応となります。尿道の周りに尿道を締めるための帯状のカフを巻き付け、陰嚢の皮下に埋め込んだスイッチを自分で操作し、このカフを膨らませて尿道を圧迫することにより尿失禁を防ぎます。排尿する時は、やはり陰嚢皮下のスイッチを操作してカフをへこまして排尿します。以前は自費診療で200万円以上かかりましたが、2014年から健康保険適用となり保険診療として安価に行うことができるようになりました。名大泌尿器科でも通常の手術として行っています。

泌尿器Cure & Care Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p116、2017(松川宜久、人口尿道括約筋埋め込み術の術前・術後管理)より転載

電気刺激治療・磁気刺激治療

電気刺激療法(干渉低周波療法)や磁気刺激療法は、電気や磁力により骨盤底の筋肉や神経を刺激するもので、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する有効性が示されています。いずれの治療も保健適応が認められています。

ボツリヌス毒素の膀胱壁注入治療

薬物治療で改善が得られない過活動膀胱(切迫性尿失禁)に対して、欧米では行われています。尿道から内視鏡を挿入し、膀胱内から膀胱壁にボツリヌス毒素を注入する治療です。膀胱壁に注入されたボツリヌス毒素は膀胱の勝手な収縮を抑えて切迫性尿失禁を改善します。ボツリヌス毒素は、本邦では顔面神経麻痺の治療などに使用されています。

仙骨刺激治療

欧米では従来行われている治療法ですが、本邦では平成29年6月に健康保険適用となった新しい治療法で、薬剤治療により改善が得られない過活動膀胱による切迫性尿失禁が適応となります。仙骨孔(臀部)から針金状の電極を差し込んで膀胱を収縮させる神経の傍に置きます。そして、臀部の皮下に心臓のペースメーカーのような電気刺激装置を埋め込んで、埋め込んだ電極を常に刺激します。これにより、膀胱の神経が常に刺激され、過活動膀胱を抑制して尿失禁を改善します。名大泌尿器科でも、本治療を行っています。

SNMパンフレット、メロトロニックより転載

尿失禁は、適切な治療により治すことができる病気です。恥ずかしさや、あきらめてしまったりで、医療機関を受診しにくい病気です。しかし、尿失禁は生命にかかわる病気ではありませんが、日常生活の大きな支障になりますので、ぜひ積極的に泌尿器科を受診してください。