泌尿器科の病気について
性同一性障害

性同一性障害とは

性同一性障害(Gender Dysphoria/Gender Identity Disorder; GD/GID)は、性別の自己認知(Gender Identity;心の性)と身体の性(Sex)が一致せずに悩む状態です。生まれが男性であって、所属する性別とは異なる性(例えば女性)であると認識している状態をMTF(Male to Female)、逆に生まれが女性であって、所属する性別とは異なる性(例えば男性)であると認識している状態をFTM(Female to Male)と呼びます。社会的には、X-Genderといわれる自己認識する性別が不定や不明、変動する例があり(MTXやFTXなどと呼称)、心の性の揺らぎには大きな幅があるとされています。心の性別が元々の所属する性別と異なる状態を総称して、社会的にはTransgenderと呼びます。Transgenderには、必ずしも治療が必要ではない(脱病理化)場合があります。

ここでは、治療が必要となるGD/GIDに限って説明をします。

名古屋大学医学部附属病院の取り組み

名大病院泌尿器科は2003年にCross-sex hormone treatment(CSHT;ホルモン療法)を開始しました。その後、2014年に名古屋大学GID診療ガイドラインの策定及びGID委員会を設置し、関係各科と協力の上で、包括的な診療を開始しました。日本精神神経学会の『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』に基づいた診療を行っています。

現在、泌尿器科では、GID学会認定医による専門的な診療が行われています。

性同一性障害の診断

性同一性障害の診断には、性同一性障害の診断・治療に十分な理解と経験を持つ精神科医2名による確定診断が必要です。性別の違和感がある人がすべて性同一性障害(GD/GID)というわけではありません。統合失調症や発達障害、その他の精神・神経疾患で類似症状が起きることもあります。この場合、元々の疾患を治療することで違和感が軽減する場合がありますので、時間をかけて診断することが必要です。

性同一性障害の治療

性同一性障害に対する治療は、精神科領域の治療(精神的サポート)と身体的治療に大別されます。精神的サポートは生涯にわたって必要です。このサポートは精神科医や心理専門家による治療が進められます。

身体的治療には、CSHT(ホルモン療法)と手術治療があります。どのような身体的治療を受けるかは、GD/GID当事者の自己責任のもとで、自己決定することができます。しかし、身体的治療は不可逆的な治療が含まれています(特にCSHT、性別適合手術)。このため、当科では、GID委員会による慎重な討議、審査・承認と、必要に応じて関連諸委員会による審査・承認が必要となります。なお、身体的治療はすべて自費診療となります。

具体的な治療について

GD/GIDへのホルモン療法では、いわゆる元々の性を特徴付けるホルモンとは別のホルモンを使います。MTFには卵胞ホルモン製剤、FTMにはテストステロン製剤を使用します。手術治療では、性的象徴となる部位の切除と生殖器の手術、整容の変更があり得ます。GD/GID当事者すべてに同じ治療が必要にはなりません。また、生活をする上で、周囲の理解が得られたり、当事者自身の受け止め方の変化によって、必要な治療も変わります。このため、こころのケアができる施設や当事者団体の活用を積極的にお薦めしています。

CSHTでは、これまでの経験上、肝機能異常や耐糖能異常、多血症、骨粗鬆症、精神症状への影響などのリスクがあります。安全に治療するために、当科でのホルモン療法では必要最小限の投与量を見つけ出し、維持する方法を採用しています。具体的には、詳細な問診と体格の評価、内性器の評価を行い、さらに、性ホルモンのコントロールを行う下垂体ホルモンの一つであるLHとFSH、関連ホルモンのPRLを適宜、測定します。

なお、遠方の方や仕事の事情で当科の通院が難しい場合は、コントロールが安定した時点で、ご希望の施設に紹介させていただき、当科では定期的に採血・合併症管理を行っています。詳細については、GID学会認定医にお尋ねください。

手術療法については、関係各科での診療を行っています(一部を除く)。

当院の診療は名大病院GID診療ガイドラインに基づいて行っていますので、当院でGD/GID治療を希望される方はすべて、当科のGID認定医にお問い合わせください。

なお、現行の我が国の保険体制において、GD/GIDへの身体的治療は保険収載されていません。診療上、起こり得た合併症治療についても保険適用外となりますので、くれぐれもご留意ください。

性別違和を有する方へ

GD/GIDの治療の目的は、当事者の生活の質(QOL)の改善にあります。必要以上の治療を受けることは、かえってQOLを損ねることもあります。性別違和にお悩みの方がみえましたら、当科GID専門外来への受診をお願いします。学会認定医は泌尿器科に在籍しておりますので、まずは泌尿器科にお問い合わせください。なお、他科に直接来られても、受診できないことがありますので、ご注意ください。