先進医療への取組
腹腔鏡手術

腹腔鏡手術とは

開腹手術(あるいは開創手術)は、一般的な手術方法の概念で、手術に必要な皮膚切開を行い、皮下組織や筋肉などの組織も同様に切開して、手術目的の臓器や場所に到達する方法です。進行した癌の手術や、手術を行う部位が広範にわたる場合などは、大きな手術視野を得るために、切開創が大きくなることもあります。従来は、手術と言えば開創手術でしたが、1990年頃から、開腹手術の代わりに、内視鏡を用いた腹腔鏡手術が行われるようになり、現在では泌尿器科領域の多くの手術で腹腔鏡下手術が保険適用となり、標準手術として行われています。

腹腔鏡手術では、お腹に1㎝程度の切開(穴)をあけて(手術の種類によって3~5か所程度)、内視鏡や手術のための鉗子(かんし)やハサミを挿入するための筒(ポートと言います)を挿入します。お腹の中にCO2ガス(炭酸ガス)を入れて膨らませ(気腹といいます)、ポートから挿入した内視鏡により腹腔内(術野)の状態をモニターに映し出します。手術者は、モニターを見ながら、他のポートから挿入した手術道具(ハサミや鉗子)により手術を行います。

泌尿器Cure & Care Uro-Lo(メディカ出版)、21(6)、p38、p50、2016(神山佳展、腎がんの手術について患者さんに説明しよう)より転載

泌尿器Cure & Care Uro-Lo(メディカ出版)、22(2)、p16、2017(大杉治元、腹腔鏡下副腎摘除術の術前・術後管理)より転載

腹腔鏡手術の対象(名大泌尿器科で実施している手術)

泌尿器科では、多くの腹腔鏡手術が保険適用とされ、標準手術として行われています。

腎摘除術

腎がんなどに対する根治的腎摘除術(腎臓を周囲の脂肪なども含めて全部摘出)

腎部分切除術

腎部分切除術(腎腫瘍のみを切除して、残りの正常な腎臓は温存する)
→最近では、ほとんどがロボット支援下腎部分切除術に置き換わっています。

腎尿管全摘除術

腎盂がんや尿管がんに対して、腎臓と尿管を摘除します。

副腎摘除術

副腎腫瘍などにおいて、副腎を摘除します。

腎盂形成術

腎盂尿管移行部狭窄(腎臓からの尿管への尿の通過障害があり、腎臓が腫れて水腎症となる)に対して、狭い部分を切除して、腎盂と尿管をつなぎなおします(形成する)。

膀胱全摘除術

浸潤性膀胱がんに対して、膀胱を全摘除します。

前立腺全摘除術

前立腺がんに対して、前立腺を摘除します。現在では、ロボット支援下の手術に置き換わり、腹腔鏡手術はほとんど行われません。

後腹膜リンパ節郭清術

精巣がんの治療の一環として、腹部のリンパ節を摘除する手術です(実施している施設は少ないですが、名大泌尿器科では先進医療として行っています)。
その他にも腹腔鏡手術で行われる手術がありますが、以上のように多くの泌尿器科手術が腹腔鏡手術として行われています。
名大泌尿器科では、ロボット手術に置き換わっている手術(腎部分切除術、前立腺全摘除術)もありますが、腹腔鏡手術を中心に行っており、年間80例以上の腹腔鏡手術を行っています。

腹腔鏡手術の利点と欠点

腹腔鏡手術は、開創手術に比べて多くの利点があり、低侵襲手術と言われています(患者さんの身体に対する障害度が少ない)。

  • 出血量が少ない:内視鏡下の拡大視野で手術を行うため、出血量が少ないことが利点です。
  • 術後の痛みが少ない:皮膚や筋肉を切開しないため、術後の痛みが少ない。
  • 術後の回復が早い:手術にもよりますが、翌日から食事と歩行を開始でき、回復が早く得られます。
  • 入院期間が短い:術後の痛みが少なく、回復も早いので、入院期間が短くなります。
  • 社会復帰が早い:術後回復が早く、入院期間も短いので、仕事にも早く戻れます。

など、腹腔鏡手術は開腹手術に比べて多くの利点があります。患者さんにとっての腹腔鏡手術の欠点はあまりありませんが、開腹手術に比べて若干手術時間が長くなる傾向があることと、医師にとっては、手術の難度が上がりますので、習熟するのに時間がかかることが欠点として挙げられます。

腹腔鏡技術認定

日本泌尿器内視鏡学会及び日本内視鏡外科学会では、腹腔鏡手術の安全な実施を目的とし、高い技術レベルの腹腔鏡手術技術を保証するために、一定期間の修練を行い、認定試験に合格した医師を腹腔鏡技術認定医として認定しています。名大泌尿器科では現在8名の腹腔鏡技術認定医が在籍し、腹腔鏡手術の実施・指導を行っています。

名大泌尿器科での腹腔鏡手術風景