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膵臓がん

世界トップレベルの業績

 膵臓の手術は、術後膵液漏などの合併症の危険性が高く、また、非常に専門的な知識や技術が要求され、決して簡単なものではありません。当教室では、先代の中尾昭公教授(現・名古屋セントラル病院院長)を中心に膵がんの手術に取り組み、過去30年間で約1000例にのぼる膵切除手術を経験してきました。膵がん治療は、本邦のガイドラインでは、「専門の外科医による周術期管理に優れた施設」で受けることが推奨されており、そういった手術症例数の多い病院をhigh volume centerと呼びますが、当教室もこれにあてはまります。さらに当教室では、アンスロンバイパスカテーテル(門脈血を下大静脈にバイパスし、術中の出血量を減らす)のテクニック(Nakao A, Hepatogastroenterology. 1995)や術後管理の工夫により、安定した手術成績を報告してきました。現在、当教室では最新の知見や技術を取り入れ、患者さんの不安をできるだけ取り除き、安心して手術を受けて頂けるように、高難度手術と診療に取り組んでおります。

 

メディアでも取り上げられました

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週刊新潮(2013年4月18日号)週刊新潮(2013年4月18日号)

日本経済新聞(2014年1月16日)日本経済新聞(2014年1月16日)

読売新聞(2015年11月1日)読売新聞(2015年11月1日)

他、以下のメディアでもとりあげられました。
中日新聞(2016年6月10日)
週刊朝日(2016年6月17日号)

日刊ゲンダイ(2016年6月29日)
週刊新潮(2016年11月10日号)

研究結果報告
Journal of Gastroenterology(2016年5月11日付)
膵頭部癌についての新しい治療方針について

今までの手術成績

膵切除手術数 手術死亡数
1990-1994 111 1(原因:術後出血) 0.9%
1995-1999 142 1(原因:脳出血) 0.7%
2000-2004 157 0 0%
2005-2009 336 0 0%
2010-2014 379 0 0%

 

※ 日本全体の膵頭部手術死亡は2.8%と報告されています(Kimuraら、2014)

 

 

1. 膵がん手術の新展開

 これまで、手術だけが膵がんの治療とされていました。そのため、広範囲リンパ節郭清、動脈合併切除といった拡大手術が積極的に行われてきました。しかしながら、いくら激しい手術を行っても、膵がん患者さんの生存率を向上させることはできませんでした。つまり、「手術で切除できた=膵がんが治る」ということではなかったのです。激しい手術により、著しい体重減少や栄養障害などで、その後の抗がん剤治療ができずに短い最期を迎えてしまうことも少なくありませんでした。もちろん、現在でも手術で切除することは極めて重要です。しかし手術だけでなく、術前や術後の抗がん剤治療をうまく組み合わせることによって、はじめて良好な治療成績を得ることができます。ひどい下痢や栄養障害を起こさないようなバランスのとれた手術に加え、放射線治療、抗がん剤による化学療法、栄養管理などを上手く組み合わせて行うことが、膵がんを克服するために最も重要なことだと考えられています。

当教室の膵がん治療の特徴

A. 「胃切除範囲」について

 従来の膵頭部がんの手術では、胃の半分を同時に切除していました。そのため、食事が十分に摂れないなどの後遺症が残ってしまいました。その後、1980年代より胃を全部、出口(幽門輪)まで残す手術方法が普及しました。この方法は栄養面で最善かと思われたのですが、一時的に胃の出口で食物が詰まってしまうというトラブルが増えることとなりました。当教室では、過去のデータを分析することにより、もっとも栄養状態を良好にするのは、胃を9割程残す、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(胃は全部し、出口(幽門輪)のみ切除する)であると考え、その知見を取り入れています。もちろん、がんの根治性には問題なく、それどころか、栄養状態が良好となるため、この亜全胃温存術式が最も生存率が良好であるという分析結果でした(Fujii T, Ann Surg Oncol 2011)。

B. 「神経叢郭清」について

 従来の手術では、上腸間膜動脈周囲にある神経叢を半分切除してしまうのが正しいとされていました。現在でも、この方法を取り入れている施設は多くあります。しかし、この神経叢を多く切除すると、手術後にひどい下痢が続き、体重は激減します。この栄養障害により、術後の抗がん剤治療ができない、ということもよくありました。さらに、これは日本だけの方法で、欧米では行われていません。また、この神経叢を切除したからといって生存率が改善するという医学的データはありません。当教室では、術前の画像診断や手術中の病理診断により、切除がどうしても必要なのか、切除する必要がないかを十分検討し、原則的には神経叢を温存する手術を行っています。この方法により、手術後の患者のQOL(Quality of Life:生活の質)も良い状態で維持できますし、抗がん剤治療の副作用にも苦しむことなく続けられると考えています。

C. 膵がん術前療法

 ある程度進行してしまった膵がん(門脈や動脈までがんが浸潤している状態)は、どれほどの名医が手術を行っても再発率がほぼ100%であることは、外科学の世界では常識です。したがって当教室では、CT画像などで「切除可能性分類」を行い、それぞれの状態にあった治療方法を提案しています(図)。現在、膵がんと診断された方には、少しでも治療成績をよくするために、原則としてまず術前治療(抗がん剤や放射線治療)を行います。
・切除可能膵がん ー 「切除可能」と診断された方には原則として約1か月半の抗がん剤治療(ゲムシタビン+S-1療法)を行い、その後に手術を行います。
・切除可能境界膵がん ー 一方、「切除可能境界」とされた方には、腫瘍の状態に応じて手術前に放射線治療と抗がん剤治療を併用して行う術前化学放射線療法や、新しい抗がん剤を用いた化学療法(術前化学療法)の後に手術を行っています。
・切除不能膵がん ー 残念ながら「切除不能」と診断された方には、原則的に抗がん剤治療や化学放射線療法を行います。しかし、近年の抗がん剤の進歩により、従来は切除不可能と考えられた病巣を縮小させて切除可能となった患者さんも多く経験するようになりました。そのため、「切除不能」と診断されても、切除をあきらめずに積極的に抗がん剤治療を行っております。
 当教室では、このような術前治療を取り入れることによりがんの再発率が低下し、生存率が大幅に改善したことを報告しました(Fujii T, Medicine 2015)。主に門脈や総肝動脈、上腸間膜動脈といった膵臓周囲の大きな血管にがんの浸潤が疑われ、切除困難と画像診断された患者さんを対象として術前治療を行ってきていますが、重篤な副作用の出現はなく、腫瘍マーカーの著明な低下を認めています。これにより切除に至った摘出標本の顕微鏡検査では、70〜80%のがん細胞の消失が確認されています。画像や治療計画の図表は下でご覧になれます。膵がんという病気は、「拡大手術+一般的な抗がん剤治療」では十分な治療効果が得られないことはもはや明白であるため、新しい治療方針や方法を積極的に取り入れています。また、高齢者や栄養状態の悪い患者さんには早期から栄養介入を行い、術中に経腸栄養tubeを留置し、術後早期から良質な栄養を投与することで術後の回復を早めることも試みております。結果として、早期に社会復帰される、あるいはご自宅で元通りの生活をされるようになればと考えております。当教室では、名大病院の放射線科、化学療法部、消化器内科、栄養管理部などの専門家チームとも共同して、膵がん治療の改善や進歩を目指しています。

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術前化学放射線治療のスケジュール術前化学放射線治療の
スケジュール

術前治療による効果術前治療による効果

がん細胞の減少・消失がん細胞の減少・消失

D. 新しい抗がん剤治療

 2013年12月に、「FOLFIRINOX療法」という治療が、2014年12月に「nab-paclitaxel」という薬剤が本邦で承認され、それ以降も新しい薬剤が出てきています。このように有望な抗がん剤治療は、もちろん当教室でも行っております。化学療法で最も心配なのは副作用ですが、化学療法部の専門家と共同して治療を行いますので、最善の対策をすることができます。最新の治療法として、手術前にこのような新規抗がん剤治療を行うことがありますが、この場合も外科医と化学療法医が同時に治療にあたりますので、より高い抗腫瘍効果を目指しながらも、手術に支障が無いように配慮することができます。
 また近年は膵がんに対する遺伝子検査を行うことも増えてきています。残念ながら切除不能膵がんや再発膵がんと診断された方々に対して、「マイクロサテライト不安定性検査」「遺伝子パネル検査」「BRCA1/2遺伝子検査」などを行い、患者さん個人個人に適した治療法がないか模索することも行っています。当院には遺伝カウンセラーや遺伝子検査の専門家(化学療法医や病理医など)もいますので、協力して患者さんに適した治療法を検討しています。

E. 新しい治療の開発

 大学病院の特徴として、新しい治療の開発や研究を行うというものがあります。当教室で臨床研究として行っている治療法として、「切除不能局所進行膵癌」に対してGemcitabineとnab-paclitaxelという抗がん剤の併用療法に放射線を追加して行う治療を行っております。今までの12名の患者さんにこの治療を行った成績を報告しておりますが、12名中6名の方が、根治手術を受けることが可能でした(Yamada S, Cancer Chemother Pharmacol 2018)。現在もこの画期的な治療を継続しており、今後のさらなる結果が非常に期待されています。

F. 膵がんキャンサーボード

 名大病院では、各科に膵がんの専門家が揃っています。消化器外科、消化器内科、化学療法部、放射線科、放射線治療部の専門家が定期的に集まり、「膵がんキャンサーボード」を行っています。治療の難しい症例であっても、専門的な話し合いにより、最善の治療を行えるようにしています。

2. その他の膵腫瘍

 その他に外科的治療が必要な膵疾患として、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、膵神経内分泌腫瘍(PNET)、充実性偽乳頭腫瘍(SPN)、腫瘤形成性膵炎などがあげられます。これらの疾患の中で悪性度が低いものに対しては、将来の糖尿病発生など後遺症を防ぐため、膵中央切除術などの膵臓機能を温存する術式や、腹腔鏡手術などの低侵襲手術を行っています。低侵襲手術といっても、膵がんに対する手術と同様に高度な技術と術後合併症への対応が必要ですが、細心の配慮をもって診療にあたっています。

3. 膵手術後の合併症対策 - われわれの膵瘻に対する取り組み -

 膵手術においては、術後に重篤な合併症が非常に高頻度(一般的には10-40%)に発生します。中でも最も重篤なものは、吻合部より膵液の漏れる「膵液瘻」といわれる合併症であり、これは血管自己融解による大出血となることもあります。当教室における過去の経験の蓄積から、これらの合併症に対しては様々な対策を行ってきました。周術期管理を工夫し、膵頭十二指腸切除術における膵空腸吻合法の変更(Blumgart変法吻合の導入)、膵体尾部切除術における膵断端処理の工夫、さらにはドレーン管理を含めた周術期感染対策の徹底などを行いました。その結果、膵液瘻の発生率は大幅に低下し、これによる術後在院期間の短縮が可能になりました(グラフ)。さらには、大学病院ではこれらの様々な重篤な合併症を、放射線科・消化器内科・ICUなどの優れた専門家と共同して治療にあたることができ、合併症が起きた際にも最善の対応がとれる体制を整えています。

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膵液漏発生頻度の改善膵液漏発生頻度の改善

膵液漏発生頻度の改善

4. 良性・低悪性度膵腫瘍

 良性・低悪性度膵腫瘍に対しては、より体に負担の少ないとされる腹腔鏡を用いた膵切除術を積極的に行っています。特に、これらの疾患は若い女性の患者さんに見つかることが多く、腹腔鏡手術は開腹手術と比べて傷も小さく、大きなメリットがあります。また、術後経過としても非常に安定した成績が得られています。

過去の多くの業績・経験に、さらに最新の技術、最先端の知識をとりいれて、膵臓外科チームは、より安全な手術・生存率の向上のために日々奮闘しております。

より体に負担の少ないとされる腹腔鏡を用いた膵切除も開始

より体に負担の少ないとされる腹腔鏡を用いた膵切除も開始

5. 現在進行中の主な臨床試験

 膵がんの治療成績や治療の安全性を高めるため、様々な臨床試験を行っております。

  • Borderline resectable膵癌に対するゲムシタビンおよびnabパクリタキセル併用化学放射線療法
  • 切除不能膵癌に対するゲムシタビン+nabパクリタキセル併用化学放射線療法の放射線のタイミングについての比較試験
  • 膵癌切除後の腹膜再発(ゲムシタビンとフッ化ピリミジン系抗癌剤不応)に対するパクリタキセル経静脈・腹腔内併用療法
  • 切除不能進行および再発膵癌に対するゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用化学療法におけるコウジン末(TJ-3020)支持療法ランダム化第II相試験
  • 腹膜転移を有する膵がんに対するS-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内投与併用療法の無作為化比較第III相多施設共同臨床試験(jRCTs051180199)

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病気と治療(当科の特色)
名古屋大学医学部附属病院
〒466-8560 名古屋市昭和区鶴舞町65番地
 TEL 052-741-2111(代表)
 【休診日】 土・日曜日、祝日、振替休日、
年末年始(12月29日~1月3日)

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