本院輸血部のあゆみとご挨拶

名古屋大学医学部附属病院
輸血部教授
松下 正

名古屋大学と輸血の関わりは古く大正8年(1919年)に遡り、外科教授の斎藤實先生がクエン酸ソーダ加血液の輸血を行ったと伝えられております。その後の研究成果は昭和六年(1931年)に第32回日本外科学会総会において宿題報告として発表され、当時名古屋医科大学は日本における輸血研究の本拠であったと記録されております。

時は流れて、昭和26年(1951年)以降血液銀行が活動を開始しておりますが、供給源は昭和29年(1954年)日本輸血学会が発足した当時も現在のような献血ではなく売血でした。現在の血液法の前の形であった「採血及び供血あっせん業取締法」(昭和31年(1956年))もそもそもは売血を行う血液銀行を管理監督する法律として制定されたものです。この法律は後年の薬害エイズ事件を契機に「血液法」が制定されるまで、昭和39年(1964年)の有名なライシャワー事件を契機として輸血用血液をすべて献血によって供給する方針が内閣により立てられた折も継続され日本の輸血医療の管理法制として機能し続けました。

さて本院輸血部については、昭和47年(1972年)11月に当時の中央検査部の一部に間借りする形で発足しています。昭和50年(1975年)には検査技師は3名となって、当初は血液型判定と交差適合試験しか出来なかったところ、抗体スクリーニングから同定も実施できるようになっています。

平成14年(2002年)高松純樹先生が初代輸血部教授に着任され、松下は2代目と言うことになりますが、20世紀の時代、病院で輸血部が当直制をしいている所は例外的に少数であり、対策が急務であったところ、現在では国立大学病院の多くが採用している検査部技師との合同当直体制が高松先生によって確立され現在に至っています。かつて松下も経験した医師による血液型オモテ検査は廃止され、すべて技術を正しく習得した輸血部・検査部技師により行われています。輸血検査はその特質上現在でも用手法の技術が必要な分野で、正しい凝集反応の手順、その判定には熟練を要しますが、輸血部・検査部に所属する優秀な臨床検査技師のたゆまぬ修練によって24時間の輸血検査体制が維持されているというわけです。

また高松先生は平成15年(2003年)日本輸血・細胞治療学会理事長に就任、率先して輸血の安全性の問題に取り組み、後に名古屋モデルとも呼ばれる、タイプアンドスクリーンによる交差適合試験の省略による精度の向上、払い出しの迅速化、医師と看護師による部署での読み合わせ、そして電子カルテ導入後にはバーコードリーダーによるリストバンドと製剤バーコードの照合と、現在国の「輸血療法の実施に関する指針」に盛り込まれ、日本中の標準となっている輸血安全対策は当院で初期に実践されたものでした。

輸血部による院内細胞治療療法の流れは、昭和50年代の成分輸血のあたりからスタートし、血小板、新鮮血漿、顆粒球採取などをへて昭和58年(1983年)には成分採血室が開設されています。この基礎があって現在の自己血・末梢血幹細胞採取、そして令和3年(2021年)から取り組んでいるCAR-T細胞療法にかかる採取業務の高品質が維持できていると考えております。

松下は2010年から輸血部のお世話をさせて頂いていますが、血液内科から多くの凝固線溶疾患、血栓症のスペシャリストの参画を得て、近年増加する一方の大量輸血を伴う希釈性凝固障害への対策に注力しております。一方松下は厚生労働省、後AMEDの松下班を六年二期運営し、「科学的根拠に基づいた輸血ガイドライン」に取り組み、新しい科学的なガイドライン策定の手法による厚生労働省の「血液製剤使用指針」の大改訂を平成29年(2017年)に行っています。現在松下は令和元年(2019年)、日本輸血・細胞治療学会理事長に就任し、日本の輸血医療の国際的な飛躍を目指して様々な活動に取り組んでいるところです。

引き続き皆様のご指導・ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

令和4年12月吉日

業務内容

輸血部では、輸血療法のコンサルテーションにより血液製剤の適正使用を推進し、製剤(特に新鮮凍結血漿、血小板)の使用量を減少させています。未使用血液製剤の転用を促進し、廃棄製剤を大幅に減少させています。また、50種類以上の血漿分画製剤を管理・供給し、クリオプレシピテートは年間750本以上を作成しています。さらに、細胞治療分野での診療科支援も積極的に実施しており、先進医療を推進するだけではなく、安全に遂行できるよう努力しております。各診療科の多種多様な要望に対して柔軟に対応し、患者さんにとって最善の輸血・細胞療法を提供いたします。

  1. 輸血関連業務
    • 輸血用血液製剤の赤血球血液センターへの発注
    • 輸血用血液製剤の保管・管理・供給
    • 輸血用血液製剤の分割・洗浄
    • 血漿分画製剤全般の管理・供給
    • 輸血遡及調査のための輸血前検体保管
    • 輸血副作用調査、輸血歴及び輸血検査歴の保管・管理
    • クリオプレシピテートの作成
  2. 輸血関連検査
    • 血液型検査(ABO式、Rho(D)式、他)
    • 不規則抗体検査
    • 不規則抗体同定検査
    • 交差適合試験
    • 抗体価検査
    • 亜型検査
  3. 自己血輸血関連業務
    • 貯血式自己血採血・保管・管理・供給
  4. 移植関連業務
    • 自家・同種末梢血幹細胞採取及び凍結保存・管理・供給
    • リンパ球採取・単核球採取及び凍結保存・管理・供給
    • 同種骨髄液および末梢血幹細胞液からの赤血球・血漿除去処理
    • 臍帯血保管・管理・供給
  5. 高度先進医療
    • CAR-T細胞療法(キムリア・ブレヤンジ・イエスカルタ)に使用する細胞の保管・管理・供給
    • テムセルHS注の保管・管理・供給
    • ハートシート製造用血清分離
    • 治験製剤の保管・管理・供給
  6. 輸血療法の安全性確保のための取り組み
    • 輸血療法委員会の開催
    • 院内への情報提供
  7. 中央採血室業務
  8. 教育
    • 臨地実習生への研修
    • 医学部学生への教育・講義
  9. 日当直体制
    • 当直:臨床検査部門全体で実施
    • 日直:輸血業務経験者のみで実施

業績

論文

  • 鈴木 伸明, 松下正 他:血液凝固第IX因子濃縮製剤へのアレルギーに対する減感作療法の有効性. 日本輸血細胞治療学会誌,68(3):422-7,2022.
  • 加藤千秋,渡邊友美,遠藤比呂子,松下正:自動輸血検査システムORTHO VISIONTMを使用した抗体価測定.日本輸血細胞治療学会誌,63(4):585-591,2017.
  • 加藤千秋,渡邉樹里,松岡弘樹,遠藤比呂子,渡邊友美,松下正:全自動輸血検査装置Erytra Eflrxisを用いた不規則抗体スクリーニング.医学検査,71(1):87-94,2022
  • 加藤千秋:輸血部門での対応 他部署・多職種とのコミュニケーションのとり方.Medical Technology,50(10):1087-1091, 2022.
  • 渡邊友美,加藤千秋,遠藤比呂子,川上萌,西田謙登,松下正:0.8%赤血球浮遊液における不規則抗体の検出.日本輸血細胞治療学会誌,66(3): 538-544,2020.

学術集会における演題発表 2016年-2022年

  • 加藤千秋,西田謙登,横山覚,川上萌,遠藤比呂子,渡邊友美,松下正:自動血球洗浄システム セルウォッシャーUltraCWⅡの輸血検査における有用性の検討.第67回日本輸血・細胞治療学会,2019.
  • 加藤千秋:副作用発生時の検査技師の対応:2019年度赤十字血液シンポジウム(東海北陸ブロック),2019.
  • 加藤千秋:コンピュータークロスマッチの運用紹介.ORTHO近畿ユーザー会, 2019.
  • 加藤千秋,松浦秀哲,杉浦縁,石原慶子,深見晴恵,林恵美,丹羽玲子:全自動輸血検査装置を用いた抗A/B抗体価測定と試験管法の比較 愛知県多施設共同研究より.日本輸血・細胞治療学会東海支部例会,2021.
  • 加藤千秋:愛知県合同輸血療法委員会活動と院内活動~認定輸血検査技師の立場から.第77回日本輸血・細胞治療学会東海支部例会,2021.
  • 渡邊友美,加藤千秋,武村和哉,遠藤比呂子,松下正:全自動輸血検査システムを用いた抗体価測定.第64回日本輸血・細胞治療学会総会,2016.
  • 竹腰 正広,鈴木孝佳,渡邉樹里,江村玲香,横山覚,渡邊友美,加藤千秋,松下 正:SARS-CoV-2感染が寒冷凝集を引き起こす可能性の検討.第78回日本輸血・細胞治療学会東海支部例会,2022.
  • 古村恵理,長井りさ,亀山なつみ,渡邉友美,山本ゆか子,加藤千秋,鈴木伸明,松下正:当院の末梢血幹細胞採取におけるCD34陽性細胞回収率に影響を与える因子の検証.第70回日本輸血・細胞治療学会,2022.
  • 亀山なつみ,古村恵理,渡邉友美,山本ゆか子,加藤千秋,鈴木伸明,松下正:造血前駆細胞数による末梢血幹細胞採取予測の有用性評価.第70回日本輸血・細胞治療学会,2022.

松下正教授の業績一覧はこちら

組織紹介

集合写真

常勤医師2名の他、非常勤医師1名、臨床検査検査技師6名、看護師2名で構成し、あらゆる業種のメディカルスタッフに開かれた輸血部を目指しています。

氏名 役職 職種 保有資格等
松下 正 輸血部教授
検査部長
副病院長
医師 日本輸血・細胞治療学会認定医
日本血液学会専門医・指導医
日本血栓止血学会認定医
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本臨床腫瘍学会暫定指導医
American Association of Blood Banks
American Society of Hematology
American Society for Biochemistry and Molecular Biology
International Society of Blood Transfusion
International Society on Thrombosis and Hemostasis
全国大学病院輸血部会議副代表幹事
鈴木 伸明 輸血部講師 医師 日本内科学会総合内科専門医・認定医・指導医
日本血液学会認定血液専門医・指導医
日本輸血・細胞治療学会認定医
日本血栓止血学会認定医
渡邊 友美 輸血部主任 臨床検査技師 日本輸血・細胞治療学会認定輸血検査技師、日本輸血・細胞治療学会細胞治療管理師
亀山 なつみ 臨床検査技師 日本検査血液学会認定血液検査技師
横山 覚 臨床検査技師
江村 玲香 臨床検査技師
鈴木 考佳 臨床検査技師
古村 恵理 看護師 日本輸血・細胞治療学会認定臨床輸血看護師、日本輸血・細胞治療学会認定アフェレーシスナース
長井 りさ 看護師